6 検品
「……どこに行くの?」
前田の膝の上に座らされた優華が背後にいる前田を肩越しに見ながら口を開いた。
「そんな遠出はしない。婦警さん達はお仕事中なんだから長い時間拘束してたらまずいだろうし……そうだ」
前田はふと何かを思い付いたのか左腕で優華の腹を抱えるように押えながら右手で自分のポケットをまさぐった。
「一応、これをしておかないと」
「えっ、ちょっと何を……」
僅かに優華が前田から離れようとするが、前田は彼女を後ろから抱きしめて押さえていた。
「目隠しされた方がスリルがあるでしょ?」
そう言いながら前田はポケットから取り出したバンダナを優華の顔に巻き付け、後頭部できつく縛った。
「な……やめて、外してよ!」
視界を失った優華はなんとも言ぬ恐怖感に襲われ、不安そうに顔を左右に振る。
今周りにいるのは婦人警官レイプ犯であり殺人者。
見えない事に乗じて何をされるのか。優華は生きた心地がしない。
「大丈夫だって。この中じゃ何もしない……狭いしな……ところで」
そっと前田が背後から優華の耳元で囁くと、ふと何かに気付いたように言葉を続けた。
「喉、乾いてない?」
「……別に」
「いや、乾いてるはずでしょ。先輩に薬を飲ませたり外でずっと仕事したりして、緊張し通しでしょ?」
前田は強引に話を進めながら僅かに開く優華の唇にプラスチック容器を当てた。
優華の唇にプラスチックの持つ独特の冷感が伝わる。
「冷たいお茶。飲んで」
前田の言葉に反応して優華は僅かに開いた唇をきゅっと閉じた。
真理子に薬を飲ませた人間の勧める、何かわからない液体。飲まされると一体どんな目に遭うのか。
優華が口を閉じていると前田は彼女に優しく囁いた。
「大丈夫、睡眠薬とか毒薬とかは入ってない……それに飲まないって言うのなら……」
「………………」
前田はそこで言葉を切る。優華にはその先に続く様々な言葉が頭の中に次々と浮かんだ。
そのどれもが彼女にとって最悪な展開へと導く言葉であった。
もう男達に抵抗は出来ない。
優華はそう思うと黙って口を開いた。
「五〇〇ミリだけど……全部飲んでもらう」
そう言うと前田はゆっくりとペットボトルと思われる容器から中のぬるいお茶を彼女の口に流し込んだ。
こくん、こくん、こくん……
優華の喉を少し苦味のあるお茶が流れ込む。しばらく口の中にお茶が入ると前田はさっとお茶を優華の口から離した。
「んく……んはっ、はあ、はあ……」
「まだ半分も言ってない。ほら、飲んで飲んで」
少し優華の息を整えさせると前田は再びお茶を優華の口に流し込み始めた。
それから前田は飲ませては休め、飲ませては休めを繰り返してお茶を優華に飲ませ続けた。
自分が一体どれくらい飲まされているのか、目隠しされた優華には分からない。
前田は五〇〇ミリと言っていたが実は二リットルではないのかとふと、思ってしまった。
「はあ、はあ……」
全てを飲み干した優華がどっと疲れた様子で肩で息をしていると前田が急に両手で彼女の腹を抱き締めた。
「うくっ!」
「シートベルト、しないとな」
悪戯っぽく前田がそう言った。優華の腹にベルトで締め付けられるよりも優しく、しかし強い圧迫感が与えられた。
お茶で満たされた胃から一瞬それが逆流するかのような不快感を優華に与える。
優華はムッとした物を感じたが前田達に何を言っても無駄である事はこれまでの付合いで学習済み。ムッとしたままで口を真一文字に閉めて黙り込んだ。
「へへっ、それにしても婦警さんの先輩もいい女だよなあ〜」
「!」
冗談っぽい松永の声が優華の耳に入って来た。
目隠しで何も見えないが、恐らくあの爬虫類のような目で眠らされている真理子の体を舐めるようにしながらじろじろ見ているのであろう。
「……先輩に手を出さないで……」
叫びたいがその声は喉の奥から搾り出されるような小さめな物だった。
狭い車内でその声は松永に充分届くはずなのだが、聞こえてくる松永の声や息遣いは自分の言葉を無視した物であった。
「……胸は婦警さんよりも小さめか……でも、そのお陰でショートカットがよく似合ってますね、前田さん」
「ああ。この婦警さん二人で全然違うキャラみたいだし、楽しみが二倍って訳だ」
見えはしないが前田の口元がにやついているのは容易に想像がついた。
優華は目隠しの下でその瞼を閉じた。
(先輩、すみません)
そして心でそう呟いた。
自分が一服を盛らなかったら真理子はこんな獣4匹の見世物になる事はなかった。
自分のせいで真理子が背筋も凍るような目に遭おうとしている、いや、もう遭っている。
それだけではない。
警察官なのに殺人犯を野放しにしている。しかもその殺人の引金は自分が引いたような物。そしてそいつらに好き勝手にレイプされ、無理矢理に縁を繋がれ、立ち切る事ができないでいる。
(私が……私が……)
この一ヶ月、婦人警官の制服を着て、その仕事をする事でどうにか抑えながら徐々に癒してきた心の傷が一気に開き始めていた。
そしてそこから次々と色々な景色が吹き出してきた。
優華はたまらずに背中を丸め、頭を垂れて弱く首を左右に振った。
(……ごめんなさい、ごめんなさい……)
次から次へと吹き出すこの一ヶ月で自分が犯した罪、あるいは犯罪的な行動に優華の目を閉じる力を強くさせた。
すると閉じた瞼に様々な人々の顔が浮かんで来た。
殺人事件の被害者のお婆ちゃん、真理子、警察署の同僚、上司、優華を婦人警官として頼りにしている人々、両親等々……とにかく、優華は闇の中で何度も何度も謝り続けた。
だが目を開けてそれから抜け出そうとはしなかった、いや、出来なかった。
目を開けてもし、この目隠しが外されたら新たな悪夢がこの目の前で繰り広げられるから――。
前田の膝の上、前田の腕のシートベルトに腹を食い込ませるように背中を丸めてただただ心の中で謝り続けた。それで何かが救われる事はないにも関わらず。
「前田さん、デジカメあります? この婦警さんの寝顔を撮っておいた方がいいでしょう」
「そうだな……野村、お前持ってるよな?」
「は、はい……これなんだな」
「へへっ、ついでにあの目隠し婦警さんも撮っておきますよ」
「全く、婦警さんの写真が増えてくな。それはそれでいいけどな」
そんな優華の様子など全くお構いなく、前田達は能天気なはしゃいだ声を上げていた。それらが優華の耳に入ってくるほど、彼女に余裕はなかった。
優華と真理子、そして前田達を乗せたワゴン車は目隠しをした優華の三半規管を狂わそうとでもするように何度もカーブを曲がり、止まったり発進したりを繰り返しながら走り続けた。
優華はその間、開いた傷から止めどなく流れ出るこの一ヶ月のフラッシュバックに苛まれ続け、どれくらい自分が車に乗り続けていたのか、どんな場所に車がいるかなど感じる事はできずにいた。
ガクン!
そんな優華を現実に引き摺り戻すかのように車が大きく揺れて止まった。優華はここで久し振りに両瞼を開けた。だが、彼女の眼前は暗いまま。目隠しはされたままだった。
ガララララッ!
その時、優華のすぐ左側にあるスライドドアが開く音がした。
「ほら、婦警さん。着いた降りて」
優華を抑え続けた前田がそっと腹にまわした腕を外した。すると次の瞬間、優華の左の二の腕がぐっと力強く握られた。
「お、降りるんだな」
そんな野村の声と共に優華は車から引き摺り下ろされた。
何も見えず、足を上手く運べないで危うく転びそうになったが、腕を取った野村が彼女を支え、そのまま牽引するようにどこかに連れていった。
「どこ……ねえ、ここはどこなの!」
「あんまり騒がない方がいいんだな」
優華が動揺したように少し声を大きくして野村に訊くと、野村は握っている優華の二の腕をさらに強く握った。
「痛っ! わかった……わかったから……」
逆らえない。野村の腕力に改めて優華はそう思い、絶望感に体の力を抜いた。
それから優華は何か階段のような物を登らされ、足元に色々な物が散乱したどこかに連れ込まれた。
優華にはそれが室内、しかもまともな室内ではないと感じられた。
優華の自由が効く数少ない感覚器、鼻が埃っぽい空気や黴臭い臭いを感じ、耳が妙にしんとした沈黙を聞いていたからだった。
野村に捕まれたまま、そこでしばらく立ち尽くさせられた。優華はそっと足を動かしてみた。
コツン……。
ブーツのつま先が固い何かに当り、それがコロコロと転がっていった。
バタン!
「……よし、野村目隠しを外せ」
そんな時、背後からドアが締まる音と前田の声が聞こえた。すると優華の後頭部にある目隠しの結び目がしゅるしゅると解かれ、久しぶりに彼女の目に光が入った。しかしその光は眩しい太陽の光ではなく、辺りを照らすのでやっとと言う程度の裸電球の光だった。
そんな弱い光に浮かぶ光景、それは窓もない部屋の中、埃塗れのカーペット敷きの床に空き瓶やゴミが散乱し、やはり埃で色の変わったテーブルやソファが並ぶ、そんな光景だった。
そこが潰れたスナックかクラブである事は部屋の様子ですぐにわかった。
「ここは……」
「もう一年くらい前に潰れたスナック。ここは何やってもすぐに潰れっから次の買い手がなかなかつかねえんだ。だから、このままにされてるって訳」
前田ではなく松永が軽い調子ではそう言うと立ち尽くす優華の背後から近付き、きゅっと、まるで彼氏が彼女を驚かそうとするように抱きついた。
「ひっ!」
その瞬間、ビクッと優華が硬直させるように全身を振るわせると松永はふっと笑い、体ごと一八〇度その向きを反転させた。
「ほら、こっち見てみろよ」
「せ、先輩!」
体の向きを変えた優華の視線の先には埃塗れのソファの上で横になる手錠を掛けられた真理子の姿があった。
今の状況にも関わらず真理子はまだ何も知らずに眠ったままであった。
優華を拘束する為か、ただの戯れからか背後から抱き締めながら松永が彼女の顔のすぐ横から真理子を見つめた。
「それにしても前田さん、本当に弱い薬なんですか?」
「ああ。でも、こんなにぐっすり寝るんだから相当疲れてたんだな……大変だなあ、婦警さんも」
そう言いながら前田は一緒に持って来た真理子のショルダーバックを開き、その中から彼女の警察手帳を取り出した。
「……桜井真理子巡査、二十六歳……この前婦警さんが言った通りのようで……」
前田が手帳を確認するとそれを真理子のそばに立つ吉田にポンと、放り投げて手渡した。
すると吉田はそれをテーブルの上に広げて撮影した。
その様子を見た前田がうんと一つ頷いた。
「よし……さてと……ちょいとこの桜井巡査がどんな婦警さんか調べるか」
「そうこなくっちゃ!」
松永が囃し立てるように言うと前田はそっと真理子が横になるソファのそばにしゃがみ、スカートからすらっと伸びるロングブーツに覆われた足に手を掛けた。
「やめて……やめて……」
何も言えぬ真理子を代弁するように優華が呟きのような声をあげていた。
そんな物に左右される事なく、前田は真理子のブーツが履かれた左の足首を掴むと足を開かせるようにそっと動かした。
「ご、御開帳ってヤツなんだな」
「そんな言葉は知ってるんだな、野村」
野村と吉田の視線を集め、ゆっくりと前田が真理子の足を開かせて行く。
その光景を優華はとても見ていられず、顔を背けたが、ぐっと顎を松永に捕まれて真理子の方を向けさせた。
「見てやれよ、先輩なんだろ?」
優華が再び真理子を見たその時、真理子の左足がソファの座るクッションから下ろされ、ブーツの底が床に置かれた。
今の真理子は仕事で疲れ果てた人間がソファで対面も何も関係なく横になっている様子と酷似していた。
さらに前田は仕事の手を休めない。足を開かせた真理子の膝上まであるスカートに手を掛け、それをゆっくりと捲り上げていった。
「な、撫でてやりたいくらいにいい脚なんだな……」
「早くヤリたいぞ!」
どうにか抑えた調子の野村と吉田の視線を浴びながら徐々に男達と優華に真理子の脚が露になっていく。
ブーツに覆われた膝下からパンストにつつまれた膝頭、そして太腿……真理子の張った脚は全ての男達を興奮させるに充分であった。
「本当、いい体してるな、婦警さんの先輩はよぉ」
「………………」
松永の言葉に優華は何も返さなかった。無理矢理に見せられる真理子の脚は女である自分にも軽い嫉妬を起こさせるくらい奇麗な脚だった。いい体をしている。それは確かな事であり、優華はそれに何も返す言葉が見つからなかったのだ。
スカートはついに太腿から股関節、そして下腹部まで捲られた。その瞬間、前田の口元が緩んだ。
「吉田、いい物があるから撮れ」
「へ?」
吉田と野村がそそっと前田のそばに行き、彼の視線の先を見た。するとパンストに包まれた彼女の下腹部にあまり色気のないショーツが穿かれている。
しかし、前田がいい物と言ったのはそれではない。そのショーツの脚が出る所から脚と一緒に縮れた毛が何本もはみ出していたのだ。
「ひゃ〜こんな奇麗な脚してて剛毛なんだ!」
「こ、これもおもしろいんだな」
吉田は毛がはみ出している部分をアップで撮ったり下腹部を鳥瞰するようにして撮ったりと真理子のパンストとショーツに包まれた下半身を次々デジカメに収めていった。
そんな様子を優華は今にも泣き出しそうな顔で見つめている。
「人って見かけによらねえんだなあ。あんな美人が剛毛とはねえ」
そっと優華に松永が囁いた。
「び、美人でも……関係ないでしょ…………それより……もう先輩をいじめないで……」
真理子が剛毛である事をまるで茶化すようにしている野村や吉田が彼女をいじめているように優華には映っていた。
松永はそんな優華の言葉にふっと小さく笑い、ふと、優華の肩を越えて彼女の下半身を見た。
「そう言やあ、婦警さんってアソコの毛、俺達剃ったんだったよなあ。どれくらい生えた?」
「!」
松永の言った事に優華はまたビクっと体を振るわせた。そして顔を床に向けた。
「…………」
しかし、結局質問に優華が答えらわけもなく、ただ黙り込んでいると松永は予想通りと言わんばかりにニヤッと一つ笑った。
「そっか、わかんねえのか……じゃあ……」
そう言うと松永は抱き抱えた手を制服の上着の下に滑り込ませると優華のスカートのベルトに手をかけ、器用にそれを緩めた。
「い、いやっ! 何をするの!」
「婦警さんが言えねえんだから、俺が確かめてやるんだ!」
松永の右手が柔らかな優華の腹を押してへこませ、それで出来たシャツとスカートの隙間に滑りこまされた。
「いやあ……」
優華は体を折り、もがくようにして動いて抵抗を試みたが無駄であった。
松永の手はシャツの下にあるパンストも、そしてその下のパンティの下に滑りこんで優華の下腹部を撫でた。
「お、やっぱ一ヶ月も経てばボーボーだな。また剃らねえとなあ」
「いやだ……やめて……触らないでよお!」
優華の悶えるような声に真理子に集中していた野村、吉田、そして前田が彼女の方を向いた。
「あ、松永さん抜け駆け!」
「お、俺も加わるんだな」
野村はすくと立ち上がるとどてどてと優華の下に行き、下腹部を撫でられて屈辱に歪む優華の顔に貪りついた。
「いやっ! んあああああっ!」
両手で顔を抑え、固定した優華の顔を野村の大きな口が貪り、べろべろと舐めていった。
「へへっ、可愛い声だな。じゃ、もう少し撫でるか」
「ああああっ、お願……んんんっ!」
早くもいじられている優華を見た吉田がちらちらと前田を見ながら優華を見ていた。
「ま、前田さん……こっちの婦警も見るだけじゃなくて……」
「慌てるな」
前田は捲った真理子のスカートをゆっくりと元のように戻し、脚も閉じさせて全てを元に戻していた。
「薬で眠らせてヤルのは臆病者だ。こっちは目覚めるのを待とう、それまでは……」
そこまで言うと前田はらんと輝く瞳を優華に向けた。
「あっちの婦警で楽しんでいよう」
「はい!」
前田のそんな言葉が合図になるように前田と吉田も優華に飛びついた。
「いやあ…………やめて………………やめ……て!」
松永は優華の下腹部に生えた陰毛を撫で、野村は優華の顔を舐め、そして新たに加わった吉田は制服の上から優華の胸を掴んだり撫でたり揉んだりしていじくり、前田はロングブーツやスカートの中の太腿の内側を撫でたり舐めたりし始めた。
くちゃくちゃ……。
「へへへっ……」
「いい感触だぞ!」
「んふう……はあ……いい脚だ……いい皮の香りだ……」
男にしてみれば華奢な感じのする優華の体。それに4匹の獣がたかり、その若く張りのある肌を楽しんでいた。
優華の全身にくすぐったさ、冷たさ、気持ち悪さ、圧迫感、痛み、とにかく様々な感触が走り抜け、言いようのない屈辱感にその身を洗われていた。
「…………やめて……た……たす…………けて……先輩…………」
男達の与える様々な感触に優華はうわ言のように呟いた。しかし、その口もすぐに野村に口で塞がれた。その瞬間、口で言えぬ感情を涙で表そうとするように彼女の目からこぼれた。
涙で霞む優華の視界に横になって動かない先輩真理子の姿があった。無論、真理子がその涙に、後輩の凌辱に気がつく事はなかった。