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 初めてのラブホテル。一応、ネットや本でどんなのかとかは調べてある。
 しかし、そんな事、とっくに頭のどこかに吹っ飛んでいた。
 部屋としては広くもなく狭くもない。僕と彼女だけの空間。その中にいるだけで胸は高鳴り、下半身はいきり立っていた。

「……こんなのなんだ……」

 緊張した様子で彼女は部屋を見渡す。持っているバックをクローゼットの上にとん、と置き、座るのも忘れてベッドや天井を見ている。
 僕はそんな彼女をファッションショーの舞台に立つモデルのように上から下まで見ていた。特に下。
 彼女の飾り気のない、シンプルな黒革のロングブーツ。しかし、その上には水滴が無数につき、それが部屋の照明に照らされてダイヤをちりばめたように輝いていた。
 やっぱり、ロングブーツは美しい。
 彼女のそれを見た僕の下半身は素直に反応し、もうこれ以上なくいきり立った。

「ねえ……ブーツ、拭いた方がいいんじゃないかな? 革って濡れたままじゃよくないんでしょ?」
「え? でも、これ、本物の革じゃないよ」
「同じじゃない? これ一つしかないんでしょ?」
「そう……ね」

 彼女はブーツを履いたまま、ベッドに腰掛けた。するとベッドの脇にある箱ティッシュに手を伸ばし、何枚か引き出すとそのまま手をロングブーツに伸ばした。

「……あ、僕が拭くよ」

 僕は彼女からティッシュを受け取ると彼女のロングブーツの傍らに屈んで優しく、そっと、撫でるように水滴を拭った。
 今日1日、あちこちを歩き回ったせいで足首やアキレス腱に行く筋もの皺が刻み込まれてその部分だけざらっとした感触と波打つような凹凸感が手から伝わってくる。

 さあっと、革の上をティッシュで滑らせる。

 革は雨の水のせいで少しの冷たさを感じさせる。しかし、それもすぐだった。ティッシュで優しく拭ううちに僕の体温が伝わるのか人肌のような温もりができていく。
 人工皮革とは言え、僕の手に答えてくれている。そんな生き物を扱うような繊細で、なおかつ、返事のあるブーツがどうにも愛しく感じてきた。
 ブーツ特有の滑る革の感覚、小さなぬくもり。
 それが伝わるだけで僕の胸は早鳴り、何度も唾を飲み込ませた。
 既に粗方の水滴は拭い取られた。しかし、それでも僕はゆっくりとティッシュで撫で回す。これが愛撫ってやつなのかなあ。

 そんな事も思いつつ、ゆっくりと楽しむようにティッシュ越しに撫で回し続けた。
 ロングブーツに釘付けの僕の眼差し。だが、ふと、ベッドに座る彼女を見上げてみた。
 夢中でブーツを拭う僕を見るその眼差しに蔑みや憐憫はなく、なぜか妙に嬉しそうで、それどころかお気に入りのおもちゃを手に入れて遊ぶ子を見る母親のような、優しさすら見えた。

「……ねえ……」
「なに?」
「……ブーツに……あの……直に触ってもいいかな……」

 僕はそんな眼差しの彼女に少し、甘えてみた。女の子の肌じゃなくてブーツに触りたいなんて、引かれるんじゃないか。普通はそう思うがあの眼差しを見るとそれはないと思えた。

「いいよ……好きなだけ触って。好きなんでしょ?」

 予想通り、彼女は許してくれた。僕は手にしているティッシュを丸めてゴミ箱に投げ入れるとその手で彼女の脹脛を撫でた。
 少しだけ手を離しただけでもブーツの革からは温もりが消えていた。僕は彼女の優美な曲線を描き、手に吸いつくような肉感を備えた、美しい黒革の丘を掌全部で優しく撫でた。
 僕の下半身はすでに限界に達しているかのように痛いくらいに膨れ上がり、その先から涎を垂らしていると触ったり見なくてもわかる。
 僕は彼女のブーツの脚を両手でぎゅっと、握った。びくんっ、と僕の下が脈打つ。

 もう、ダメだ。

 僕は彼女のブーツから離れて僕をずっと見ている彼女の上半身に覆い被さった。

「きゃっ」

 短い悲鳴を上げてベッドの上に横になる彼女。互いに見詰め合う僕と彼女。

「……ちょ、ちょっと待って……汗かいて汚いよ……シャワー浴びさせて……」
「…………」

 僕は黙って首を軽く横に振る。すると彼女は一瞬、僕から視線を逸らすとそっと目を閉じて唇を軽く突き出した。
 僕も目を閉じ、そっと顔を彼女に寄せるとそのぽわん、とした唇を重ね合わせた。
 その瞬間、どちらからともなく、自然と求め合うように舌が伸びて互いの口の中で絡み合った。

 ゆっくりと彼女の体を撫で回し、囁きながら一枚一枚彼女の着ている物を優しく剥いでいく。肌蹴た服の彼女、スカートとブラの彼女。下着姿の彼女……。
 今まで見た事のない、彼女の様々な姿が僕の前に現われる。僕も彼女に合わせるように少しずつ服を脱いでいき、生まれたままの姿へとなっていった。
 そして、そっと、彼女のブラを外す。

「……恥ずかしい……」

 かあっと彼女の顔が高潮して目を閉じて顔を背ける。決して巨乳ではない、やや小ぶりの乳房。つんと立った乳首にほのかなピンク色の乳輪。
 僕はその左の乳房に手を乗せ、その乳首を優しく弄くり、右の乳房に顔を埋めて乳首を口にした。

「んっ……」

 聞いた事のない、彼女の吐息。その度に僕の胸は高鳴る。
 それに急かされるように僕は舌先で乳首を転がし、時々軽く歯を立てながら手でもう片方の乳房を揉んだり、乳首の先を撫でて彼女の胸を弄くっていった。

「んんっ……んはあ……」

 彼女の甘い吐息がどんどんとこぼれる。僕は逸る気持ちに駆られ、彼女のショーツに手を伸ばし、それを降ろそうとした。ところが、その手を彼女の手がそっと掴んだ。

「……ダメ……恥ずかしい……」

 ブラを外した時よりもさらにかあっと顔を赤らめる。なんて可愛いんだろう。
 僕が思わずにこっと笑ったその時、僕の手を掴んでいた彼女の手がすうっとまだトランクスを穿いている僕の下半身に伸びてきた。トランクス越しに固く、滾った肉棒をその形や大きさを見るように掴んだり撫でたりする。

「……こんなのに……なるんだ……」

 彼女の口元に軽い笑み。興味津々な様子が見て取れる。

「……なんか、こっちが恥ずかしいなあ……」

 僕が言うと彼女はそっと僕を見てその頭を愛しそうに撫でた。

「ううん。私を見てこうなっているんだから……嬉しい……」

 彼女の言葉に僕はそっと乳房から口を離し、また彼女の半分開いた唇に僕の唇を寄せる。

「ん……んん……ん……」

 彼女は目を閉じて僕の舌と絡み合う事に集中しているみたい。僕はそっと彼女のショーツに再び手を伸ばした。

「んあっ……ダ……」

 メと言葉を続けさせる間もなく、さあっとショーツを下ろさせる。お尻の優美なラインをくすぐり、くるくるっと丸め込まれるようにそれは降ろされた。
 僕は軽い勝利の感覚を覚えながらショーツの降ろされた彼女の下半身を見た。

「は、恥ずかしいよぉ……余り見ないで……」

 そうは言うが僕の目は彼女にくぎ付けだ。ねじり鉢巻のように丸まったショーツが太腿のあたりで止まっている。さらに視線を下に向ける。可愛らしい膝頭。そして、

「ブーツしか履いてないって……初めて?」
「あ、当たり前よ……靴だけ履いて裸なんて……」

 膝から下は黒革のロングブーツがしっかりと履かれたまま。神が作った生まれたままの彼女に人間が施す美しいデコレート。そんな風にも見える。
 僕は思わずそのロングブーツに触った。

「んっ」

 びくっと武者震いするように、固くいきり立った僕が一つ震える。トランクスはサーカスのテント小屋のように1ヶ所が突き出たような状態。
 もう、抑えきれない。僕はトランクスを一気に脱ぎ捨てた。

「……すごい……こんなの……口に……」

 彼女はヨダレをたらして天井に向かって屹立する僕のそれを見てぽつり言った。ん? 口に?
 僕は屹立したそれを彼女に向けながらそっと彼女に覆い被さるように横になった。

「……誰かから教えてもらったの?」
「……友達から……どうすれば…………男の人って喜ばせられるかなあって……」

 僕が訊くとまたぽっと赤くなって彼女は僕から視線を逸らした。

「……じゃあ……ファッションを変えたりしたのも?」
「……うん……周りの友達とかみんな……彼氏とセックスしてるのに私だけ……してないから……それでね……えっと……」

 まるで僕の反応を気にする様にちらりとこちらを伺う眼差しを向ける。

「誘ってもくれないのは……私に魅力がないからって聞いて……それで……誘ってくれるように……」
「僕が好きだって言うブーツまでこんな季節に……」

 こくん、と彼女が頷く。頷く姿がどうしようもなく可愛く、愛しい。しかし、同時に今まで誘えたのに、誘おうとも考えたのに誘わなかった事が酷い事だと感じた。

「……ごめん……君の気持ちがわからなくて……」
「……ううん。でもいい……今、こうして誘ってくれているんだし……」

 そう言いながら少しぎこちない手でやや待ちが入って少し萎えた僕を手にした。

「喜ぶかどうかわかんないけど……」

 彼女がずっと僕のそれに向かうように体を起こそうとした。それを僕はそっと止めさせた。

「……じゃあさ……せっかくだから……」

 そう言いながら僕は彼女の足下、黒光りするロングブーツを見ていた。


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