11 中断

「優華ちゃんの先輩、変態だなあ……あんな先輩だって知ってた?」

 背後から優華の胸元に手を回し、松永がゆっくり彼女の胸を撫でながら耳元で囁いた。

「…………」

 優華は松永の問い掛けに答える事はなく、下唇をキュッと噛んでいた。その視線の先はわめきながらデジカメに収められている真理子。
 その目は僅かに潤いた。
 無理矢理に過去を吐き出された真理子に対しての憐憫と尊敬していた先輩が野外プレイ好きの変態であった事への衝撃と軽蔑が混じった眼差しだった。
 松永はふっと彼女の耳に息を吹きかけるように一つ笑った。

「ま、婦警さんが変態だって事がわかったのは優華ちゃんのお陰だからなあ……薬を飲ませたりしたんだから」
「…………私が……違う……あなた達が私を……」

 松永の手に優華が体をくねらすように動かしながら呟いた。
 その声は囁くような小声でしかも急かしているような早口。松永は優華の言葉を聞いてピンとくる物があった。

「……優華ちゃん、どうかした?」
「別に……」

 優華の口から明かに言葉が減っている上にボリュームも落ちている。
 松永はにやっと笑うとふと優華の足元を見た。黒いロングブーツに包まれたその脚はキュッと股間を締め上げているようも膝の辺りで重なり合い、時折ブーツの皮同士が擦れ合う音を立てながら蠢くように動いていた。
 松永は優華のそばでしゃがんで彼女の腰やお腹を撫でまわす野村に視線を送った。

「……ちょっと、触るの下にしてみ」
「は、はい」

 松永に言われた野村は手を優華の腰から下腹部の僅かな膨らみへと移した。

「い……やめて……」

 囁くように優華が言った。野村はそれが聞こえなかったのかあるいは聞かなかったのか、手を優華の下腹部に置くと軽く、ぐっと押した。

「やっ!」

 思わず優華の口から鳥の鳴き声のような声が上がった。それは喉の奥から押し出されたような声で、拒絶をする悲鳴とは声の質が違っていた。

「ん?」
「どうしたんだ」

 真理子の乳首にクリップを下げた姿の撮影に夢中だった前田と吉田がその声に反応して優華の方を振り返った。
 優華は体をもじもじと動かし、口を半開きに開けて顔にうっすら汗を浮べていた。
 そんな優華の動きを抑え付けるように抱きつく松永が笑いを見せながら前田の方を見た。

「前田さん、優華ちゃん何か我慢してるみたい」
「そうか……」

 前田はふっと笑うと一旦腕時計にちらっと目をやるとデジカメを真理子から優華へと向けた。
 そして優華の苦悶の表情やもじもじ動くスカートから伸びる、ブーツを履いた脚を次々それに収めていった。
 一体、優華に何が起きているのか。既に分かりきってはいるが前田は嘲るようにきょとんとした表情を見せて野村を見た。

「野村、久保寺巡査に何かあったみたいだから……さっきやったようにもう一度」
「は、はい」

 野村は言われた通りに再び優華の下腹部をグッと押した。

「いやっ……押さないで……」
「どうして?」

 すかさず松永が優華の耳元で囁いた。優華は松永の息を避けるように僅かに顔を傾け、きゅっと目を閉じて下唇を噛んだ。
 すると松永は優華の胸に回した手を脇腹へと回し、掴むように手を動かした。

「あっ……や……やめて……」

 反射現象のように優華は体をよじった。しかしその動きはそれほど大きくはなく、むしろ腰よりも脚の動きの方が大きく、ブーツの底が床を踏みつけられて「カツッ」と言う乾いた音が何度も響いた。
 松永はさらに脇腹を押したり掴んだりし続け、野村は間隔を置いて下腹部を押したり撫でたりし、それを前田がデジカメに納めて行った。

「い……んや……やめっ……はあっ……」

 優華の吐息にも似た声にならない声が部屋に響く。

「や……約束が違うでしょ!」

 そんな時、両乳首にクリップを挟まれたままの真理子が声を上げた。

「優華に酷い事をしないって……約束でしょ! やめなさい!」

 その引き換えに自分が言わなくてもいい、いや他人に言うべきでない自分の性癖を言ったのだ。
 優華が苦悶の表情を浮かべさせられ、それをデジカメに収められる事は真理子にとって先輩として、また個人的にも許されない事であった。
 前田は突然声を上げた真理子の方を一瞥するとやれやれと言いたげに一つ息を吐いた。

「酷い事? 別にクリップを付けたりはしてないでしょ?」
「酷いわよ! 優華、トイレに行きたがってるのよ! そんないじらないで早く行かせなさい!」

 屈辱の尋問で婦人警官や先輩のプライドはズタズタにされたはずだが、目の前の優華の苦しむ姿を見て再び息を吹き返したようである。
 しかし、前田はそんな真理子に冗談ぽい笑みを返した。

「それはそっちが見てでしょ? 久保寺巡査本人の口から言わないと……」

 前田はそう言うと再び優華を見た。優華はこくっと大きく頷いた。

「そ……そう……だから…………トイレに……」
「トイレねえ……そこで何をしたいの? オナニー?」

 ふざけたように松永が訊くと優華は弱々しく首を横に振った。

「ちが……う…………お……」
「お?」
「……しっこ……ん……おしっこ……お願い、トイレ……トイレに行かせて……!」

 上品な顔立ちの婦人警官の口から漏れる出たその言葉に男達は大きな声を出して笑った。笑いながら松永は頬を赤く染めて俯く優華のお
腹を軽く叩いた。

「もう怖いもんなしだな、優華ちゃん……ウンコする所見せたりおしっこって言ったり……いいよ、トイレ行かせてやる」

 そう言うと松永は彼女を抱き抱えたまま焦らすようにゆっくりと彼女を歩かせ始めた。優華はもう限界が近いのか、余り歩幅も大きくなく、松永に引き摺られるように歩いた。
 そんな優華と松永を見て前田はふっと小さく笑い、ソファに座ったままの真理子を見下ろした。

「素直でいい子ですねえ、あなたの後輩」
「あ……あなた達が言わせてるんでしょ!」

 自身の屈辱の時間が一山越え、真理子は声に力が戻っていた。

「うるさいぞ! 変態婦警!」
「や、野外プレイ好きのヤリマン婦警さん……」

 しかし吉田と野村が火のつきかけた真理子に水を差すような一言。真理子はぐっと息を飲み、それ以上の言葉を押し殺してしまった。
 前田はそっと彼女の横に座り、乳首から下がった右側のクリップを弄ぶように触った。

「本当、素直な子ですよ……何せ、僕等の言う通りに動いてくれるんですから……」
「言う通りって…………あんな事をして……あんな写真を撮って…………あの子に何をさせたの……」
「なんだと思います?」

 ふふっと前田は笑い、クリップの口をひょいと開かせて外した。
 真理子はまた乳首をいたぶられるのではと警戒するように自分の胸元に目をやり、クリップが外されると視線を上げた。

「まさか……捜査情報を漏洩……」
「そんな事したら久保寺巡査が婦警さんでなくなってしまいますからねえ。もっと有用な事ですよ」

 そこまで言うと軽く笑い、そっと真理子の耳元に顔を寄せた。

「あなたに睡眠薬を盛ってくれたのですよ」
「!」

 真理子はかっと目を見開き、前田を睨んだ。

「嘘よ! そんな事……」
「いいえ。あんな神社の境内で寝てしまうほどの睡魔、おかしいと思いませんでした?」
「…………」

 真理子、沈黙。自分でもあんなに酷い睡魔はおかしいと思っていたのだ。
 前田はククッと喉で笑うともう片方のクリップも外した。

「言われるまで気付かなかった事は上手くやってくれたんですねえ。まあ、久保寺巡査のお陰でこうして桜井巡査も俺達と仲良くなれたんですから……さて、行きましょうか」
「どこへ……」
「トイレですよ。女の子って連れションとかするんでしょ?」

 そう言うと前田は真理子の左脇に手を入れて立ち上がり、一緒に彼女も立ち上がらせた。
 そして優華同様引っ張るようにしてトイレに吉田と野村も一緒に連れていった。


 トイレは部屋になく、部屋から出た廊下の突き当たりにあった。松永はトイレの粗末なドアを乱暴に開け放った。
 そこは窓もない畳二畳程の広さで床や壁は冷たいタイル張りの空間だった。そして壁には明らかに水洗式ではない男子用の白い便器が一つ、取り付けてあった。

「はい、トイレ」

 その中に優華を入れ、当然と言いたげに松永が言った。優華は信じられないと言いたげな表情を見せて松永を見た。

「そ……じ、女子トイレは……」
「故障中。トイレはここしかねえんだ」

 勝ち誇ったようににやっと松永は笑った。対称的に優華は一時の安堵から再び奈落の底へ落とされたような愕然とした表情を浮かべた。

「こ……こんな所で出来る訳……」
「じゃ、垂れ流したら? ここにしゃがみ込んで」

 トイレのタイル張りの床を指差して松永が軽く言った。優華は襲い来る薬物的強烈な尿意に悶えながら目を潤ませて松永を見た。

「……お願い……」
「そんな顔でお願いされてもなあ。トイレはここしかないんだし」

 深刻な優華に対してにやにやする松永。普通ならもっと強く言えるのだが、優華の膀胱はもう限界寸前の信号を出し続けている。優華は一瞬、俯くと泣きそうなその顔を松永に向けた。

「……わ、わかった……これに……するから……そこをどいて……ドアを閉めて……」

 男子用便器にするのは仕方ない。誰も見ていなければ。
 優華の緊急避難的判断だった。しかし、松永はにっと笑うとトイレのドアに手を掛けた。するとドアは朽ち果てていたのか、蝶番から外れていた。

「ドアまで壊れちまった……まあ、いいじゃねえか。手伝ってやるよ!」
「……!」

 松永はそう言うと同時に優華のスカートを捲り上げてヒップのラインを剥き出しにするとパンストとパンティを一緒にブーツの口まで一気に引き下ろした。

「ほらっ! ションベン出るとこ便器に向けろよ!」

 そして強くそう言うと優華の張りのあるヒップを叩いた。
 優華は顔を赤くさせながら慌てて尿道口の先が男子用の便器に向くようにヒップを便器に突き出し、膝を曲げて前屈みになると、膝を軽く合わせてブーツに包まれた膝から下を左右に開いた。
 男子トイレで下半身を露出させて前屈みになる婦人警官。松永にはその姿がとても刺激的に見えた。
 ビッ!
 その時、デジカメのシャッターを押された音がフラッシュと共に優華を襲った。

「いい眺めだ」

 真理子を連れた前田がトイレに到着した。前田は前屈みになる優華を正面から撮ると彼女に近寄り、制服と剥き出しになったヒップが一緒に映るように背中からもう1枚撮った。

「あとは出る所をその顔と一緒に撮るだけだな」

 そう呟くと前田は優華をローアングルから撮れるように彼女のそばに中腰で屈んだ。

「ゆ、優華! 何て事を!」

 優華の痴態を前にした真理子の悲鳴のような声。
 それが耳に響いた瞬間、優華の顔が赤くなりぽろっと涙が零れた。

「いやっ、せ……先輩……あっ! ああ……」

 不意に優華の顔が天井を向き、その口が大きく開いた。それと同時、優華の尿道が解放され、溜まりに溜まった尿が勢いよく吹き出した。

 シャアアアアアア!

「あっ! み、見な……見ないでっ! ああ……」

 優華は小便が吹き出る音を掻き消そうとするように天井に向かって声を上げ、嫌々するように首を振った。
 勢いよく出た黄色の液体は白い便器に当り、高音の打撃音を響かせながら便器の中を流れ落ちた。
 勢いが強く、幾ばくかが雫となって跳ねかえり、便器からはみ出して優華の太腿や下ろされたパンティ、そしてブーツにかかった。

「婦警の立ちションだ」

 前田は嬉しそうにその様子をデジカメに収めて行った。他の男達もニヤニヤと笑いながら優華の排尿を見届けていた。

「ゆ……優華…………」

 真理子は愕然としながらただじっとその姿を見るしかなかった。
 優華の尿道からは勢いよく小便が出続け、飛び散る雫で便器の周りや優華の白いパンティに斑点のような模様を着けていった。

「み……見ないで……見ないで……」

 優華の口からはうわ言のようにそんな言葉が続いた。

「見ないでって言ってもドアはないし、こんなに人がいるしな」

 前田はぽん、と優華の制帽に包まれた頭を軽く叩いた。

「優華……」

 そんな優華の姿に真理子はふと顔を背けた。しかし、野村の大きな手が彼女の顎を掴み、無理矢理顔を優華の方に向けさせた。

「み、見るんだな……」
「女は個室だから滅多に見られないんだろ! 人のションベンは!」

 無理矢理優華の羞態を見せられる真理子に吉田の言葉が突き刺さる。

「こ、こんな事して何になるの? 女の子を男のトイレで用を足させて」
「ニュアンスが少し違う」

 真理子の言葉にデジカメを向ける前田が答えた。

「普通の女の子だったら、こんなにデジカメまで用意はしない。婦人警官が立ちションをしているのに価値があるんだよ」
「そんな……」

 真理子は前田の言葉に言葉を失い、唖然とした。

「あ、それと」

 そんな真理子に今までリーダー然としていた前田が子供っぽい笑みを見せた。

「自分的にはロングブーツにも、な」

 そう言うと再びデジカメのファインダーに目をやってシャッターを切った。

「はあ……ああ……!」

 優華の尿道からはまだ小便が出ていた。
 排尿の生理的な快感を感じながらも優華は男の目やカメラの目、そして先輩の目に排泄を曝されている現実に羞恥や屈辱を感じていた。
 しかし、排尿を止める事は出来ない。尿が出続ける限り羞恥や屈辱は続くのだ。

「まだ出るのか……我慢してたんだな」

 優華の傍らで彼女の尻と便器を同時に見るポジションに立つ松永が呆れた様子で言い、ポケットからティッシュを取り出し始めた。

「ウンコの時も一週間って言ってたし……溜めるのが好きなのか? 体に悪いぜ」

 ふっと松永が一つ笑うとようやく優華の排尿の勢いが落ちて来た。
 ホースの水のような直線的な流れが次第に重力に従った放物線状の軌跡になっていった。
 そしてついには尿が便器に届かなくなり、幾らかがタイルの床やパンティに落ちた。さらに勢いを完全になくした尿は尿道からこぼれ、太ももの内側を伝ってパンティやパンストに流れ落ちて行った。

「はあはあはあはあ……」

 涙をこぼし、顔を真っ赤にさせながら優華は粗く肩で息をした。

「終ったか?」

 松永が訊くと優華は力なく首を縦に振った。すると松永は取り出したティッシュを優華の尿道に近付けた。

「女って拭かないといけねえんだよなあ」
「い、いやあ……自分で……」

 疲れ果てたような弱々しい口調で優華が言ったが松永は聞かない。一切無視して優華の尿道口の周りに付いた彼女の尿を拭き取った。

「自分で拭きたかったら床や脚を拭くんだな」

 そしてそう言って尿を拭いたティッシュを丸め、優華の制服のポケットに押し込んだ。
 松永はぽんと優華の腰を叩くと彼女はがくっとその場に突っ伏してしまった。

「……前田さん、優華ちゃんがションベンをしたくなったって事は……」
「ああ。時間通りだ。それにしても、服用後一時間で効果が出る利尿剤が丁度一時間で効くって……いい体してるなあ、久保寺巡査」

 ふっと軽く笑うと前田は野村と吉田に抑えられたままの真理子に歩み寄った。

「さて、俺達はこれからちょいと準備があるんで今日はここまで」

 前田はそう言うと真理子の手首にかかった手錠を外した。

「また明日お会いしましょう。多分、明日はパトロールが強化されるから外に出るでしょうし、時間と場所は後ほど」

 そこまで言うと前田は真理子に顔を寄せた。

「車の中で桜井巡査の携帯メールアドレスは調べましたから、後でメールします。明日は楽しみにしててください。こんな部屋の中じゃ燃えないでしょうしね」

 そう言うと前田はぽんと肩を軽く叩くと同時に吉田と野村が真理子から離れた。

「行くぞ」
「おう」

 前田が頷いて強く言うと他の三人も強く返事をし、前田に着いて小走りに駆けて行った。
 4人の足音が遠のき、車のエンジン音が響き、その音も遠のいてゆく。
 後に残った物。
 それは廃ビルの廊下に胸を曝け出して呆然と立ち尽くす婦人警官と下半身を露出してトイレの床に突っ伏して震える婦人警官。
 いや、屈辱に塗れて警察官や女性としての自尊心を蹂躙された2人の婦人警官の制服を着た女だった。

▽前に戻る ▽入口に戻る