6.7月7日

「……今日は七夕、でしたね」

 ベッドに腰掛けた彼がくすっと笑って独り言のように言う。
 そして、そばにある小さな窓を見た。申し訳程度についている小さな窓にはカーテンがかかっている。外の様子は見えないが雨が窓を叩く音がカーテン越しにはっきりと聞こえていた。

「毎年七夕って雨だったり曇りだって気がしません?」
「…………別に……」

 彼の言葉に彼と向かい合って立つ彼女が素っ気無く答える。その言葉はなんとなく上ずり、緊張しているように聞こえた。
 彼はくすっともう一つ笑って再び視線を彼女へ向けた。

「そうですよ。毎年『織姫と彦星の年に一度の逢瀬を見られたくないから天気が悪い』っての聞いていますから」
「ふうん……」

 絵に描いたような素っ気無い反応。どことなくその反応に芝居臭さがあり、敢えて意識的にそうしているように感じる。
 彼は笑みを見せたままで彼女を見つめた。

「そうだとしたら、同じですね」
「……何が……」
「会っている姿を見られたくないから、いや、見られてはいけないから隠そうとする、ってね。石橋巡査」

 彼の視線の先には。
 婦人警官の制服のスカートのベルトをきゅっと締め、上着を来て丁度金色のボタンを止めている所の麻衣子がいた。
 一番下のボタンを止めた瞬間、麻衣子はきっ、と彼を見た。

「変なこと言わないで……別に逢瀬とかそんなんじゃなくって……」
「逢瀬だと思ってました?」
「……バカっ」

 麻衣子は一言言葉を吐きつけると軽く頬を高潮させてその場にしゃがみ込んだ。
 そんな彼女を彼は視線を外さずに興味深げにじっと見ていた。

「今のままでも十分に女性らしいですけどね」
「…………」

 彼の言葉に彼女は何も返さない。無関心を装うように今行っている作業を淡々と続けた。
 麻衣子はその場に屈むと床に置いてある黒く長く柔らかな物を手にした。そして、それを開くと脹脛に合わせてそうっとそこに足を通した。

「ロングブーツですか……履かないのですか? 普段」
「……こんなの履きにくいし歩きにくいし……普段はスカートも穿かないから履く事はない」

 だからこそ、これが彼女にとって最も女性らしい出で立ち。
 そんな理屈に彼がふふっと笑う。

「そう……似合うのに」
「……からかわないで」

 履き捨てるように麻衣子が言う。その時、彼女のつま先と踵がかぽっとロングブーツのつま先と踵に合った。
 麻衣子は丁寧に包み込むようにロングブーツの革を自分の脛や脹脛に覆い被せ、慎重に引っかからないようにゆっくりとサイドジッパーをあげて行った。

「そんなに恐々しなくても。石橋巡査の脚だったら途中で引っかかってあがらなくなるとかそう言う事はないでしょう」
「…………」
 
 彼の言葉に麻衣子は何も返さない。言葉の変わりにジジ、ジジジと少し高めのジッパーが締め上げられていく音を上げた。
 ジッパーは引っかかる事もなく、止まる事もなくスムーズに最上まで上がった。
 紺色のスカートから伸びる足が黒革の艶々したロングブーツに包まれ、黒と膝のベージュ、そして紺色が艶かしいコントラストを見せていた。

「…………そんな見ないで……」

 少し不満そうに、少し恥ずかしそうに彼女はそう言いながらもう片方の脚をロングブーツに包み込ませ始めた。

「見ないでって、今まで着替えから全部見ているから一緒でしょ」
「そう……だけど……それとこれは別だから……」

 何が別かは分からない。制服に着替えるのよりもロングブーツを履く所を見られる方が恥ずかしいのか。
 彼はふむ、と鼻から大きく息を吐いた。

「別でも同じです。僕は石橋さんの全てを見たいのですから、ね」
「…………からかわないでって……言ってるでしょ……」

 ふいっ、と麻衣子が顔を彼から背けた。
 その間にもう片方のロングブーツが彼女の脚を包み込んだ。
 麻衣子は軽く足首をぎゅむぎゅむ、と革を小さく鳴かせながら回すとそうっと立ち上がった。

「からかっているように……見えます?」

 彼が笑みを見せながら言う。

「……知らない」

 麻衣子はちらりと彼を一瞥するとすぐに視線を切ってそばのテーブルに置いた制帽を手にした。
 スカートやロングブーツに並ぶ、いや、それ以上に婦人警官らしいパーツ、丸い独特の形をした制帽。それが麻衣子の頭に乗せられ、きゅっと被せられる。
 曲がりも傾きもなく、きっちりと麻衣子の頭を包み込み、石橋麻衣子を婦人警官、石橋麻衣子巡査へと変えていった。

「できあがりですね」

 彼が嬉しそうに言って立ち上がり、麻衣子に歩み寄った。
 麻衣子はたじろぎもせず、直立したままで彼を迎える。
 彼は目の前に出来上がったロングブーツ姿の婦人警官を舐めるように見ながらその周りをゆっくりと回った。

「一番女性らしい姿……ですか……」
「……一番嫌いな、一番似合わない格好……」

 吐き捨てるような調子で麻衣子が言った。
 彼が後ろに回りこんで彼女の後姿を見る。

「そうでしょうかねえ」

 彼の言葉にぴくっと麻衣子の肩が揺れる。彼女はちらっと肩越しに彼を見た。

「一番のお似合いの格好だと思いますよ。普通の姿よりもずっと」
「……嘘。私は女性警官の姿が一番似合ってないって……夏服とか活動服の方が……」
「そうかもしれませんけど、石橋さんは女性ですから。女性の姿が一番似合う。警察官、石橋巡査もですよ」

 後ろから囁くように彼が言う。麻衣子はふいっと彼の視線から逃れようとするように前を見た。
 その時、そっと彼が彼女の左側に立った。

「よく見た事がないんじゃないですか? 自分の姿を」

 そして耳元でそう囁くと彼女から離れてすぐそばで背を向けて立つ姿見を手にした。
 くるっと姿見を返す。
 そこにロングブーツを履いた婦人警官、石橋麻衣子の全身が映った。

「…………」

 その姿を麻衣子が正面から見つめる。
 ぼんやりした間接照明に浮かぶロングブーツ。
 深い紺色のスカート。
 濃紺の上着の空に浮かぶ星のような金ボタン。
 白いワイシャツに真っ直ぐ流れ落ちる灰青色のネクタイ。
 天文台の丸いドームのような制帽。

「…………」

 そして、その中に浮かぶ毎日見慣れている石橋麻衣子と言う女性の顔。
 麻衣子は鏡に映ったそんな姿を何も言わずにじっと見た。

「悪くないでしょう」

 姿見の中にいつもの笑みを浮かべた彼が入り込んできた。彼女ははっとして鏡から視線を切り、心持ち俯きながら顔を背けた。

「……こんなの……私じゃない……」
「いつもの私じゃない、のでは?」

 彼の言葉にぴくん、と麻衣子の肩が揺れた。彼はふふっと悪戯っぽく笑うと彼女の隣に立ち、その肩に顎を乗せるようにして顔を寄せた。

「いつも鏡で見ているのは婦人警官の石橋巡査。でも、今日は非番ですから違いますね……石橋さんの婦人警官姿と言うべきでしょうか……」
「……同じ……よ」
「違います。婦人警官の石橋巡査は凶悪な犯罪者や男社会に伍さないといけない。女性としての石橋さんを押さえつけてでも、ね。でも今は」

 彼はさらに彼女に顔を寄せ、僅かにその頬に唇を寄せた。

「女性としての石橋さんを押さえつけていない、普通の石橋さんの姿のままの婦人警官の姿……石橋さんらしい本当の姿の婦人警官なんです」
「……違う……こんなの警察官じゃ……」
「こう言う婦人警官が石橋さんには一番合ってます。無理もしてないし自然な姿……その方が理想の警察官になれるように思えますけど」

 彼の囁きに麻衣子はきゅっと目を閉じ軽く首を横に振った。

「違う……こんな警察官じゃダメ……警察官は厳しくて強くなければ……」
「厳しくて強いだけじゃただの警察官です……石橋さんは……」

 彼の口が彼女も耳元に寄った。

「女性、いや、婦人警官なのです」
「私は……」

 麻衣子が何かを言おうとした瞬間、

「っつ……きゃっ」

 言葉の代わりに短い悲鳴が上がった。口を寄せた彼がそうっとその耳元に息を吹きかけ、同時にきゅっと彼女を抱きしめた。
 びくっと麻衣子の全身が震える。しかし、彼の腕から逃れようとのた打ち回ったりはしない。
 硬直したように麻衣子は微動だにせず、顔を僅かに彼の方に向けた。

「あ……ダメ……んっ……!」

 顔を彼に向けた瞬間、彼の唇が麻衣子の唇を奪った。こつん、と制帽の庇が彼の額に当たって僅かに傾く。
 そんな制帽の乱れも気にならないほどに心地よい柔らかな唇の感触。
 そこから生まれる僅かな温もり。それが2人の間を通い、引き付け合う。

「んん……」
 
 きゅっと彼の抱きしめる腕に入る力がさらに強くなる。
 すると、硬直していた彼女の肩や体から徐々に力が抜けていった。痺れ薬でも盛られたかのようにじわりじわりと麻衣子の体が彼の方へと委ねられていく。

「ん……んん……」

 彼は麻衣子の唇から離れようとしない。麻衣子は彼から少し離れようとしたが離そうとしない彼に付き合うようにその唇を重ね合わせ続けた。

「ん……あ……」

 彼がそっと麻衣子から離れる。
 いつしか目を閉じていた麻衣子が軽く驚いたようにまぶたを開けた。
 ややとろんとした瞳。婦人警官石橋麻衣子としては考えられない表情が、制服姿のままでそこにある。
 麻衣子はそんな瞳で彼の顔を見るとすぐに視線を切って顔を背けた。

「……これは……私……」
「女性でいる事にもっと自信を持ちましょう……それだけの素晴らしい女性なんですよ……石橋さんは」

 彼が囁く。顔を背けたままの麻衣子はきゅっと下唇を軽く噛みながら考えるような素振りを見せていた。
 自分だけど自分じゃない、認めたくないけど認めたい自分。
 その自分が、出てはいけないと思う格好の今、出ている。
 千々に乱れる心を整理しようとするかのように麻衣子は彼の腕の中で黙り込んだ。

「麻衣子」

 その時、彼の口からこぼれた言葉。
 聞きなれているはずの自分の名前。しかし、それが今、物凄く艶かしく、そして、淫靡に聞こえた。
 麻衣子ははっと彼に振り向いた。
 彼は真っ直ぐ彼女を見つめている。彼女も彼を見つめていた。

「…………」

 ぶつかり合う視線の中、麻衣子は体に残っていた力を全て抜き、そうっとまぶたを閉じた。
 まぶたが作り出す闇の中でさっきよりも強く、そして、熱い感触がその唇に感じるまでそれから10秒とかからなかった。




「……警察官になりたい……ならなきゃいけない……そう思って勉強やスポーツしてきた……」

 ベッドの上、ロングブーツに制服制帽姿の麻衣子が仰向けになって囁くように口を開いた。
 麻衣子の上には覆い被さるように彼がいる。じっと彼は麻衣子の顔を見下ろしている。
 麻衣子は顔を僅かに背け、視線を彼に向けないようにしながらぽつりぽつりとさらに続けた。

「……でも…………たまに……本当にたまに…………雑誌を真似して可愛いファッションで女の子してる同級生を見て……羨ましいって思った事も……あって」

 かあっと麻衣子の頬がさらに高潮する。

「私は女だけど……お父さんみたいな強くて格好いい警察官になりたかったから……周りに女の子のような扱いをされてほしくなかったし……私もしたくはなかった……今だって男の同僚と変わらない扱い、仕事をしてる……けど……」

 顔を背けたまま、視線をちらりとベッドの脇に向ける。
 そこには鏡張りのクローゼットの扉があり、その中に男に覆い被せられようとしている婦人警官の姿があった。
 麻衣子はそれを見るとこくん、と唾を飲み込んでそこから視線を切り、ちらりと彼を見た。

「……羨ましい、って言う気持ちがまだなくならなくて……だからもっと男の人に近付かないと、もっとお父さんみたいにって……でも……」

 ベッドの上で伸びきって置かれた腕。その先の白い手袋に包まれた手がきゅっと拳を作った。
 その時だった。
 彼が何も言わずに唇を麻衣子に寄せた。


「ん……んんん……んふうっ……んん……」

 唇が触れ合うと同時。どちらからともなく唇が開き、その中で舌が絡み合った。
 くちゃ、ぺちゃっと咀嚼しあうような音が2人の口の中で繰り返され、口の中や唇が互いの舌に舐め回された。

「んあっ……はあ……」

 彼が口を離す。2人をの舌先を濃い唾が繋げあい、すうっと透明できらりと輝く糸を作った。
 それがつん、と途切れる。彼は制帽を被った麻衣子を見下ろして薄く笑った。

「それが本当の貴女なんですよ」
「……こんな……私……じゃない……私はそんなに弱くない……」

 麻衣子の表情に戸惑いが見えた。
 同時に恥ずかしがっているようにも見えるし、わくわくしているようにも見えるし、何かを期待しているようにも見える。
 とにかく、今彼女は全く未知の自分と遭遇しているのは確かなようだった。
 彼はこくん、と頷いた。

「力を抜いて……見て」

 そして視線で鏡張りのクローゼットを指し示した。
 麻衣子は恐々とちらりとそれを見た。

「そこに映っているのが本当の姿……貴女の婦人警官の姿です……これからとっても綺麗に見えてくるから……」
「……は、恥ずかし……」

 麻衣子が頬を赤らめて顔を背ける。すると、それを待っていたように彼がその唇を再び奪った。

「ん……んんっ!」

 その動きと同時、彼の手が麻衣子の制服の袂から胸に滑り込み、白いシャツの上からその乳房に張り付くように置かれた。

「んんっ! んっ! ……んん……」

 篭った声も次第に吐息のように静かになっていく。
 彼の手が制服のシャツとブラの上から麻衣子の乳房をゆっくりと揉み下しだした。

「ん……んふう……」

 彼と繋がったまま、麻衣子の口から甘い吐息が零れる。
 ゆっくりと、深く、時には撫でるように、そして時にはえぐるように麻衣子の乳房を彼の手が愛撫する。
 麻衣子は目を閉じ、ブラと乳首とが擦れあい、乳房自体が揺らされて起きる感触と唇の感触とを味わっていた。
 彼が麻衣子のネクタイに手をやり、そっと上着の中から引っ張り出す。
 その手で白いシャツの上、胸の双嶺の谷間を流れるボタンを一つ、二つと外した。

「んっ!」

 反射的に麻衣子が体をよじる。しかし、唇が繋がったままでは動きなどたかが知れている。
 彼はこれと言った抵抗もなくボタンを外すとその隙間から手を差し込んだ。
 そして、さらにブラのカップの中に手を滑り込ませてその柔らかな乳房を手にした。

「ん……くふう……」

 彼の掌に合わせてその形を変え、ぴったりと吸い付いてくるよう。
 ちょうど掌の真ん中あたりにこりこりとした突起が当たり彼に僅かなくすぐったさを、麻衣子にはこそばいとも痛いとも痺れ付かぬ感触を与える。
 それが掌を転がる度に彼女の呼吸が深くなった。
 
「……んっ……柔らかくて気持ちいいですよ……」

 唇を離した彼が囁く。麻衣子の顔がさらにかあっと赤くなっていく。
 彼は笑みを見せたままで続けた。

「男にはない、こんないい胸を持っているんです……どんなに男にみたいに、って思っても貴女は女性。素晴らしい女性なのです……それを隠して男みたいに、ってもったいないです」

 彼はそう言いながらぐっ、と乳房を鷲づかみにした。

「んっ!」

 麻衣子の甲高い声が部屋に響き、ぴくんと全身が震えた。
 
「貴女は貴女らしく、貴女らしい警察官になれば……それでいいんですよ……婦人警官、それでいいんです」
「……はあ……で……んくっ……でも……」

 とろんとした麻衣子の眼差し。その眼差しに彼はにっこり笑いかけて頷いた。

「婦人警官も格好いい警察官ですよ……と、言うよりも……」

 彼の顔がずい、と彼女に寄せられる。

「格好いい婦人警官なんですよ、麻衣子は」

 とろんとしていた麻衣子の瞳が飛び起きたように一瞬、はっとした。
 そして、顔を赤くしたままでふいっと鏡張りのクローゼットに視線を逸らした。
 そこには婦人警官の姿をした麻衣子が、いつもと同じだけどどこか違うように映っていた。



「はあ……ん……はあ……はあ……」

 麻衣子の呼吸が甘く荒い。
 上着のボタンは全部外され、シャツのボタンも一番上のボタン以外は外され、裾がスカートの中からだらん、と出ている。

「ん……んはあ……んん……」

 ロングブーツに包み込まれた右脚を立て、左脚はだらんと横に伸びている。
 立てられた右脚からスカートはめくられて麻衣子の下腹部が露出されていた。

「……は、ずかし……ん……」

 その下腹部を覆っているグレーのパンティは右脚のロングブーツの口にくしゅくしゅとなって引っかかっている。
 そして、うっすらと生え揃うヘアと共に剥き出しになっている麻衣子の秘所に彼が口を寄せ、丁寧に、ゆっくりと、じらすように舐めていた。
 ぴちゃ、くちゃっと彼の唾や溢れる彼女自身が滴らせる蜜が淫靡な音を響かせる。

「どう頑張っても男にはなれません……だったら女でよかった、女のほうがいいって思うほうがいいでしょう……」
「…………」

 彼が彼女から口を離して訊く。しかし、恥ずかしさで口も利けないのか麻衣子は黙ったまま。
 彼はくすっと笑うとそっとズボンとトランクスを下ろした。
 麻衣子がちらっと彼を見る。
 彼の股間には屹立した赤黒い彼自身がある。
 麻衣子は軽く体を震わせ、縮こまるように脚の開きを狭めた。

「……怖い……」

 ぽつりと彼女が呟く。彼は笑顔を見せて麻衣子の顔を見てゆっくりと体を寄せた。

「初めてなのですか?」

 彼が訊く。麻衣子は小さく首を横に振った。
 彼はふふっと笑みを見せて彼自身の根元に手を添え、照準を合わせた。

「回数が少ない、のですね……警察官が不審物を怖がってはいけませんよ……でも、怖いのは一瞬です……そう……そのうち……」

 彼自身の先端が彼女の秘裂の口に合わされる。

「女のほうがいい、って思えてくると思います……よ」
「んくっ!」

 びくん、と麻衣子の全身が震えた。
 彼女の中に半分ほど彼が入り込んできた。
 迎える彼女のほうはきゅっとそれを締め、全体を包む混むようにして迎えた。
 彼がゆっくりと腰を動かす。突き動かす、と言うのではなくもっと柔らかく、優しく、腰を前後に動かす。

「んっ……んっ……」

 彼自身が麻衣子の中を半分入っては出て、半分入っては出てを繰り返す。
 その動きに麻衣子は眉間に皺を寄せ、目をきゅっと閉じ、下唇を噛んでいた。
 両手はシーツをぎゅっと掴み、何かを耐えているように見える。

「目を開けて、麻衣子」

 彼が囁くと麻衣子ははっとし、目をゆっくりと開けた。

「……あ……ああ……」

 視界に広がる彼の笑み。
 それが瞳に映りこんだ瞬間、彼女の中に彼自身が奥までずん、と押し込まれた。

「あっ!」

 口を開け、開放的になった口から甲高い声が上がった。
 彼はそれを聞くと一安心したかのようなほっとした笑みを浮かべ、腰を強く振った。
 潤滑油はすでに彼も麻衣子も塗れている。
 その中を彼自身が深く、強く彼女の中で動く。

「あっあっあっあっ!」

 麻衣子は全身を揺らされ、制服を、制帽を乱し、ロングブーツの底をシーツに擦らせながら声を上げた。

「熱くて強く締め付けて……気持ちいいよ……」

 彼も呼吸を徐々に荒くさせながら囁く。

「あっ! あっ! ああっ! わ、私……あんっ! ああっ……こ、こんな……あんっ!」

 いつも冷静沈着、クールな警察官の麻衣子。
 ともすれば冷たさすら感じる言葉が出てくるその口から熱く、甲高い、動物の嘶きのような喘ぎ声が飛ぶ。
 彼は熱くただれたような柔肉に彼自身を包み込ませながら夢中で麻衣子を突いた。

「あっ! はじめ……てっ! あっ! あっ! ああっ!」

 下から突き上げられてがくんがくんと全身を揺らされる。
 鍛えられ、肉付きのよい体が乱れた制服と共に揺れ、それと一緒に彼女の声も上がっていく。

「あんっ! あっ! ひあんっ! あっ!」

 麻衣子はうっすらと目を閉じて声を上げていた。その時、彼がふと、動きを止めてぐっと前傾姿勢になるように上半身を彼女の上半身と重ねた。

「はあ……はあんっ……んっ!」

 再び濃厚なキス。
 それを合図とするように彼の腰が一段と強く、激しく動く。

「んっ! んっ! んっ! んんんっ!」

 彼の口の中で麻衣子が喘ぐ。
 くぐもった高い喘ぎ声が麻衣子の喉の奥から湧き出し、とめどなくその口から彼の口へと移っていった。

「んはっ! あっ! ああああっ!」

 不意に麻衣子が口を振り解くように離した。
 その大きく開いた口からは今までとは全然違うボリュームの声が上がった。

「あっ! あああっ! あんっ! あっ! いい……! このっ……あっ! ああっ!」

 麻衣子はぎゅっと彼の二の腕を掴み、力を込めて喘いだ。
 力一杯掴まれている彼の二の腕だが手袋のせいか、痛みや跡はできていない。
 もっとも、そんな物に気にするだけの状態ではないが。

「麻衣子……麻衣子……っ!」
「あんっ! あっ! いいっ! な、何かわからな……あっ! いっ! ああっ!」

 彼が上の空のように麻衣子を呼ぶ。
 麻衣子は本能、女としての本能の赴くままに叫んだ。
 そこには警察官、石橋麻衣子の姿はない。
 婦人警官の制服を身にまとった石橋麻衣子の姿があった。

「あっ! 何……ああんっ! 壊れ……くうんっ! あんっ! ああ!」

 麻衣子の秘所からはぐちゃぐちゃと淫靡な音と細かな白い泡が溢れている。
 それを感じているのか、麻衣子はただただ喘いだ。

「麻衣子……僕は……僕はもう……!」
「あんっ! ひああっ! ああああああああっ!」

 麻衣子の喘ぎ声がさらに上がった瞬間、彼は彼女から自分自身を引き抜いた。そして、次の瞬間。

「あっ……ああっ……」

 喉の奥から零れる吐息と共に彼自身からぶしゃっと白濁液が飛び散り、紺色のスカートの内側や太もも、そしてロングブーツにその溜りを作った。

「ああ……ああ……」

 彼が引き抜かれた瞬間、麻衣子の全身から力が抜け、その声も落ちて行った。
 ベッドの上で制服を乱し、ぐったりと横になる麻衣子。

「くふう……くはあ……はあ……」

 肩で呼吸を繰り返し、その余韻に浸るように横になり続けていた。

「……見て」

 彼が鏡張りのクローゼットを見るように促す。麻衣子は顔を僅かに傾け、視線を動かしてそれを見た。
 そこには制服を乱し、制帽を傾けさせて横になった婦人警官、石橋麻衣子がいた。
 その制帽の下に浮かぶ表情は。
 満足感に満ちた笑みが浮かび、適度な幸福をその顔に湛えているように見えた。

「……格好良くて綺麗な婦人警官……でしょ?」

 彼が耳元で囁く。
 麻衣子は何も言わずにこくん、と首を縦に振った。

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