婦人警官 制服の為に ―婦人警官開放―

10 延長

「……もう……やめましょう……」

 とろんとした目で前田を見ながら優華がぽつり、言った。

「……やめてほしいのか?」

 前田は優華のうっすら汗をかいた頬をそっと撫でると優しく聞き返した。

「……だって…………先輩も……私も…………こんな……は、恥ずかしい目に……」
「にしては桜井巡査も久保寺巡査も喜んでたじゃないか。あんな声を上げて」

 ふふっと前田の口元が緩む。一瞬、優華の顔は途方にくれたような不安げな表情になった。そして、僅かに頬を高潮させて前田から視線を逸らした。

「……だ、だから……あんな大きな声を出したんだから……誰かが聞いて通報したら……」
「仲間がやってきて久保寺巡査や桜井巡査のこの姿を見られるんですよねえ」

 ぼそっと前田が耳元で囁いた。「仲間」と聞いた優華の肩がぴくん、と震える。

「久保寺巡査はともかく、桜井巡査はそれでいいんじゃないです? 露出狂の変態婦警だから……」
「そ……そうじゃなくて…………怖くないの……警察が来たら……4人とも現行犯逮捕されるのよ……」

 真理子と優華がこんな状態で、しかも前田の手には全てを収めたデジカメがある。
 しかし、逮捕と聞いて前田はプッと吹き出した。

「心配してくれるのか? 婦人警官の久保寺巡査が」
「…………」

 優華、沈黙。自分でなんでこんな事言ったのかと後悔するように弱々しく下唇を噛んだ。

「大丈夫。通報はされない。ここはよくAVの撮影とかに使われる名スポット。毎日のようにどっかで露出物やレイプ物の撮影がされてるんだ。女の喘ぎ声なんかで不思議に思うヤツはいないんだ……」
「う、嘘でしょ……」
「本当。毎日自分が頑張ってるからそんな事はないって思ってた? 警察が頑張ってもアングラはなくならないんだ」

 この街の平和は自分たちが担っている。自分たちが一所懸命働いているから平和でいかがわしい事もなく市民が生活できている。
 そんな自負があったのだが、それが優華の中で崩れたような感覚を覚えた。

「……それに」

 優華の目が戸惑うように僅かに泳ぎだすと前田がにやっと笑い、ワイシャツの上から彼女の乳房に手をやった。

「ひあっ!」
「桜井巡査も久保寺巡査も『助けて』とか『警察呼んで』とか一回も言わなかった……言ってたら通報されてたかもしれないけどなあ。そして、この距離だったら警察署に声が聞こえても牝ネコの発情の鳴き声にしか聞こえない。だから……」

 ぐっと優華の乳房を鷲掴みにする。その瞬間、びくっと優華の体が震えた。

「ああっ」
「警察は来ないし、俺達も捕まらない。そして、まだ楽しめるんだ」

 そう言ったのと同時、前田は優華の唇に再び自分の唇を押し当て、下を彼女の口の中に潜り込ませた。そして紺色の上着とその下のワイシャツのボタンを外していった。静かに割れた制服の合間から白のブラに包まれた優華の若々しいゴムマリのような乳房が現われた。

「ん……んんっ!」

 口を押さえられた優華はただくぐもった声を上げるだけ。体をよじったり暴れたりはせずに殆どなりゆくままに制服のボタンを外されていた。

「んっ……はあっ……」

 前田が優華の唇から舌を抜き、唇を離す。つっと2人の舌を糸のようになった唾液が僅かな間繋げた。

「……いい顔だ……」

 そう言って優華の恍惚とした顔を見ながら前田は軽く笑った。そして彼女の傍らに置いたロングブーツを手にするとだらしなく開いた足下に手を伸ばした。

「ブーツ、履きましょう。女性の脚にはコレが一番合う」

 そんな事を呟きながら前田はパンストを脱がされた左足を掴み、赤子のオムツを換えるようにひょいと上げると、その脚にジッパーの開いたブーツをはめ込ませた。
 ジ、ジジジジジ……
 ゆっくりとジッパーを上げて行く。まるで優華の脚にブーツが履かされる音を楽しむように前田はゆっくりジッパーを上げていった。

「…………」

 優華は声も上げず、動きもしない。ジッパーの音が屋上にやけに響いた。
 素足にブーツを履かされその違和感に顔をしかめたり少しは否定的な動きをするかと思ったが――。前田はもう一つ小さく笑って一気にジッパーを上げた。

「これでよし……初めて見た。裸足にブーツって」

 優華の素足に履かされた黒のロングブーツ。前田は愛しそうに撫でるとそっとそれに顔を近付けた。
 前田の頬にブーツを通して火照った優華の温もりが伝わってくる。前田は思わずブーツに頬づりをし、ちゅっと彼女の脛辺りに口付けをした。

「……皮の匂い……温もり……これだ…………」

 そう言いながら鼻息も荒く、優華のロングブーツの匂いや温もりを貪った。そしてその口から舌が伸び、ぺろぺろと味わうように舐め回しだした。

「………………」

 そんな事をされても優華は無反応。まるで前田の存在が抹消されているかのように虚ろな目で空を見上げていた。

「……はあ……っと……」

 一息ついて、前田は優華のブーツから離れた。彼女のブーツは前田の唾液に濡れ、温もり切っているのかほのかに湯気すら上がっていた。
 前田はブーツを舐め回したその口を優華の耳元に向けた。

「俺の前戯はここまで。次は久保寺巡査の番だ」
「……い……いやだ…………」

 機械のような無感情な声が優華の喉の奥から搾り出された。前田はちゅっと優華の耳たぶを甘噛みした。

「んっ!」

 ぴくっと優華の体が震える。前田はにやっと笑うと屋上の柵の方に顔を向けた。

「松永、野村。桜井巡査をこっちに連れてきてくれ」
「へーい」
「わかったんだな」

 二人は柵に手をかけ、腰砕けになったように膝を突いてへたり込む真理子に歩み寄った。

「ほら、立てよ真理子ちゃん!」
「ま、前田さんが呼んでるんだな」

 へたり込んで肩で息している真理子を2人は両脇から抱え上げた。

「ま…………まだ……なにか…………」

 抱え上げられ自分の意思の外で立ち上がらされた真理子がだらしなく開いた口から言葉を漏らした。一度弛緩しきった顔はまだ戻っていないのか、凛々しさとは程遠い顔に露になった乳房。そして、捲り上げられたスカートと股間から脚を伝ってパンティやパンストを汚す鮮血と精液と愛液。
 ぬるぬるした心地悪さを感じつつ、真理子は2人に引き摺られるようにして優華のそばに引きつれて行かれた。

「……せ、先輩…………」
「…………優華……」

 ずっとそばにいたのに間近に顔を見合うとなぜか2人は久し振りに会ったかのような感覚を覚えた。

「さてと……おい、桜井巡査をここに」
「へーい」

 松永と野村は真理子を優華のすぐ隣にぺたんと座らせた。すると前田が優華から離れ、真理子にそそっと歩み寄った。

「今まで以上に恥かしい事、させてあげます。みんなに見せ付けて……」
「……も、もう優華は関係ないんでしょ? 解放……」
「関係ないなんてとんでもない。大いにあるんですよ……これが最後のイベント。ちゃんと言う事聞いたら解放も考えますから」

 そう言う前田の顔はとても楽しそう。真理子にとってはその楽しそうな顔が不気味さと恐怖を感じる物だった。

「……優華に……もう酷い目に遭わせないで……」
「はいはい。後輩を思ういい先輩ですねえ」

 うんと前田は一つ頷くと優華のそばに歩み寄り、仰向けになった彼女の手を引いて上体を起きあがらせた。

「……え? ……何を……」

 きょとんと優華が無防備な表情になって前田の顔を見上げた。前田は手をとって優華を起こすとそっと彼女の耳元に囁いた。

「桜井巡査を押し倒してキスしてください」
「!」

 はっと優華の顔が驚きで弾ける。前田は無論、優華がそんな反応を見せるのは予想済み。口元に笑みを浮かべて大きく頷いた。

「俺や松永達に無理矢理されるよか、マシでしょう」
「そ、そんなの……で、出来る訳……」
「ない事はないでしょう。先輩がヤラれてる時、アソコをぐちょぐちょにしてたでしょ?」

 ぴくっと優華の体が反応する。前田は彼女の耳元でさらに囁いた。

「尊敬してる人がそんな事されてるのを見て濡らすってのは……久保寺巡査に変態が入ってるってのもあるでしょうけど、気持ちが尊敬じゃなくって愛になってる証拠なんだ」
「違う……違う…………私は……先輩を尊敬……んっ!」

 かぷっと優華の耳たぶに前田が甘く噛みついた。優華の喉奥から甲高い声が上がる。

「尊敬じゃなくて好きなんだよ。久保寺巡査は……変態の上にレズか……もう、頼るのは同じ変態婦警の先輩しかいないんですよ」
「…………」
「さ、先輩を驚かしましょ。言う事を聞いたらもうこれで最後にしますよ。二人とも無傷で解放しますし、デジカメもどーにかしますから」
「…………」

 優華は黙っていた。正確に言えば返事もせずに考えていた。
 先輩にキスすればこの悪夢は終わる。デジカメに取られた忌々しい記憶も消される。
 そうすれば自分は無論、先輩も救われる。しかも、キスする相手はその辺のこの獣ではなく、そこら辺の野良犬じゃなく尊敬する先輩。
 こんな機会じゃないと押し倒すどころかキスすらできない、尊敬する先輩――。
 優華は返事もせず、ふらっと真理子に近寄って行った。
 優華の肌蹴た制服姿を後ろから見ながら前田は一つ頷いた。

「よし、それでいい……さてと……おい、松永、これを」

 前田はデジカメを松永に手渡した。

「へーい。しっかり取りますよ。婦警同士のキスシーン」
「それだけじゃない……まあ、いい。ところで貸してくれないか?」
「? 何をです?」
「ジェルだ」

 それを聞いた瞬間、松永の目がランと輝いた。

「へえ、前田さんも後ろに興味を?」
「…………たまにはいいだろ」

 男2人がそんな会話を交わしている事など知る事もなく、優華が真理子のそばに歩み寄っていた。

「……優華…………?」

 いつもと違う。
 幽霊のように漂う優華に真理子は明かな不審を抱き、優華の名を呼んだその刹那、

「……先輩、ごめんなさい」
「えっ」

 僅かに小声でそう声を交し合ったかと思うと優華が座りこむ真理子の両肩に手を伸ばし、そのまま彼女を仰向けに押し倒した。

「きゃっ」

 不意討ちを食らったように真理子は全くの無力。優華の腕力で仰向けに倒され、そこに優華が覆い被さった。

「ゆ……優華……?」

 真理子は信じられないと言いたげな表情で優華を見つめていた。そのまま彼女を払い除けようともせず、腕も脚も全く動かさないで。

「…………」

 優華は何も言わずそんな真理子を見つめている。上と下。2人は真正面から視線を合わせあっていた。
 呆然とする真理子。興奮しているのか鼻息が荒い優華。
 動揺と興奮がせめぎ合い、2人の周囲に妙に緊張感のある沈黙が流れた。

「…………優華……いいのよ…………」

 永遠にその時間が流れるかと思ったその時、不意に真理子が呟くようにそう言った。全てを悟ったのか、あるいは優華ならいいかと思ったか、それとも衝撃的事態が続いて本格的に壊れたのか。しかし、そう言ったのと同時に弛緩していた真理子の顔に母親のような笑みが一瞬浮かんだのを優華は気付いた。
 真理子がどうなったのか。優華はそれで理解し、腕立てをするようにゆっくり腕を曲げて行き、真理子の顔に自分の顔を近付けて行った。

「……先輩……」
「……優華……」

 2人の唇が合う前に肌蹴た乳房同士が合い、丸いその形がひしゃげ潰れて崩れて行く。すると二人の鼓動が感じ合え、優華の呼吸はますます荒くなって行き、真理子の体温がかあっと高くなっていった。
 呼吸も体温も全てが頂点に達したその時、

「ん……」
「んん……」

 2人はほぼ同時に瞼を閉じ、唇を重ねあった。真理子の肩を抑え付ける優華の力は強まり、そっと優華の脇腹に真理子の手が回り込もうとしていた。

「うひょ、いい眺めだなあ」

 目を閉じた2人がキスをする時に制帽のつば同士がふれあい、優華の制帽があみだ被りになる。
 その横顔をズームで松永が撮っていた。


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