婦人警官 制服の為に ―婦人警官開放―
10分ほど経って警察署の女子更衣室。
「………………」
ロッカーを開け、優華が何かを考え込むようにその中を見つめていた。
彼女の視線の先には制服の活動服とズボンが下がり、その中の棚には活動帽と制帽が置いてあった。
(……活動服の方がいいかな。いつもよりも歩き回るみたいだし……)
そう思うとふと、ロッカーの下の方を見下ろした。そこには黒光りするロングブーツと革靴がある。
(…………あの前田って人……なんだか私や先輩のロングブーツをよく触ったり撫でたりしてたな……)
ロングブーツを見るとそれを擦ったり撫でたりする前田の姿が思い出された。
(……普通の靴がいいかな……大体、活動服はズボンでロングブーツは履けないし……)
優華は首を軽く左右に振るとしゃがんで革靴を引っ張り出してハンプスを脱ぐと、活動服に手を伸ばした。
「優華!」
その時、コーヒーを飲んでいた真理子が息を切らして慌てて更衣室に入って来た。
「先輩?」
「メールが……あいつ等から」
真理子は携帯電話を開き、その液晶画面を優華に見せた。
「『忙しくなってきましたね。これから外に出ますよね? 外に出るんでしたら昨日のあのビルの前に来て下さい。昨日は時間がなくてあまり楽しめなかったから、一杯楽しみましょう。服装はもちろん、普通の制服制帽、スカートで。ロングブーツもお忘れなく 前田』」
メールを目で読んだ優華は口を半開きにし、愕然とした表情を浮かべた。
「……あ、ああ……」
「警邏の強化で地域課の人間がほぼ1日中外に出るって事も予測済みって事みたい……」
真理子はそう言うと携帯電話を閉じ、ポケットに押し込んだ。そして様々な思いが襲いかかり、少し混乱気味に視線を宙に泳がせる優華を見た。
「どうする? 逃げる?」
「む、無理です……多分、どこかで私達が警察署を出るのを監視しているから……」
真理子を眠らせた時もそうだった。優華は男達の影に恐れおののくように弱々しく言った。すると真理子は一つ溜息を付くと軽く考える素振りを見せた。
「……優華、内勤にしてくれるように言っておく?」
「…………いいえ」
不安定だった優華の視線が急に定まり、心配げに見る真理子の顔を見た。
「先輩だけ行くのは危険です。あいつらは人殺しも平気でするようなやつらですし……2人で行かないと何をされるのか……」
「私だけでも大丈夫だと思うけど……まだ生理は続いているし、それに無線も持ってくから……」
「でも……先輩だけをそんな酷い目には……」
優華は食い下がった。真理子を1人で行かせたくない、なぜかそんな強い思いが彼女を突き動かしていた。
真理子は普段になく強い調子の優華を少し怪訝な面持ちで見た。
「そう……でも、行くのはレイプされに行くようなものよ……」
「だったら余計です。先輩だけ……先輩だけそんな目に会わせる訳には! それに、これは全部私から始まった事ですから……」
真理子は優華の必死の言葉にふうと一つ息を吐いた。
「……わかった。一緒に行こう」
漏らすように真理子は言うと自分のロッカーを開け、そこからロングブーツを取り出してサイドのファスナーを下ろした。
「無線、あたしが取っておくから、優華、準備しておいて」
「はい」
そう言いながら優華は一度引っ張り出した革靴を戻し、ロングブーツを取り出した。
しばらくして。スカートの制服に制帽、そしてロングブーツと言う前田の支持通りの装いで優華と真理子が署を出た。
真理子の肩には無線機、2人の左腕には『防犯』と書かれた緑色の腕章がオプションパーツのように装備されていた。
優華は署の敷地を出るときょろきょろと辺りを見渡した。
署の前の道路、コンビニ、街路樹に植込み。怪しい男の影は見えなかった。
「……あいつ等の事よ。こっちから見渡して見つかるようには監視してないでしょ……」
「そ、そうですね」
2人は重い足取りで警察署からその裏手にある昨日の廃ビルに向かって歩いて行った。
その間中、2人は何となく誰かに監視されているような、そんな気がしていた。
警察署から廃ビルまでは歩いて五分かかるかかからないかの距離だった。
廃ビルが面している路地を歩きながらふと、優華が呟いた。
「……でも、廃ビルに呼び出してどう言うつもりなんでしょうか……」
「さあね……まあ、そこで昨日みたいに車に乗せられて……って所じゃない?」
口調は軽いが真理子の表情は硬い。覚悟を決めているようだった。
2人は人通りのない、まるで路地自体が死んでしまったように静かな道を歩き続けた。聞こえるのは2人の息遣いに無線が傍受する他の警官の声、そしてブーツの踵の音。それらが路地に壁のように沿って立つビルに響き、寂寥感をさらに増させた。
そんな中を2人は歩き続け、目的の廃ビルの前に着くとほぼ同時に立ち止まった。
「……誰もいない……車も……」
2人はビルの前できょろきょろと辺りを見渡していると廃ビルの中から図体のでかい男と小柄な男が現われた。
「き、来たんだな」
「ちょっと遅かったな!」
それは野村とボストンバックを持った吉田だった。2人は明かに何かを期待するかのような下世話な笑みを浮かべて優華と真理子を迎えた。すると反射的に真理子は優華の前に立った。
「近付かないで。優華に酷い事をするんだったら……」
「その婦警さんの言う通りだ。控えろ」
「お預けだぜ、野村、吉田」
その時、廃ビルの奥から別の2人の男が現われた。それは前田と松永だった。それを見た瞬間、優華ははっと両目を見開いて驚いた。
(よ、4人ともここにいるって事は……私達は監視されてなかった……)
もう直接見張らなくても2人をコントロールできるんだ。
そんな事を言っているかのような笑みを前田が浮べながら2人を見ていた。その様子に優華は自分達に掛けられた前田達の網の強さを改めて感じた。
早くも見下されている状況を感じた真理子がきっ、とその動揺を悟られないように強気を装って前田を睨んだ。
「……こんな所に呼び出して……何の用よ」
「昨日の続きですよ。だから場所も昨日と同じにしたんです」
前田は軽く笑ってそう言うとさっと野村と吉田に入口を開けるように手を動かした。
「早速中に。きっと青姦好きの婦警さんと真面目な婦警さんにはたまらないスペースになってますよ」
前田の言葉に真理子はぐっ、と息を飲みこみ、前田をさらに厳しい眼差しで睨み付けた。すると野村が優華と真理子の背後に回り、軽く2人を押した。
それに誘われるように優華と真理子は廃ビルの中へと入っていった。そして、その場の人間全員がビルに入ると入口のシャッターが閉められ、そこに人がいたと言う形跡すら掻き消した。
優華と真理子は中に入ると吉田を先頭にその階段を上がり始めた。
「今日は無線を持ってるんですねえ」
最初の階段を上がりながら前田が真理子の肩に着いている無線機を触りながら言った。
「触らないで。あなた達が触るような物じゃないわ」
「何かあれば警察署に連絡が出来るんですねえ……今は連絡しないんですか?」
しない事を知ってて言っている。真理子は前田の言葉を不快に感じた。
「し……してもいいのよ……」
「そうしたら、婦警さん達も困るんじゃないですか? 昨日、俺達が予告したのに強盗を止められなかったんだし」
「…………」
真理子は悔しそうに黙り込んだ。
「……あ、そうだ」
そんな真理子を軽く笑いながら見ていた前田がふっと立ち止まった。
「桜井巡査、便秘ですか?」
「えっ」
真理子は不意討ちを食らったようにきょとんとし、そんな事をいきなり訊いて来た前田を信じられないと言いたげに見つめた。
「な……何を言い出すのよ……そんな事関係ない……」
「昨日のように乳首で訊きましょうか?」
そう言いながら前田がズボンのポケットからクリップを取り出してカチカチとその口を開閉させた。金属質のその音に真理子はぴくっと肩を震わせた。
「…………い……べ……便秘なんかじゃないわよ……」
「へー、最近いつ出しました?」
「……今朝…………」
昨日のクリップで真理子の心は挟み込まれたままなのか、クリップを見ただけで真理子の口から質問の答えが引きずり出されていった。
真理子の答えに前田はふうんと軽く簡単の息を吐いてふふっと笑った。
「快食快眠快便ってやつか……だからあんないい体が保てるんですね」
「……だからなんなのよ!」
弄るような前田の質問に真理子が不意に語気を強め、前田を睨んだ。しかし、前田は気にする事なくふっと小さく笑うだけで何も返事をしない。
「へへっ、じゃ、優華ちゃんはどうなのかな〜? また便秘?」
「ひっ!」
その時、真理子の後ろにいた優華に松永が抱き付き、その胸やヒップを撫で回した。優華の短い悲鳴に真理子ははっと彼女の方を振り返った。
「や、止めなさい!」
真理子が松永を引き離そうと動こうとしたが、すぐにその手首を前田に掴まれ、手にしていたクリップを手の甲に当てた。
「まずは手から行きましょうか? 大人しくしてたら何もしませんけど」
「…………」
真理子が沈黙すると松永は真理子を見ながら制服の上から胸やヒップの膨らみを確かめるようにさらに強く撫で回した。
「質問に答えたら止めてやるよ。で、優華ちゃん、また便秘なのかよ〜?」
「…………」
優華は口をへの字に曲げ、敏感な部分を擦られる心地の悪さに耐えた。すると何も言わぬ優華に松永が悪戯っぽくニヤついてその耳元に囁いた。
「いいんだぜ。山の時みたいに調べてやっても」
そう言いながらヒップを撫でる手がその割れ目の辺りをつっと指でなぞり、グッと指を押し込んだ。
「!」
肛門から指を入れられ、中で蠢させられた感覚や記憶がぱっと甦った。
「わ……べ……便秘……です…………」
「何日目?」
「…………い、5日目…………」
「ダメだぜ。そんなんじゃ。便秘になりやすいのか?」
松永の執拗な問い掛けに優華は泣き出しそうな顔になってこくっと一つ頷いた。
「いい加減にしなさい! もういいでしょ!」
そんな優華の様子に耐えられなくなったのか、クリップの恐怖を乗り越えて真理子が声を上げた。
「そんな事訊いてどうするのよ!」
「なんでも訊かないとな……楽しみを増やす為だ」
いきり立つ真理子に対して前田は冷静なもの。前田はごく当たり前のようにそう言った。
「久保寺巡査が便秘か……じゃ、まずは最上階にご案内だ。準備はできてるよな?」
「へへっ、ちゃーんと」
そう言いながら先頭を行く吉田がボストンバックを見せ付けるように持った。それを見た優華から一度離れた松永がにやっと笑ってまた優華の耳元で囁いた。
「前みたいにイチヂクに野グソなんかじゃねえから、安心しな、優華ちゃん」
松永の囁きに優華は何の反応も示せなかった。松永や他の男達が自分に何をさせようとしているのか。
便秘の話をさせられた時点でそれは優華には痛いほどわかったからだった。
「な、何を……」
優華の無反応や男達の反応、そしてボストンバック。真理子には薄気味悪さしか感じられず、戸惑ったように男の顔の間に視線を泳がせた。
すると前田がそっと真理子に言った。
「こればかりは先輩が変わる事は出来ませんしね……健康な自分の体を呪ってください」