婦人警官 制服の為に ―婦人警官開放―
序章
翌日。地域課の課員全員が警察署の中の会議室に集められた。
「この1ヶ月、管内では婦女暴行事件、殺人事件、強盗事件と治安が急速に悪化している」
普段のほほんとしている上司の顔はいつになく険しく、そして蒼白と言えるような顔色で訓辞をしていた。
(……上からだいぶ締め上げられたみたいね……)
真理子はやや白けながら、無論、表に出してはいないが、そんな上司を見ていた。
「これからは目に見える活動を行なう! 全員、持ち場の警邏を強化し、犯罪が行われる隙を作らせるな! それと、定時連絡や情報の伝達を密にするよう! 以上!」
上司が訓示を切ると一斉に課員が立ち上がり、警邏に向かい始めた。
真理子もゆっくりと立ち上がり、隣に座る優華をちらっと見た。優華は浮かない表情で訓辞を聞き続け、終った今もどことなく浮かない表情のまま。
「優華、疲れてる?」
「え? あ、いえ……別にその……」
真理子に話し掛けられた優華ははっとし、慌てて首を左右に振ってすくと立ち上がった。
「無理もないか……辛いでしょ……」
「あ、桜井君に久保寺君」
2人がひそひそと話していると書類を抱えた上司が2人に話しかけて来た。その瞬間、優華は一瞬、ビクっと肩を振るわせた。
(優華……)
真理子はそんな優華に気付き、彼女と上司との間を遮るように優華のそばに立った。
「はい、なんでしょう?」
「君達はA地区を回ってくれないか。いつもと違う持ち場だが……」
A地区は警察署の周辺。当然、比較すれば犯罪が少ない地域だった。
女の子は前線ではなく安全な場所にいてくれ。
そんな前時代的な気遣いが上司の言葉に浮かんでいた。真理子は一瞬、ムッとしはしたが軽く笑って返した。
「わかりました……優華、行こう」
「はい……」
2人は上司に軽く会釈するように頭を下げ、会議室を出て行った。
「無線を忘れるなよ。警察署の周りで犯罪するバカはいないと思うが、何があってもいい様に定時連絡は密にな」
「……はい」
少し、喉の奥に何かをつっかえさせたような返事を真理子が返した。
「警察も開店時間を迎えたようだな」
その頃、警察署の向かいに建つコンビニで前田が雑誌を立ち読みしながらその様子を伺っていた。
「ぞろぞろとパトがハエみたいに出て……へっ、力入ってるな」
前田の隣で普段読みもしないメンズファッションの雑誌を読みながら松永が軽く吐き捨てるようにそう言った。
前田はふふっと雑誌に載っている記事を読んで笑ったようにほくそ笑んだ。
「そりゃそうだろ。1ヶ月で殺人と強盗があったんだしな……ま、こっちの思惑通り警察も動いてくれて久保寺巡査と桜井巡査とも会えるようになる訳だ……で、『舞台』の方は?」
「万全。吉田と野村が準備してます」
「……吉田と野村か……なんでお前が行かなかった?」
雑誌をぱらぱらめくりながらちらっと松永の顔に視線を流した。
「野村はさておき、吉田も大分使えるようになってきたし……優華ちゃんをヤッた時から随分度胸がついたよ、アイツ」
松永はへへっと笑いながらその視線を雑誌から前田に向け、そっと顔を寄せて小声で囁いた。
「この前、隣町でOLヤッて金盗ったらしい……アイツは度胸が付きゃ使えるようになるって思ってたし……」
「制服の婦人警官としたんだ。ノミの心臓でも度胸がつくさ……そうか……1人で動くようになったか……」
前田はそう呟くと雑誌を閉じ、スタンドに返すとポケットから携帯電話を取り出した。
「さてと……招待状を送ろう。ちゃんとした格好で来るようにな」