壊滅
「本部応答願います! 本部!」
無線機から女の叩きつけられた声が飛んで来る。
「こちら女子機動隊! 応援を! 早く応援を回してください!」
女の声の後からは無数の暴徒の声。ガラスの割れる音、カーボネートの盾を蹴ったりする打撃音。
「本部! くっ……やめなさい! 警察よ! 抵抗する者は公務執行妨害で逮捕します! 今すぐ解散しなさい!」
思えば……昨日か。この女子機動隊隊長の冷静で熱い声が私の耳に響いたな。
「なぜですか! なぜ私達だけが後方で待機なのですか!」
それはある日の事だった。
わが県のとある地方の都市で暴動が発生した。事前の情報なし、予兆もなし。ついでに言えば暴動の目的も主義主張も首謀者も何もわからない。
まるで何か病原菌に一斉に感染して一斉に発症したかのような、そんな暴動だった。
そんな訳のわからない騒乱に我々県警は全機動隊を出動させ、少々手を焼きながらもその英雄的活躍によって暴徒共を街の一角へ隔離する事に成功。次の段階、鎮圧作戦へと以降する事になった。
今はその作戦会議中。そして声を荒げて私に詰め寄るこの女は県警で唯一の女子機動隊の隊長。50人の女機動隊を束ねている。
「何も後方でじっとしていろとは言っていない。万が一、暴動に巻き込まれた女性がいたらその保護を」
「あの一角の女性は全員私達で保護しました!」
女子機動隊が? 何を言っている。逃げ惑ってきた女や保護した女を相手にしてやってただけだろ。第7機動隊のそばでウロウロしていただけだと言うのに。初めての出動でのぼせているようだな。
「しかし、まだいるかもしれない。1機の後方に待機して指示を待っていろ」
「納得できません! 後方で待機し続ける機動隊なんて聞いた事がありません! 機動隊は暴徒の鎮圧と秩序の維持の為に存在しているのです!」
言われなくても。その為に県警の第1から第9機動隊までが暴徒と闘っているのだ。お前ら以外の全員がな。
「……もしかして本部長」
勝ち気でつん、とした顔が私を睨みつける。
「私達が……女だから後方に配置するのですか」
出た。できる女の被害妄想。こいつももっと素直に物を考えられたら……できる上に美人なんだからいい結婚相手も見つかるのにな。
「そうは言ってない。ただ、女性にしかできない役割があるだろ。それを君達に果してもらう。それだけだ」
「待機は男にもできます!」
隊長がどん、と私の前の机を叩いて詰め寄る。
「私達は選抜されて通常の機動隊と変わらない訓練をしています! 装備だって変わらないではないですか!」
「そうだがな……」
隊長は私を睨みながら軽く顔を上気させている。大分興奮しているようだな。
「女の部隊だから実戦向きではないと即断するのはやめてください! 私達はイベントのマスコットではありません! 機動隊です!」
隊長は私の目を睨みつける。
「……わかった。前線の配置を考えなおそう。しばらくは現状で待機してろ。追って配置場所を伝え、今夜、移動する」
「はい。必ず私達が鎮圧させてます」
隊長はそう言うと1歩後退して私に敬礼をし、ごつごつと無骨なブーツの足音を立てながら部屋を出ていった。
「直ちに解散しなさい! 解散しなさい! 抵抗する者は公務執行妨害で逮捕します!」
ONにしっ放しの無線機から入ってくる女の声がどんどん耳に飛び込んでくる。同じような台詞は他の隊員も言っているらしく「やめなさい!」とか「逮捕します!」と可愛らしい声が聞こえてくる。しかし、その声以上に暴徒の声の方が大きく、全体的にかき消され気味。
「やめなさい! 抵抗を止めて大人しくしなさい! くっ! な、何言ってるの! こいつら!」
……異常に気付いたか?
「本部! 本部! こちら女子機動隊! この暴徒、様子がおかしい!」
訓練通りいかないのが実戦だ。想像を絶するような事が起きてもおかしくはあるまい。
「総員、密集隊形! なんとしても持ちこたえるのよ!」
女の指示が飛ぶ。気丈にも暴徒に向かっているが……さて、どこまで持ちこたえられるか。
「くっ! やめなさい! 警察官への攻撃は公務執行妨害……本部! こいつらは何者なの! 情報があれば至急に請う!」
情報か……現場の情報で十分だろう。お前らがどんなのを相手にしているのか。
「女! 女あ〜!」とか「ヤラせろ〜」って怒声と言うより奇声をあげながらどれだけ盾で殴りつけようが、向かってくるヤツらだって事だ。
「上手く焚き付けられたな」
新たな作戦を女子機動隊に伝え、移動の命令を下すとそばにいた制服の男が私に話しかけてきた。
「……まあ、これくらいにしか役に立たない連中だ。経費食わせて飼ってる分の働きはしてもらわないと」
私はコーヒーを淹れ、下した命令書を見る。
駅西広場国道方面路線に移動、暴徒襲来時は現地にて足止め。その間、背後に第6、7機動隊が回り込んで挟撃する。
その命令書とそれが元となっている作戦書ををくずかごに捨ててコーヒーをすすり男を見る。
「それより……研究所もしっかりしろ。性犯罪者矯正の為の性欲減退ガスを研究していて、なんで逆の性欲増強ガスができる。しかも、理性まで外すと来た」
「研究なんて表裏一体な物」
「その上凶暴性も増強とは……ったく、抑える機動隊も楽じゃないんだぞ……」
「県警のご協力には大変感謝している」
「本当に性欲減退ガスを作ろうと……」
一瞬浮かんだ疑問をかき消す。勘が鋭いのは墓穴を掘るのと同義と言う事もある。
その男、県警科学研究所の所長が私の言葉に薄く笑う。
「まあ、何を作っているかはさて置き、それが外に流出してしまったのは予想外。それを上手く鎮められるように手配したのはさすが、本部長」
「感謝には及ばない。県警全体の失態になりかねないからな……それよりも」
所長を見ながら私はもう1枚の作戦書を手にした。
駅西広場国道方面路線に移動、暴徒襲来時は現地にて足止め。その間、他の部隊は指定地点にて次の命令が下るまで待機。
目で作戦書を見るともう一度所長を見た。
「これだけで抑えられるか。こいつらだけに収めたいのだが」
「ああ。50人もいるのだろ? ざっと見て男は千人程度。一人20〜30人相手できればOKだろう」
いかにも机上の計算だ。しかし、それくらいはあいつらでできるだろう。そこらの女よりかは体力あるのだから。
所長はふむ、と一つ息を吐くとふっと一つ笑った。
「まあ、する事すればすっきりして大人しくなるはずだ。彼女達にしかできない任務に期待をしよう」
「本部! 本部! こちら女子機動隊! 6機と7機はまだですか! 暴徒の数が数百……もう千近くに増えています!」
隊長の声が悲鳴のようになっていく。ガスにやられて野生化した暴徒の数が増えているのは野生化した男の奇声のボリュームが上がり、警告を与えていた女達の声が苦しげなうめきや短い悲鳴に変わった事でわかる。
「全員公務執行妨害で逮捕する! 今すぐ解散しなさい! みんな怯んじゃダメ! 6機と7機がもうすぐ来るから! それまで密集隊形を保って耐えるのよ!」
6機と7機? お前らの地点から1キロほど先で待機中だ。他も駅西広場を遠巻きに見るように待機しているんだ。
盾を蹴る音が増え、女達の短い「きゃあ!」と言う悲鳴も増えていく。完全に押されている。まだ機動隊としては甘いな。
「本部! 6機と7機はっ! このままでは孤立してしまいます! 本部! 応答願います 本……ダメ! そこ隊形が崩れかかってる! しっかりして!」
隊長の声が暴徒の奇声と打撃音でかき消されつつある。叫ぼうが何しようが口頭の指示はかき消される事がある事くらい予想がつくだろ。隊長として減点だな、この女。
それに、もういい加減気付け。お前達はもう孤立をしている。いや、孤立して連携もなく配置されているとな。
「本部! 応答願います! 応答……ああっ! だ、ダメ! 離れちゃダメっ!」
隊長の悲鳴のような声。それと同時にその声の背後、暴徒の奇声の合間に悲痛な女の悲鳴が入る。
「いやあああ! 放して! やめてええっ! た、助けて! 隊長おおおっ!」
「きゃああああっ! やめなさい! 私は警察か……やだああああ!」
「やめてっ! 助けに……ああああっ! 放しな……! やめてっ! 助けてええっ!」
3人が隊形からこぼれたか。ま、こいつらの事だ。1人がこぼれてそれを2人が助けようとして勝手にこぼれたのだろう。
「み、美佳! 小百合! 由紀! ダメ! 離れちゃダメ! そこの男達! 3人を放しなさい! 今すぐよっ!」
1人の隊員くらい、隊形の維持の為には切り捨てるくらいの冷徹さが隊員には必要。覚悟と自覚がたりんな、この女ども。
「3人から離れて! やめなさい! 強姦罪も適応する……」
「いやっ! やめっ! やめてえええ!」
「きゃああああ! 誰か助けてえ! もうダメ! いやあああ!」
「あうっ! た、隊長おおおお!」
「ち、千佳、佐織、芙美! ダメ! 密集隊形を崩さない! そん……み、美奈! 美由紀! 奈々! 隊形を……ひっ! 瞳! 恭子! 弘美いいっ!」
隊形から何人かがこぼれだしたか。まあ、その体でしっかりと覚えろ。一旦隊形に綻びが生ずるとどうなるか。
「全員集まって! 密集隊形を崩さない! 聞こえないの! 隊形を崩さない! 集まって! 集まって……ダ、ダメ! 離れちゃダメエエエエエッ!」
隊長の命令が悲鳴のような音になる。無線機から流れてくる声は割れ、最後の方は何を言っているのかすら聞き取り難い。
「きゃああああああっ!」
「いやあああっ!」
「やめてえええええっ!」
女の悲鳴の輪唱が続く。その悲鳴の声の数が増えて行き、どんどんと隊が隊の形を成せなくなってきているな。
「本部! 応答してください! 本部! 早く6機と7機を! もう完全に包囲されて撤退もでき……やめなさい! その子達に手を出さないで! 私達は警察官なのよっ! やめなさいいっ!」
……6機と7機に命令。待機だ。まだ動くのは早い。
「本部! 本部! 応答願います! 本部! み、みんな頑張って! 耐えるのよ! す、すぐに……もうすぐ応援が……ひっ! そ、そんな……やめて! やめなさい! みんなを解放しなさいいい! あなた達何をしてるのかわかってるのっ!」
音声だけでもわかる。恐らく、隊長の視界には女の地獄絵図が広がっているのだろう。しかし、どんなショッキングな出来事、例え眼前で隊員が火だるまになろうが冷静に状況を判断する能力が必要なのが隊長なのだが。
「本部! もうダメ! 耐えきれない! このままじゃ隊は……きゃあああああ! は、離れちゃいやっ! ダメッ 離れないでええええっ!」
隊長の声でスピーカーが壊れんばかりに震える。
「放して! 触らないで! 公務執行ぼうが……ああっ! な、何をするの! やめて! 盾を返しなさい! 返してええええ!」
ついに隊長が暴徒に放り出されたか。と、言う事は女子機動隊は……。
「いやだあああああっ! やめてえええっ! 触らないで! 何もしないで! お願い! 許してえええ! お願いだからあああああ! ほ、本……きゃああああああ! だ、誰か助けてえええええっ! お母さ」
隊長の断末魔の悲鳴と共にここで交信は途絶えた。
午後2時27分、女子機動隊、壊滅と。思ったよりももったな。それだけ頑張ったと言う事だな。
ん? 回線が復旧した? ああ、駅西広場の防犯カメラの回線か。どれどれ。
…………音声だけはまだ復旧してなく、サイレントな中で映像が淡々と動いている。
女子機動隊を運んでいた輸送車が放火され、狼煙のように黒煙を上げている。その周辺には千人、いや、それ以上の暴徒が蠢いていた……やっぱり学者の机上の空論はダメだな。
そんな暴徒達の群れを見てみると所々に散り散りバラバラとなり、暴徒の真っ只中へ放り出された女子機動隊員の姿が見えた。
ある隊員は男たちにプロテクターを引き剥がされ、ヘルメットも奪われて破れたズボンとブーツだけにされ、男の慰み物とされていた。暴れて抵抗はしているのだろうがざっと10人程度に襲われていて抵抗になっていない。
画面の隅では別の隊員がヘルメットやプロテクターを装着したまま、フェラチオとバックを強要……あ、クンニもされているな。装備を残し、機動隊員をレイプする事を味わうつもりだな。
ん? そのそばではプロテクターを肌蹴させてヘルメットを装着した2人の隊員が向かい合ってキスをさせられたまま、バックからぶちこまれている。1人では太刀打ちできないから2人で力を合わせてこの難局を乗り切ろうとしているのか。しかし、数十人もの男が順番待ちしているみたいだぞ。
そこから少し離れたところで……1人の隊員が下半身を露出して泣きながら街路樹の脇で大盾に放尿と脱糞をしている。恐怖でおもらしした……訳じゃないな。屈辱に塗れさせようと言うのだな。その後は出した物を……コーヒーが不味くなる。
そのそばでは……警杖で排除しようとしていたが逆に奪われ、それを秘部にぶちこまれている。顔がイマイチだからか。ヘルメットにバイザーを下ろしたまま、ズボンを降し、プロテクターを外されてただの遊び道具とされている。
隊員1人平均3Pどころか10Pくらい。顔のいいヤツには20人くらいが群がって次々とレイプをしている。しかも無限機動のように次々と下半身おっぴろげた暴徒が襲いかかっている。
他にもある者はプロテクターを肌蹴させて両手で左右の男の男自身を握って扱かされている。その横ではヘルメットを奪われ前後両手、口ですら処理をさせられている。
それだけじゃない。下腹部に警棒を入れられている者、暴徒のお気に召さない外見だったのかレイプすらされずにボコボコにリンチされている者、既にヘルメットやプロテクターを白濁色に染められている者……遊びに飢えたガキに与えられた50体の玩具が思う存分に弄ばれ、崩され、壊されていた。
「まだ収まる気配はないか?」
後から研究所の所長が画面を覗きこむ。
「ああ。他の機動隊からの報告では暴徒はほぼ全員、駅西広場へ集結している」
「女の悲鳴や匂いには敏感になっているしなあ」
所長がなぜか満足げに笑う。私は一つ溜息をついて画面の切替ボタンを押して一つ息をついた。
「認識を改めなければ」
「と、言うと?」
「女の機動隊もこうして立派に任務を遂行している。身を挺して暴徒を足止めすると言う任務をな……あいつらの査定や昇進などの考慮もせねば」
「なるほど」
くくっと所長が笑う。
「それならば……女子機動隊をもっと増強してもらわねばな。そうだなあ、せめて100人程度」
「上に上げておこう。最近警察に入ったから女だが男と全く同じようにできると勘違いしている婦警も多いらしい。募集して足りないと言う事はないだろう……全く、差別と区別の違いを学校で教わらないのか」
「そう言う女だからこそ、だ」
切替ボタンをもう一つ押す。すると、赤い女子機動隊の隊旗がぽーんと暴徒の間から放り投げられた様が映った。
カメラを寄らせる。そこにはヘルメットとプロテクターは辛うじてまとっているものの、胸や下腹部を露出し、白濁色に汚れながら尚も男に慰み者とされている女が映し出された。
「……女子機動隊を増強すると言う事は」
「ん?」
「今後もこんな事は起きる可能性があると言うのか」
私の質問に所長はふっと笑った。
「先の事はわからないが、言える事は……研究は進み続けると言う事だ」
カメラが女に限界まで寄る。
気のせいか、その女、女子機動隊隊長が私を睨んでいるように見えた。
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