Crying in the
rain
「はいっ! ええっ! すみません聞こえませんっ! ……はいっ! こちらは封鎖が完了……はいっ? 封鎖は完了していますっ!」
深夜のパトカーの中、若い婦人警官の声が響いた。
「こちら側からは通行する車両は……はい? ありません!」
彼女は無線機を口のすぐそばにまで近付け、出来る限りの大声で報告をぶつけていた。
「……はい? はい! 引き続きっ! 封鎖を続けますっ!」
そして、報告が終わるとうんざりした様子で交信を切った。
「……もう」
口をへの字に曲げでフロントガラスを見る。
外の様子は、何も見えない。赤いパトライトが夜の闇を照らしている、はずなのだがそれもモザイクが掛かったようによくは見えなかった。
(よく降るわ……ね)
忙しくワイパーが動いているフロントガラス。しかし、それもほとんど役には立たず、外の状況がどんな風か。全く見えない。
彼女はそんなフロントガラスを見つめながらハンドルにもたれかかった。
(ゲリラ豪雨、ってヤツか)
外は猛烈な雨の真っ只中。その大きな雨粒が間断なく大地を、道路を、そしてこのパトカーを叩き、車内に聞いた事もないようなリズムと音量の雨音を響かせていた。
そんな雨音の中で、彼女は浅い溜息を一つつき、じーっとフロントガラスを見つめた。
(……そりゃ、冠水するよね……)
ワイパーで一瞬晴れるモザイク。その時に目に映る物はパトライトとヘッドライトに照らし出された道路。
線路の下をくぐる地下道のようなトンネルだが、そこは既に雨水に溢れて冠水していた。普通乗用車だったら軽く屋根まで水没するくらいの水。
彼女はそこに間違って車が突っ込まないように道路をパイロンで封鎖し、警戒をしているのだった。
(……でも、こんな雨で夜に車で走る人なんて……いないよね……)
退屈そうにパトカーのシートにもたれかかる。
制服を包み込む白のレインコートががさがさっと音を立て、半そでシャツから伸びる腕に軽く、まとわりついた。
「はあ」
雨音に紛れ込ませるように溜息をついて頭をシートにつける。
透明のビニールで覆われた丸い制帽も一緒にかさっと小さく鳴った。
「ん?」
その時、彼女の視線の先に入ったバックミラーがきらっ、と光った。
見ると猛烈な雨に遮られてはいるが、光がミラーの中に宿っていた。
ちらちらと揺らめきながらその白い光はこちらに近付いているように見える。
(誰か来る……? こんな日に外でなくたって……)
やれやれ、と彼女は浅い溜息をつくと助手席に置いた誘導灯のスイッチをいれ、レインコートのフードを被るとドアを開けた。
「っ……」
車外は滝のような雨。上下を白のレインコートで包み込まれた婦人警官に容赦なく雨がたたきつけられる。
服を着たままでシャワーを浴びるとこんな感じなのかな。
彼女はそう感じた。
「……」
足下は装備品の半長靴の靴底が沈むくらいの水が浮き、トンネルに向ってちょっとした流れを作っていた。
彼女はフードの中で顔をしかめてパトカーのそばに立ち、近付いてくるヘッドライトに向って誘導灯を左右に振った。
「……?」
ヘッドライトはさらに近付いてくる。誘導灯やパトランプに気付いていないのか、速度が落ちている様子はない。
「……! ……! …………!」
彼女はさらに大きく、そして早く誘導灯を振り回し、思わず大声で叫びながらその存在を知らせようとした。
しかし、声は雨音に溶かされて自分以外には聞こえない。誘導灯も大きく振っているが、遠くのヘッドライトですらにじんで見える程の雨。見えているのかよくわからない。
ただ、向って来るヘッドライトの大きさと明るさだけが大きくなってくる事は確か。スピードを緩める気配すらない。
「…………っ! …………っ!」
凄まじい雨音の中で必死に叫び、誘導灯を振る婦人警官。
その雨にフードが役には立たず、その幼さが若干残る顔やビニールを被った制帽が雨に濡れている事も気にならずに停止を求めた。
このままだと水没しているトンネルに突っ込む。
そう思った、次の瞬間。
「……ッ!」
道路上を覆う水を割って婦人警官の背丈以上をしぶきを作り出しながら彼女の目の前をワゴン車が走りぬけた。
しぶきは婦人警官に襲いかかり、彼女の頭の先から顔面、胸元、足下とさらに水に塗れさせた。
彼女は短い悲鳴を上げると誘導灯を手から離して腰から崩れ、道路に尻餅をついた。ばしゃ、っとレインコートに包まれた尻がちょっとしたしぶきを作る。
「…………?」
尻餅をついたままでトンネルの方を見る。ワゴン車は通行止めのパイロンを轢きながらバンパーの高さまで水没した所で止まっていた。
ストップランプの赤い光がパトカーを、ずぶ濡れの婦人警官を照らす。
「…………!」
彼女はすぐに立ち上がるとばしゃばしゃと水を踏みながらワゴン車に駆け寄った。
運転手は大丈夫なのか、パニックを起こしてまた車を発進させないように早く車から脱出させないと。
水に塗れた白のレインコートをパトカーのパトライトの赤とヘッドライトの白の光に照らしながら駆けた。
「…………っ」
ワゴン車に近付くに連れて水の深さは増し、運転席のそばまで来ると膝下くらいにまで水が来ている。
婦人警官は水に足を取られそうになりながら、たたきつける雨に顔をしかめながらもなんとか、運転席のそばにまで近付く事ができた。
そして、そのドアに駆け寄って窓を叩こうとした、次の瞬間。
「…………、……!」
突然ドアが勢いよく開いた。
突然の事、さらに雨と足元の水に気をとられていたせいで彼女は容易にドアに払いのけられ、バランスを崩した。
ばしゃん、と再び尻餅。しかし、今度は膝下まである水深の水の中。脚は完全に水没し、腰の辺りまで水に漬かった。
「……!」
尻餅をついた瞬間、反射的に閉じた瞳を再び開けて、その場で立ち上がろうとした。
その瞳にパトカーのヘッドライトに照らされた、運転席から飛び出てこちらへ駆け寄る男の姿があった。
「……ッ! …………! …………!」
男は無言で婦人警官に駆け寄ると彼女を起こそうとはせず、そのまま押し倒そうとした。
パトカーのヘッドライトとパトランプの中で婦人警官は雨に消える叫び声を上げ、首を激しく横に振りながら男の腕に抗った。
尻餅をつき、腰まで水に使った彼女。レインコートの中や半長靴の中にも水が入り込み、その下の制服に、足に無用の重みを与えて訓練通りの動きをさせない。
「……!」
男は婦人警官に腕を掴まれながらも彼女を力づくで押し倒す。
彼女は水の中でもがくように半長靴の底をがりがりとアスファルトに擦りつけて、男の力に抗う。しかし、徐々に彼女の背中が雨粒で揺れ続ける水面に迫っていった。
そして。
「!」
抗い続ける婦人警官の力が男の力に押し切られ、一気に彼女の背中がアスファルトに付いた。
婦人警官は上半身も全て水の中に沈んだ。
「ッ!!!!!!」
ばしゃばしゃと闇雲に、苦しそうに腕と脚をもがく。しかし、男は腕の力を弱めようとしない。
彼女を、婦人警官を溢れかえった雨水の中に沈めながら抑え続けた。
「!!! ! ! !」
叩きつける豪雨の中、婦人警官のもがく音は全てかき消され、空しくしぶきが上がるだけ。
首を振ってごぼごぼと、無用に空気を水の中で吐き出し続けた。
そんな彼女に限界はあっけなく、近付いていた。
「! ! ! ! ! ! !」
もがく婦人警官の手の動きが鈍り始め、力が抜け出したその瞬間、今度は男が彼女を掴む手を引っ張った。
「!」
突然、水の中から引き上げられた婦人警官は人形のように男の力に従うだけ。
ぼたぼたとレインコートの中に入り込んだ水を吐き出しながら立ち上げられた。
そして、そのまま男の力の向きそのままに引きずられた。
「! ……!」
何がなんだか分からず混乱する婦人警官。
しかし、その力に抗おうと脚を踏ん張らせようとするが、今は久しぶりの呼吸をする事でやっと。
雨中に咳き込む婦人警官。男の力に抗う力は僅かだった。
男は婦人警官をパトカーのそばにまで引きずるように連れて行くと彼女をそのボンネットにたたきつけた。
「!」
べたっと白と黒のボンネットにうつ伏せでたたきつけられる婦人警官。その婦人警官の肩を掴み、男は仰向けに返した。
そして、次の瞬間。
「!!!」
婦人警官が着ているレインコートを掴むと左右に開いた。
音もなく、実際は音がしているのだろうが、雨音にかき消されて、レインコートは引きちぎられたように開いた。
その下からは既にずぶ濡れに濡れ、婦人警官の肌にまとわり付いた空色の制服が現れた。
「……! ……!!」
男が何をしようとしているのか。
婦人警官はすぐに察し男の手首を掴み、脚をばたつかせ、身体をよじった。
しかし、男は止めない。
すぐに濡れた空色の制服を掴むと婦人警官の力を振り切ってそのボタンを弾き飛ばした。
止まない雨粒と共に弾け飛んだボタンが水の中に沈む。
「……! ……! …………!!」
婦人警官は何か叫びながら男の腕に抗っているがその声はささやきにも聞こえない。
パトカーのパトライトとヘッドライトの中、滝のような雨の中に掻き消されて誰の耳にも届かなかった。
そして、ずぶ濡れの乳房に張り付くずぶ濡れのブラ。
男は婦人警官の全力を押さえ込みながらそれも鷲摑みにしてカップを乳房の上に引き上げると、露になった乳首を口に含んだ。
「!!!!」
男の腕をつかんでいた婦人警官の手が彼の頭に掛かる。反射的にこの頭を胸から引き離そうとした。
だが、それと同時に男の手がフリーとなっていた。
男はそんな婦人警官の女としての本能を嘲笑うようにフリーの手を彼女の白い、レインパンツに向けた。
「!!!!!」
男の動きに気付いたのも後の祭り。
婦人警官が穿いているレインパンツは太ももの中ほどにまで下ろされた。
露になった紺色の、婦人警官の脚にへばりつくずぶ濡れの制服のパンツ。男の手はそのバックルに掛かった。
「!!!!!!! っ!!!!!!!!!」
婦人警官は乳首を口にする男の頭を右手で何度も叩き、左手で男の肩を突いた。
しかし、それはこの大雨の中で傘を差すようなもの。
僅かな抗いであり、意味を成さないものだった。
婦人警官は大量の雨粒を浴び、ずぶ濡れのフードと制帽を被ったまま、苦しそうに首を横に振った。
そして、バックルに手が掛かった感覚を覚えてからそう、長い時間は経ってないその時。
「…………!! …………!!!」
濡れた彼女の下腹部に雨粒が降り注ぐ感覚を覚えた。
同時に濡れてはいるが、温もりを持つ、肉感のある何かがそこへ密着してくる感覚も。
「…………や……てっ……!」
全ての音と言う音を掻き消す雨音の中。
パトカーの赤いパトライトと白いヘッドライトの中で婦人警官の女としての悲鳴が途切れ途切れに上がった。
その声を合図とするように。
雨に煙るパトランプの光がゆさゆさと上下に揺れ始めた。
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