泥中の蓮


 事態を整理しよう。
 私は今、横でへらへら笑っている相棒、いや、仲間と一緒にちょいとした悪さをしてトラックを失敬して逃走中。
 待て、逃走ではないか。追いかけられなければ逃げている事にはならない。
 発覚はしてないと思うから追いかけられていた事もないはず。どちらかと言えば避難、と言うべきか。
 そう。避難だから普通に避難していれば何も起きずに危険な場所から無事逃れられる。普通はそう考えるだろ?
 
 ところが、だ。
 この仲間、いや、運転手は少々単細胞で――だから扱いやすいのだが――いかにも逃げてますよ、と言わんばかりにアクセル踏み込んで走らせていた。
 その上、ネズミ取りが張り込みやすいと言う県境に近い峠をご丁寧に速度違反しっぱなしで走った。
 しばらくそのままで行くと当然のように、ふぃーん、と独特のエンジン音とパトカーよりも少々甲高いサイレンを響かせて白バイが2台登場。
 
 ……整理されてないって? これでも十分に整理したつもりだ。
 本来ならば街でやった悪さの事やそれまでの経緯なんかも話さないとなんで今、目の前にあるような状態になったのか説明しきれないだろうからな。
 今、目の前の状態。普通に生きていたらまず遭遇しない状態。そんな状態だ。

 全く、片付けが大変だろ。
 私は一つ、溜息をついて窓を開け、そんな状態の確認をする。
 前が大きくへこんだアイドリングしっぱなしのトラック。
 サイドミラーに写るぐしゃぐしゃに壊れて転がる白バイ、それと後の方で軽く壊れて倒れている白バイ。
 横の窓を開けて下を見ると轢かれ、引きずられて赤い血をだくだく垂れ流し、ボロボロになったライダースーツを着てピクリとも動かない白バイ隊員。
 そして、倒れた白バイから少し離れた所に転がってうめく少々華奢な感じのする白バイ隊員。
 この運転手、何をしたかは……大体見当つくだろ。全く。

「へへ……やったぜ。ポリ公をヤッてやった!」

 後片付けを考えるこっちの身にもなってみろ。何を喜ぶ。
 すると、運転手はギアのバーを握った。私はその手を掴んで止めさせた。

「待て。何するんだ?」
「後ろにもう1人いるだろ? アイツもヤッてやるんだ!」

 やる気まんまん。単細胞にも程がある。

「ちょっと待て。取り敢えず止まってろ」

 そう言うと私はトラックから降りた。
 ぽつりぽつりと雨が顔に当たる。そう言えば天気が崩れると言ってたな。ここ数日ずっと雨が降って今日は晴れ間が覗いたが……半日だけか。
 後ろで倒れて蠢くように動く白バイ隊員に歩み寄る。

「う……ううう……あうう……」

 少々高い呻き声。私はその白バイ隊員のそばにしゃがんで顔を見る。
 側面を軽くすったような傷が付いた純白のヘルメット。黒地に金色に輝くエンブレム。そして、ジェット型のヘルメットの顔を覆うように透明のバイザー。その側面にも傷がついてはいるが十分に中の顔は見える。
 苦しそうに顔をしかめて息を荒く吐き、バイザーの口元が白く曇っている。
 その顔の作りや輪郭を見る……間違いない。

「おーい、手伝え」
「ああ? ヤルんじゃねえのか?」
「ああ。ヤルんだろ?」
「じゃあ、今すぐ轢いて!」
「バカ。とにかく来い」

 言葉の意味を考えろって言いたいが、事態の動きは急だ。運転手にエンジンを切らせるとそいつをうめいている白バイ隊員のそばに連れていった。

「う……ああ……」
「……なーるほど」

 運転手はすぐに納得。私の言う事をすぐに理解したようだった。こう言う事の理解だけは早い。
 白バイ隊員は苦しげに体を軽くよじったり足を動かしたりしている。何か助けを求めるように黒い革のグローブが私に向く。それと共に全身を包み込むレザーのスーツが動き、肘や腰に皺を寄らせ、白と黒のコントラストを浮かびあがらせている。
 苦しげに膝が伸びたり縮んだりしている。すると皺が変化し、その度にライダーブーツがざりっとアスファルトを掻いている。

「へへ……まさかこんな所でなあ。ツイてるぜ、俺達!」

 一緒にして欲しくはないが、一緒だから仕方ない。確かにツイている。
 運転手の視線がうめく白バイ隊員、いや、ただの白バイ隊員じゃない。
 運転手の視線がうめく白バイ隊員の胸元に向いている。私も向ける。
 レザーのスーツ越しでよくはわからない。しかし、胸や尻にうっすらと女っぽい膨らみが見えていた。

 雨が徐々に強くなり出す中で私と運転手は早速片付けに入った。
 動かない白バイ隊員(野郎だったが)はそばの斜面に放り投げ、一緒に白バイも2台投げ捨てる。
 道に流れた血はトラックに積んであったスコップでそばの山の砂や土をばら撒いて適当に隠す。ま、雨がなんとかするだろう。
 そして女性白バイ隊員。

 「う……あう……う……」

 地面に叩きつけられて意識朦朧と言った所。白いヘルメットや黒革のスーツに当たる雨粒にも気付いていないようだな。
 私は彼女をゆっくりと抱き上げた。脇から腕を通して胸の前で手を組んで上半身を引き上げるようにしてそっと起こさせる。
 ざりざりっとブーツの底がアスファルトを削り、私の手に雨に濡れる革のスーツの冷たい感触が移って来た。それと同時にぴとっとヘルメットが私の顎や頬に当たりひんやりと冷たさと削ったような傷が顔を軽く引っ掻いた。
 大きなサンドバックを持ち上げようとする感じ。そんな感じかな。

「あ……うううっ……」

 朦朧とした意識の中、勝手に体が動かされて痛みを感じたか、彼女のうめき声が若干変わった。しかし、暴れたり抵抗することはなかった。

「う……ああ……」

 彼女の呻き声とブーツの踵がアスファルトを削る音を聞きながらそのまま彼女をトラックの助手席に乗せた。
 そして、がっちりとシートベルトをかけると解除するボタンにガムテープを一枚、貼り付けた。
 さてと。ここからは私が運転する事になる。

「えー、俺は?」

 私が告げると運転手が文句をたれる。しかし、こいつは単細胞。

「荷台で見張ってるんだ。後ろから警察が来ないかな」

 仕事を与えればすぐに従う頭しかない。へへっと軽く笑うと荷台に向かい出した。

「あ、ちょっと待て」

 そんな運転手、いや元運転手か。そいつを呼びとめた。

「何か?」
「あの女がどんな女かによって遊び方も変わって来る。いいか、クラックションを1回鳴らしたら怯えたりして大人しいって意味で……」

 元運転手は私の指示を聞くとこいつの代名詞、へへっと軽い笑いを私に向けた。

「わかった。へへ……楽しみだなあ〜……どうやってヤルか……」

 頭は悪いが想像力はたくましい元運転手。にやにやしながら荷台にいそいそと乗り込んでいった。
 私も運転席に乗り込み、助手席側のロックを下ろしてエンジンをかける。
 当然、病院なんかには向かわない。シートにもたれ、落ちついて来たのか目を閉じて大きく息をする女性白バイ隊員と遊べる場所へ向かうだけだ。
 
 雨が強くなり、雨の叩く音とワイパーの音がエンジンの音と合唱を始める。そう言えば荷台には幌の一つもなかったかな。ま、いいか。
 その音だけが響く車内。私は運転しながら助手席をちらりと見た。

「……はあ……あ……はあ……」

 女性白バイ隊員は少々息が荒めだが、うめきもせずに落ち着いてシートにもたれている。
 白いヘルメットを被ったまま、バイザーも下ろしたままで息を吐く度に口元が白く曇る。
 傷付いたバイザー越しに見える顔。軽く眉間に皺が寄って若干のしかめ面だが、中々の美人だとわかる。つん、と気の強そうないかにも婦人警官、いかにも厳しい白バイ隊員と言った感じ。テレビ写りも良さそうだからマラソンの先導なども任されそうだな。

 首からライダージャケットの袂沿いを覆う白の深いマフラー。ぶつけられて転んだ時に少し、乱れて砂の汚れもついている。
 黒革のライダージャケット。ヘルメットと同じように肩や腕が若干擦れて白っぽい傷跡が走っている。荒く息をする度に胸や腹がゆったりと波打つように動き、夜空の月と星のように浮かぶ階級章や6つの金ボタンが揺らめいている。

 太ももの上に置かれた手。ハンドルを握り続けて幾筋もの皺が刻まれた黒革のグローブ。時折可動を確認するように動きぎゅうっとかすれたような音が聞こえる。
 黒革のライダーパンツ。シートに座って膝裏に皺が寄り、太ももにも若干の皺が走る。パンと革の張ったしたお尻がシートを圧迫している様子が見えた。
 ライダーパンツの上には黒革のグローブに包まれた両手が置かれている。時折動いて革同士が擦れるしゅるっと言う音が聞こえる。
 そして、ちらっと見える脹脛の中ほどまでの黒革のライダーブーツ……。

「……ふう」

 私は一つ溜息をついた。
 全くいい拾い物をしたもんだ。普通の紺色の婦人警官の制服もいいが、こんなのもいいもんだな……汚しがいのあるいい制服だ。
 レザーに包まれ、ヘルメットを被り、素肌の露出など全くない装い。性や妖艶さなど全く計算に入れていないはずの装いのはずなのだが……こうして革の艶やヘルメットの輝きを見たり革の音を聞くと水着や全裸よりも遥かに興奮させる。
 しかも、着ているのは婦人警官――。
 私はこくん、と唾を一つ飲み込んだ。
 トラックは国道を外れて旧道の山道を行く。国道も交通量は多いとは言えないがこっちはさらに少ない。すれ違う車すらない。
 曲がりくねり、走るのに時間がかかる道。その上雨も降っている。トラックのスピード以上に時が早く流れていく。

「う……ん…………んん……」

 彼女の荒れた息が若干整い始めてこくんかくんと首を小さく横に振る。
 そろそろ、お目覚めって所か。

「んん……あ……あ…………れ……こ、ここ……わ……たし……」

 そこからしばらくして、黒革の眠り姫がお目覚め。殻を破って初めて日の目を見たひよこのように辺りをきょとっとしながら見ている。
 しかしまあ、自分の置かれている状態が異常事態だと言う事を認識するのにさほど時間はかからなかった。不意にはっとして激しく殺風景な車内を見回した。

「……あ……あなた……は……だ、誰なの! こ、ここはどこ! どこへ行くのっ!」

 矢継ぎ早に飛んでくる質問。彼女へ視線を向けず前を向いて運転する事に集中する。

「今すぐ車を止めて答えなさい! 聞いてるの!」

 聞いている。答えないだけだ。

「あなた一体……そっかトラックで私達を……シ、シバタさんはどこ! どうしたの!」

 シバタ? 知らんなあ……恐らく一緒にいた野郎の白バイ隊員か。どうしたかは、言わない方がいいな。運転に集中。

「答えて! なぜ黙ってるの! 今すぐ車を止めなさい! シバタさんは……シバタさんはどこ!」

 次から次へとぽんぽんと言葉が出てくる。そんなに一気に言われても答えようがない。ただ、黙るだけ。しかし、ちらっとだけ視線を彼女へ向ける。
 口元を妨げないようにヘルメットのバイザーを少し上げ、きっ、と私の横顔を見ている。釣り上がった眉に切れ上がった目。
 連れ去られていると言うのに怯えや恐怖感が全く見えない……婦人警官って言っても普通の女。少しはそう言うのがあるとは思うが……。

「今すぐ車を止めるのよ!」

 がしっと私の腕を革のグローブで掴む。その瞬間、

「きゃあっ!」

 カーブを少し大げさな速度で入り、オーバーアクションでハンドルを切った。
 ぶん回されるように運転席は揺れ、彼女はシートベルトをしているにもかかわらずバランスを崩して私から手を離した。

「な、なんて運転するの! やめなさい! 今すぐ!」

 あんたが掴んだからだ。安全運転の為に走行中の運転手にちょっかい出すなって学校で教わったろ。
 彼女は手を出しはしなかったが、怯む気配もなく半身を乗り出して私にヘルメット越しの顔を向ける。

「止めなさいって言ってるでしょ! 止まりなさい! あなた、自分が何してるのかわかってるの!」

 運転。それ以上でもそれ以外でもないだろ。返事もしてやらない。
 もう一度視線を僅かに向ける。
 彼女はその可愛らしい顔を怒りに満ちさせ、炎を滾らせているような眼をこっちにくれている。

「私は警察官よ! 今すぐ私の言う事に従いなさい! 車を止めて引き返しなさい!」

 だからどうした、と言うか何を言っているんだこの女。
 警察官だろうがそこらへんのおっさんだろうが言われた事は従うべき事は従わないといけないのは当然。
 従う気がない、従わない方がよければ無視する。例え相手が警察官だろうが総理大臣だろうがな。

「どうして聞かないの! 今すぐ車を止めなさい! どこへ行くの! 答えなさい!」

 徹底して命令口調。私もナメられた物だ。警察官が強い口調で命令すれば従うようなヤツと見られているのか。
 この女、いや、婦人警官には。
 ふっ、と勝手に口元から笑いがこぼれた。

「何が可笑しいの! ふざけないで! これは事件よ! 遊びじゃないんだから!」

 女の怒りに油を注いだかな。口調がさらに強くなって今にも運転している私に飛びかかって来そうだ。

「何か言いなさい! 返事をしなさい!」

 ベッベッ。
 トラックのクラックションを2回、短く鳴らした。

「そんなのが返事だって言うの! ふざけるのもいい加減にしなさい!」

 ふざけてない。むしろふざけてるのはあんただ。白バイ隊員さん。
 さてと……お、もうすぐ目的地か。
 朽ちたモーテルの看板を今通過。あと数分で到着と言う所だ。
 雨水のカーテンをワイパーが弾くフロントガラスの向こう側にそれが見えてきた。
 旧道沿いにあるモーテルの跡地が。

 そこに廃墟でもあれば楽しみも増えそうだが、そこは跡地。
 今は資材置き場として使っていて、アスファルトを引っぺがして土が剥き出しになった土地に無造作に工作機械やら鉄管やらが置かれている。
 トラックをその入口から入れ、そこを塞ぐようにして止めた。

「……さっ、事情を聞かせて……」

 口調はキツいままだが、ほっとしたような息を一瞬こぼしている。しかし、止まったのは婦警さんの為じゃあない。
 彼女が緊張の糸を僅かに緩めたその瞬間、ドアを開けてトラックから飛び降りた。

「あっ! 待ちなさいっ!」

 そんな声も聞いたが降り返らずにドアを閉めて跡地の方へと駆けた。それと同時にどしゃっと水を含んだ土を踏む音が聞こえてばたばたと駆けて来る音がした。

「始まったあ!」

 荷台で雨ざらしになっていた元運転手。雨でずぶ濡れだが濡れていない私よりも元気にはしゃぎ気味に駆けている。
 そして、トラックから数メートル離れた時、

「待てっ! 待ちなさい!」

 女の声が聞こえた。肩越しにちらりと後ろを見るとトラックから女性白バイ隊員が飛び降り、私とヤツを追い始めた。グローブをした手でガムテープはがしてシートベルト外し、ドアロック解除して出てくるのは手間取ったろうに。しかし、思ったよりも早く出てきた。
 入口の方は踏み固めてあったり砂利があったりでまだマシだが、奥へ行くに連れてぬかるみが増し、普通に走っているだけでも泥しぶきが上がる。
 履いている靴やズボンの裾はあっという間に泥染めだ。

「待ちなさい! 止まりなさい! 逃げれないから!」

 彼女も泥飛沫を上げながら走っている。
 黒革のライダーブーツやライダーパンツに泥の筋や飛沫の粒が模様のように浮かび、僅かにスーツやヘルメットのバイザーにも泥の粒が浮かんでいた。

 ところで、泥の中を普通の靴やズボンで走るのは大変だ。靴やズボンは泥と一緒に水を吸って重くなるし。
 そうなると、水は吸うだろうが布よりも遅く吸う革の方が有利。彼女は黒革に赤茶けた泥を着かせながらも全くスピードや走る調子が変わらない。

「逃げられると思ってるの! 待ちなさい!」

 彼女の声が資材置き場に響く。やはり、普通の婦警よりも鍛えられてはいるみたいだな……。

「元気のいい女だなあ……きっといい締まり具合なんだろうなあ」

 ヤツの方はのんきにそんな事を考えていやがる。私はちらっとヤツへ視線を向けた。

「……あっちっすか」

 アイコンタクトが通じたらしく、私と2人で資材置き場の隅の方に向かって方向を変えた。

「待ちなさい! 待てって聞こえないの!」

 厳しく鋭い女の声が背中を押す。肩越しにもう一度後ろを見る。
 ライダーブーツは足裏から甲にかけてとくるぶし辺りまでが泥色になり、脹脛辺りも泥はねがあった。ま、そんなのを気にしている様子もないが。
 そんな彼女を引き連れて資材置き場の隅の方、山の斜面に面した方へ走った。
 そこには何かの残土か高さが2メートルくらいの盛り土があった。半分は山肌と同化しつつある、やや古めの盛り土。
 そこに足を踏み入れて駆け上がる。しかし、

「おっ、わっ!」

 ヤツがはじめて田んぼに入った小学生のような声を上げてコケた。雨に打たれて土の山というよりも泥の山。漠然と登ったら足を取られる。
 私もやや足は取られはしたが何度か手を突きながらもどうにか登り切った。

「ぬおっと、うおっ……へへ、登った!」

 ヤツの方も胸まで泥を跳ね上げさせて元気だけで駆け上がった。そして登りきると天辺で待つ私の隣に息を切らせながら立った。

「もうそれ以上は逃げられない!」

 私とヤツが登り切った時に彼女が到着、彼女も登り出した。彼女が登るのを2人で待った。しかし、男が2人になったと言っても怯む気配もないなあ。

「くっ、きゃっ!」

 でもまあ、そこは女の子。泥になれてない上にやや力も弱い。2、3歩歩いた所で足を取られてどしゃっと膝から倒れた。
 ピンと張った黒革に包まれた膝頭が泥に突き刺さり、反射的に突いた黒革のグローブもベチャっと泥を掴む。

「ひゃはははは! コケてやんの!」

 ヤツが笑う。お前もさっきまで似たような物だったろうが。すると彼女、手を突いたままヘルメットの頭をこっちに向け、笑うヤツに怒りの視線を向けた。

「そこを動かないで! 絶対に捕まえるっ!」

 そう言いながら彼女は軽く起き上がり、手を突いて四つ足のようにして泥の山を文字通り這い上がり出した。
 今、彼女の体のどこに力が入っているかがよくわかる。
 足ならばライダーブーツの底が泥に沈み、ばしゃっと飛沫をあげ、膝頭なら黒革のライダーパンツの膝頭が埋まって泥色となり、手ならば黒革のライダーグローブが泥に埋もれて手首を覆う白いカバーも泥の赤茶けた色に染まっていく。
 そして、彼女が這いあがろうと動く度に泥で模様が浮かぶ黒革の皺が蠢き、彼女を人間ではない、牝の別生物のように見させる。
 べちゃ、ぐちゃ、ぬちゃ。
 泥に弄ばれているような音を上げながら上下黒革の女が這いあがって迫ってくる。その間、彼女は足下や手元を確認するように見ながらバイザー越しの顔をこちらへ向けて睨んでいた。

「へへ……」

 そんな怖そうに睨んでもヤツの方はにやにやしながら這いあがる彼女を見ている。

「きぁっ!」

 もう少し、と言う所で足が滑りずるっと膝や腹が泥に付く。ぎゅうっと革のグローブは泥を掴み、ブーツは泥を削り、黒革のパンツが泥に塗れる。

「ほーらほら。まだかよ〜」
「くっ」

 ヤツは人をおちょくるのは天性の才能がある。
 いかにもバカにしてますと言う調子で言い、彼女の方もヘルメットのバイザーまで泥をつけながらも頑張って這いあがってくる。
 黒革のスーツにグローブ、パンツ、ブーツ、そして白いヘルメットも泥が付着して白バイ隊員と言う感じがしない。そんな風体を気にしている状態じゃないんだろう。
 彼女がそんな泥に塗れながらも這いあがって来た、その時。

「おら! やりなおしだっ!」
「きゃあっ!」

 ヤツが彼女のヘルメットのバイザーを踏み付けるように足蹴にした。ずるずるっと泥を刻みながら下がる彼女。

「やめなさい! 抵抗すると公務執行妨害で逮捕する!」

 しかし、怯まない。本当に勝ち気な女だ。再び這いあがり始める。

「へへ、まだだ!」

 ヤツはもう一度彼女のバイザーを足蹴にしようとした。しかし、彼女の方が数段利口だ。

「このっ!」
「うわっ!」

 彼女はヤツの足を掴み、引っ張った。元々足場の悪い泥の上。ヤツはバランスを崩し、そのままずるずると彼女と一緒に泥の山を滑り落ちていった。
 滑り落ちると彼女はすぐに立ち、ヤツを取り押さえようとする。

「大人しくしなさい!」
「ざけんなっ!」

 ヤツは彼女を再び足蹴にしながら抵抗して立ちあがる。そして、力任せに彼女に襲いかかる。

「ヤッてやる!」
「バカにしないで!」

 がばっと彼女に抱きつくが彼女は泥を浮かせながら足を踏ん張り、ヤツのかいなを取った。そして、さっと身を翻すとヤツの拘束から解き放たれた。

「いででで!」

 おまけに決められてもいた。ヤツの情けない悲鳴が響く。そして、そのままヤツの足を払ってどしゃ、と泥飛沫の中にヤツを抑えつけた。泥にうつ伏せになってその上に彼女がかいなと手首を決めたままで組み伏せている。

「公務執行妨害の……」

 彼女が腰のベルトから手錠を抜く。ヤツは悲鳴を上げているだけ。ったく、世話の焼けるヤツだ。
 私は飛び降りるように泥の山から跳ね降り、2人に駆け寄った。

「きゃあっ!」

 そして、手錠を持った左手を払い蹴って手錠を手から離した。

「あなたっ! これ以上犯罪を……」

 なんだかそんな事を言って私を睨んだが今更犯罪がいくつになっても一緒だ。私は彼女に挑みかかろうとした。

「くっ!」

 すると彼女はヤツから離れて私との間合いを取る。なるほど、多少は出来るようだな。
 上下黒革の白バイの制服はあちこちが泥に塗れ、ブーツやパンツの膝頭、グローブはすっかり泥で白くなっている。スーツの金ボタンや階級章も泥で煙り、バイザーも白いヘルメットも土器色の模様が入っていた。
 白バイ隊員はそれなりに優れたヤツがなるって言ってたな……そんな気高さも泥に塗れて無残な物だ。それでも凛としながらこっちを睨む姿は警察官としてのプライドの成せる業だろう。

「抵抗は止めて大人しくしなさい……あなた達が何をしても逃げる事はできないのよ……」
「それは婦警さんもだろ」

 初めて彼女に私が声をかける。彼女はキツい眼差しでこちらを睨みつけた。

「バカな事言わないで! 大人しく……」
「無線は白バイについていた。こんな山ん中で助けも呼べない婦警さんは1人でどうする気だ?」
「黙りなさい!」

 彼女は泥を蹴って私を取り押さえようとかかって来た。

「おっと」

 私も泥を蹴ってさっと軽くいなす。ざっ、と彼女のブーツの底が泥を削り飛沫を上げて素早くこちらに向きなおす。
 ふむ、教科書通りの動き。ならば、簡単。

「てやああっ!」

 彼女が雄叫びのような声を上げて私に掴みかかって来た。そして、その流れで私の足を払おうと足を入れてきた。
 どこまでも教科書通り。
 私はすぐに体を入れ替えさっと彼女のレザージャケットの袂を組んだ。

「!」

 自分の流れを止められて一瞬の驚きを感じる。そんな感情の変化がレザージャケットを掴んだ手から伝わってくるよう。体を入れ替えた私はそのまま腰に彼女を乗せるようにした。ふわりと浮く彼女の体。

「ああっ!」

 彼女の短い悲鳴と共にばじゃっと泥が跳ねる音。ここまできれいに決まった払い腰も珍しい。
 彼女は泥の中を背中から落ち、そのままごろん、と転がった。

「あ……あ……」

 二度ほど転がった彼女。すぐに立ちあがろうとしたが、できないようだった。
 仰向けにされ、上体を起こすまではできるがそんな彼女を私が立ったままで見下ろしている。
 私の視線と彼女の視線がぶつかる。彼女の燃える瞳の中にわずかながら恐怖が浮かんで見えたのは、錯覚か。

「や……やめなさい……私は……警察官よ……」
「わかってる」

 一歩、彼女に歩み寄る。彼女は仰向けでこちらを向き、尻を泥につけたまま手とブーツの底だけでずるっと後ずさる。黒革のライダーパンツの泥に塗れた面積が増して行き、ライダーグローブも手首のカバーももう泥だらけ。
 正義のヒロイン、危機一髪と行った所。しかし、それでも強気の表情や瞳の強さは変わらない。
 健気だ。なんと健気なんだろう。そんな健気な女を追い詰めるのは溜まらなく興奮する。
 だって見てみろよ。気高い黒革の制服を泥だらけにしながらも抵抗を試み、私を取り押さえようとしているんだ。こんな美しい女、そうはいない。
 そんな彼女に私は言葉を続ける。

「わかってるさ……あんたが警察官ってな」

 さらに歩み寄る。彼女はずるずると尻をつけたまま、こっちを見て後ずさり続ける。その間、彼女の目は私を見たまま。隙をうかがうように、あるいは私を威圧しようと睨みつけるように。

「じゃあ……私の公務を妨害したらどうなるかも……こんな事したらどうなるか……」
「わかってる。どうもならないんだろうよ」
「?」

 言わない方がいいかもしれないが、言った方がいいだろう。

「今までそうだったからな……警察官にこんな事をしても、な」
「……ま、まさか……」

 彼女の目がはっと見開く。

「……女性警察官が男に暴行されていたって話は……」

 おや、知っていたのか?

「知られているのか」
「う、噂は本当だった……」

 女の口コミってヤツはすごいな……あいつらは黙っているもんだと思ってたが。

「ああ……女性警察官を暴行……した覚えはないなあ……婦人警察官とみんなで遊んだ覚えはあるがな」
「ふ、ふざけるなっ! 許せない……絶対に許せないっ!」

 そう言うと彼女の瞳が再び着火。隙も間合いもない。怒りだけで立ちあがり、感情の赴くままで私に襲いかかって来た。

「うわあああっ!」

 叫び声を揚げて何度も私に掴みかかってくる。まったく、見ず知らずの婦警の為に。仇討ちのつもりか。ご苦労なこって。
 しかし、仇討ちなどとそんな感情に支配された動きは冷静に見れば単純で直線的。バカみたいに同じように私の挑みかかり、同じように私を組み伏せようとする。

「ふん、てやっ」
「あうっ!」

 だから私は何度も同じようにしてそれを返し、何度も彼女を泥に転がした。
 ばしゃ、と茶色い飛沫をあげ、黒革の制服をさらに汚して行く。白いヘルメットもバイザーも泥で汚れもしかすると私の姿もろくすっぽ見えてないんじゃないか。

「くっ! やああああっ!」
「でやっ」
「うぐっ! ま、負けない! いやあああっ!」

 彼女の声が資材置き場に響く。しかし、何度やってもどんだけ叫んでも無駄だ。
 何度も転がり何度も泥に遊ばれた彼女。白バイ隊員の制服はすっかり泥で汚され、見るも無残な有様。

「う……く……はあはあ……ま……負けない……負けちゃダメ……」

 相撲のぶつかり稽古のような感じなのだろう。間断なく立ち向かい続けて体力が限界になったのか、起き上がる事もせず、泥の上でうつ伏せでうわ言のようにそんな事を言っていた。

「どうする事もできないだろ? 婦警さん」

 私が声をかけると上体を起こし、よじるようにして私を睨み上げた。

「う、うるさい! 私は……くっ……私は絶対に許さない!」

 言葉の勢いだけは力強い。しかし、今の泥に塗れて泥に倒れる彼女の姿はうち捨てられた黒い子犬その物だ。
 自然と私の口から笑いがこぼれる。

「別に。許して欲しいなんか言ってないしな……さてと」

 私が彼女に歩み寄る。

「く、来ないで! これ以上近付いたら逮捕……」

 そう言いながら彼女は泥の上を引きずるようにはいずって私から離れる。間合いを取るつもりか。私はふと、顔を彼女から前に上げる。

「近付いてはいない。婦警さんから近付いているだけだろ」

 ずるずる動いた彼女がはっと何かに気付いて私とは反対方向を見上げた。私も彼女の見た方を見る。

「これだけ消耗してたらお前でも相手できるだろ……少しは遊んでやれ」
「へへっ……」

 そこには。舌なめずりをするように舌をぺろりと出したヤツが立って彼女のヘルメットを見下ろしていた。

「や、やめろっ……くっ……足を下ろせっ!」
「うるせえ! こうやって土下座して『さっきはごめんなさい。許してください』って言えよ!」

 今の状況。
 私はこの資材置き場にあった水道からバケツで水を汲んできて、女性白バイ隊員とヤツとのじゃれあいっこを見ている。
 彼女は顔を横に向けて泥の上で腹ばいになっている。そんな彼女のヘルメットを横からヤツが泥だらけの靴底で踏みつけてぐりぐりとにじっている。
 泥だらけのグローブでその足をどかそうと両手でつかんでいるが、ヤツは気にせず白いヘルメットを茶色い泥の粒子がじゃりじゃりと削る音が聞こえる。
 泥で半分汚れたバイザー。その向こうの顔はしかめ面。ヘルメット越しに側面から顔を踏みつけられてもしっかりヤツを睨んでいるのは立派なもんだ。

「だ、誰がそんな事! 足をどけろっ! どけろって言ってるでしょ!」

 グローブで足を掻くようにしてもヤツの踏みにじる足は止まらない。ヤツはそんな彼女をへへっと軽薄な笑みで見下していた。

「どけろって言ってるのが聞こえないの!」

 そう言うと突然、彼女は手をヤツの足から離し、掌を開いてぐっと顔のそばにそれを突き立てた。そして同時に四つばいになるように膝を折り膝を突いた。そのまま立ち上がって足からヤツをひっくり返そうとするのか。しかし、これだと、

「土下座するのか!」
「バカっ!」

 形の崩れた土下座だよ。しかし、この姿勢。ケツをぷるんと突き出すようになって、そのラインに吸い付くように黒革がぱん、と張る。
 薄曇の灰色めいた日の光でもぼんやり白く反射する黒革。泥で随分汚されているとは言え……いや汚れているからこそか……凄く魅力的に見える。
 思わず触って撫でたくなるような革の質感と婦人警官の尻の肉感……助手席に座ってた時から思っていたが……もう……ガマンする必要はないか。

「へへへ……」

 ヤツが私を促すように見る。コイツ、今までの付き合いで私の好物をすっかり知ったようだな……そして、私が味わうまではお預け、と言う流れも染みついている。
 私はもがく彼女に歩み寄り、バケツの水をそっと彼女の尻に傾けた。

「やめ……ひっ! な、何をするのっ!」

 いきなり尻にかけられた水に彼女が視線をヤツから私に向ける。ばしゃばしゃと水が彼女のぱんと張った黒革が包み込む尻に落ち、そこに付着していた泥を洗い流す。革が水によって美しく洗われ、エナメルのように鮮明に輝く。
 私は水に濡れ、洗われた尻をなでる。

「きゃっ! さ、触るな!」

 顔を踏まれていてもそこは女だな。私はそんな声を気にする事なく優美なラインを描く尻を撫で回した。
 水に濡れ冷たさが敷き詰められた黒革。そこにへばりつく水を流れ落ちなかった泥と一緒に撫でる手がはじく。
 彼女の肉感、革の質感。掌にそれを感じると同時にに水の冷たさが消え、私の体温を黒革が吸い、ほのかに温もりだす。

「やめろって……気持ち悪い……!」
「うるせえよ! それより、早く許してくださいって言えよ!」

 ぎゅうとヤツが彼女を踏みつける。それどころではない。
 胸が高鳴る。黒革のこの質感――私が最も好みで、最も美しく思い、最も犯したくなるほどに興奮する感触。
 これを求めるために今まで様々な女を――私はすうっと一つ息を吸うと彼女の背中の辺りに跨ると顔をそうっと彼女の尻に付けた。

「いっ! な、何をしてるの!」

 ゆっくりと頬ずりをし、目を閉じてすっと匂いを嗅ぐ。
 泥の匂いの間に化学的な黒革の香りがする。ほんの僅か、大きく吸うと全てを吸い尽くしてしまうような、そんな香り。
 しかし、それだけで十分。
 私はそっと舌を出してその先で黒革の稜線をなぞる。

「や……やめろぉ……」
「うるせえ! 大人しくしてろ!」

 舌でぎゅっと黒革の尻を押すとぴん、とそれを押し返す肉感。
 舌でべろべろと舐め、撫でる。
 黒革の尻は水から私の唾で汚されていく。
 黒革の、女性白バイ隊員の、婦人警官の制服が私に汚されていく。泥以上に汚く、屈辱的に――。

「やめろって言ってるでしょ! き、汚いっ! やめろっ!」
「舐めてもらってるんだ! ありがとうぐらい言えよ!」

 女性白バイ隊員の声も鈴の音に聞こえる。彼女の制服、尻を舐める度に背筋にぞくぞくっと心地よい震えが走り、胸の中が透き通っていくように爽快になっていく。

 はあ。

 思わず溜息をつき、ちゅばっと黒革の尻に吸い付く。

「やめろ……やめろって! 今すぐにっ! 聞こえないの! 今すぐ!」
「黙ってろ! 楽しんでるんだ!」

 彼女が抵抗するように蠢くが、その度にしゅっと革がよじれ皺を作る。
 鼻から漏れる私の息が荒くなる。もう一度革に吸い付いてちゅうっと吸ってみる。
 泥の水か、流した水か、私の唾か、革に染みついていた味が混ざった汁が吸い出されて塩味のような味を舌に響かせる。
 びくっ、と私のズボンの中が疼く。
 もう、開放するか。
 私は彼女の尻から顔を離すと私のズボンのジッパーを下ろした。

「やめろぉ……やめろ……」

 彼女がうめくように言う。悔しそうにざりざりと黒革のグローブで泥を掴み、引っ掻いている。
 頭をヤツに踏みつけられて押さえられて動くのもままならない彼女。そして、今。私は彼女の腰、ベルトの辺りをがっちりと掴んで固定し、熱く怒張している私自身を彼女に差し込んでいる。
 しかし、彼女のライダージャケットやライダーパンツはそのままで。バックの体位の格好でライダーパンツの股間にそれを挟み込んでずりゅんずりゅんと動かしていた。
 素股ってヤツか。
 ソープ女相手なら何も感じはしないが今の相手は婦人警官。
 そう考えると興奮が深まっていく。ソープ女だったらローションの一つも必要だが、今は必要ない。私自身で天然のローションを染み出させているからな。黒革のパンツの股間が糸を引くぬるぬるとした液体に汚され、濡れている。

「ゆ、許さない……絶対に許さないから……!」
「何言ってるんだよ! 少しはヨガって見ろよ!」

 私の体液と体温、そして黒革の向こうにある彼女自身の体温で温もり、私自身を包み込んでいる。

「バカな事言うな! なんでそんな事!」
「気持ちいいんだろ! 女はこうされるとみんな最後は犬みてえな声を上げるんだ!」
「私はそんな女じゃないっ! いっ! き、気持ち悪いからやめろって!」

 抵抗のつもりか、彼女はきゅうっと股を閉める。しかし、それは私自身を締め付け、余計に黒革の感触と温もりを覚えさせて興奮を高めるだけだ。
 黒革の婦人警官。
 思い出すな。あの街で遊んだこんな感じの黒革のブーツを履いていた女達、あの街で一緒に遊んだ婦人警官達――。
 そんな遊びの総決算のような女がこの婦人警官。全てを兼ね備えた最高の存在。そして、最も犯しがいのある女。
 ぐちゅちゅく、と淫らな音を寸分の隙もない黒革のレザーパンツが響かせ、ぐしぐしと赤く充血し熱した鉄のようになっている私自身を刺激する。

 はあ、ふう。

 何も言わない。ただ、そこから発せられる快楽の信号に従って息を漏らすだけ。

「くそう……ちくしょう……!」
「泣き叫べよ! ヤラれる女は……」

 彼女の声もヤツのわめき声も遠くなっていくようだ。
 ぐっと彼女を掴む手に力が入っていく事がわかる。手が汗ばんでいるのもわかる。私の腰の動きが早くなっていくのもわかる。
 後頭部から延髄にかけてびーんとした独特の痺れにも似た感覚も覚える。
 私は目を閉じた。

「やめろ……」
「気持ちいいんだろ……」

 二人の声が遠いところのBGMに変わる。
 じゅぷ、くちゅ……。
 ライダーパンツの股間からの音が高くなる。
 パンパンパン……。
 私の体と彼女のライダーパンツの尻とが合う音。
 婦人警官を犯している。
 黒革を汚している。
 制服を犯している。
 姿を見ずとも全てを感じられる。全てが快楽となる。罪悪は、ない。
 私は腰の動きをさらに早める。熱くなったライダーパンツの股間の上で前後運動が繰り返され発せられ続ける快楽信号。
 それが徐々に切り替わる。

 もう、出るぞ。

 頭の奥底と私自身の根元辺りから同時にそんな信号が発せられる。私は何も言わずに彼女の腰をぎゅうっと掴み、早く、強く腰を彼女の尻に打ちつけた。

「やめろおおおおおおっ!」

 遠いBGMだった彼女の声が初めて悲鳴のような物に変わり、ボリュームも上がった。そして、次の瞬間、私は彼女の股間からそれを引きぬいた。

「うあっ! ああ!」

 そんな声と共に私の先から白濁液が弾け飛んだ。ぷしゃっ、と勢い良く押し出されたようなそれはぱん、と張った黒革の尻にびちゃあっと飛んだ。それだけじゃない。背中や太ももの裏、脹脛、ブーツなど私に向いている全てに私もびっくりするほど夥しい量の白濁液が飛んでいた。
 黒革の上に白い筋や川、溜まりがいくつも出来、泥と共に黒革を、婦人警官を、女性白バイ隊員の制服を犯した。
 私は果したように肩で息をし、硬度を失っていく私自身を手にして汚されていない黒革に白濁液の残滓を擦りつけた。

「せ……制服を……許さないから……許さないから……絶対に……!」
 黒革越しに自分が何をされたのかがわかり,黒革の上がどうなっているのかわかるのだろう。彼女は心底悔しそうにそう言っていた。

「おい」

 息が整ってくると私はヤツに視線を送った。ヤツは相変わらずの軽薄な笑みを彼女に向けながら初めて彼女のヘルメットから足を退けた。

「くっ……」

 自由になった頭を彼女は持ち上げてヤツを睨みつける。そして、飛び起きようとしたが、

「いっ、足をどけるのよっ!」

 今度は私が彼女のブーツを踏みつけて自由を奪っていた。彼女はきっ、とこっちを振り向いたが。

「きっ……仕舞いなさい! そんなもの!」

 出しっぱなしの私自身を見て一瞬、視線を逸らしてそう言った。なんだか初めて見る女らしい仕草に思わず軽く噴出してしまう。

「きれいにしてやる。泥やザーメンで汚れた、婦警さんの制服を、な」
「な、何を言って……!」

 私自身に手を添え、その先を彼女に向ける。何をする気か、彼女はすぐにわかったらしい。くっと軽く下腹に力を入れる。

 しゃああああああああ……

「ひあっ! やめろ! き、汚い! やめ……!」

 一度排尿を初めてぴたっと止めるような器用な芸当は検尿の時だけだ。私は彼女のヘルメットやバイザーに向けて思い切り放尿を始めた。

 泥に塗れたバイザーが小便の流れで泥が晴れ、人肌に温もった小便が湯気を立てる。

「ば、バカ! 何するの! やめろって!」

 自分の顔を遮るようにグローブの手を私に向ける。そのグローブにびちゃびちゃと小便がかかり、彼女の黒革の制服に飛び散っていった。私も先端を操作しながら満遍なく、泥の付いた彼女の制服に小便をかけて泥を落していく。
 泥に塗れ、白濁液に汚された制服に新たな私の体液が降り注がれ、湯気と怪しげな輝きを黒革の制服に与えていく。

「やめ……な、なんでこんな事……!」

 先端から吹き出る小便に翻弄されるように彼女のグローブに包まれた手が動く。そんな小便に塗れた手で遮られ、バイザーの向こうの顔は良く見えなかったが。声は僅かに震えているように聞こえた。
 噴出した小便の勢いが止まり、雫となる。
 がくっと愕然となったように彼女は泥の上で力を抜いた。
 黒革の制服、純白のヘルメットは私の小便に塗れ、ほかほかと出来たての料理のように湯気が立っている。そんなバイザーの向こう側。小便のカーテンの向こう側にある顔は悔しさと怒りでしかめられ、その目には悔し涙が浮かんでいるように見えた。
 ふう……最高の一時だった。今まで女にここまでした事はあったがこれほどまでに気持ちいいとはな。
 普通の女だったらこの快楽は得られまい。婦人警官だからこそ、その婦人警官でももっとレアな女性白バイ隊員だからこその感覚なんだろう。
 さてと。利益は公平に分配せねばならない。
 私はそっと彼女の足を離し、だらんとなっている彼女のグローブの手をぐっと踏んだ。そして、ヤツに視線を向けた。

「好きにしろ」
「へへっ!」

 小便塗れになった彼女にヤツの影が重なり、ジャケットやパンツのベルトに手を掛け、黒革の制服を剥ぎ始めた。

「やめろっ! これ以上の侮辱は……やめろって! や、やめ……やめてえええええっ!」


 三人で遊んでいると時が経つのも忘れる。辺りはすっかり暗くなっていた。
 私とヤツは資材置き場に止めてあったジープを失敬して旧道から山を降りていった。運転手はヤツ。がんがんと旧道を攻めてあっという間に山を降りてしまった。
 すると、旧道の入口辺りで頭の悪そうな走り屋の集団が止まっているのが見えた。

「この旧道を攻めるのか?」

 私が声をかけると連中は物珍しげに私に歩み寄ってきた。その目には敵意が浮かんでいる。

「あんだよ、文句あんのか? どうせ誰もはしんねーからてめえには関係ねーだろ」

 ヤツよりも頭は悪いかもな、こいつら。
 私は持っていた携帯を取り出して操作し、1枚の画像を画面に浮かべさせた。

「いや。お前達に賞品をやろうと思ってな。この道の丁度真中ほどに資材置き場があるだろ? そこにこれがあるから、好きにしろ。速い者勝ちだ」

 その画像を見せる。連中が顔を寄せてそれを見る。その瞬間、全員が脱兎の如く改造車に乗り込み、爆音を響かせて旧道に突っ込んでいった。

「あんなヤツらにもったいねえなあ」

 ヤツが言う。私は自然に小さく笑った。

「人助けだ。あのままあんな山ん中に放ったらかしにされるよか、誰かに見つかって暖められる方がいいからな。ま、どうするかはあいつらの勝手で私の知る所ではない」

 そう言うとヤツは車を発進させてその場を走り去った。

「それに、連中も喜んでいるみたいだからな」

 私は画像を見る。
 そこにはカーブミラーを背にし、後ろ手に手錠をかけられた女性白バイ隊員がいた。
 黒革の制服やブラは肌蹴、乳房が露わになっている。レザーパンツも下着もろともブーツの口まで下ろされている女性白バイ隊員がいた。
 私の白濁液やヤツの白濁液、泥などで何度も汚された女性白バイ隊員がいた。
 白濁液が垂れるバイザーの向こうで僅かな怒りの炎を残した空ろな瞳を見せる女性白バイ隊員がいた。

「少しは小便臭いがな」

 そう呟くと次々に旧道を目指す改造車とすれ違った。
 私はそれを目で追う事もなく、携帯から視線を切って前を見るとそれをぱたん、と閉めた。



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