聖域の日常


 無数の足音、人の声。一体視界の中に何人の人がいるか勘定ができないくらいの人並みが続いている。
 大きな荷物を持った観光客、スーツケースを持ったサラリーマン、ちょっとめかし込んだ買い物客――。

「…………」

 間断なく続く音の中、黙ってその波に立つ女性の姿があった。
 彼女は断続的に続く人ごみに紛れたり流されたりせずに堂々とその存在感を誇示しながら柱を背にして立っている。
 凛とした、女性としても整った部類に入るその顔を彼女は背けたりせず、真っ直ぐ前に向いたまま。
 そんな彼女に話しかけたりじっと見つめたりする者はいなかった。軽く物珍しげに視線をむけたりする者はいるが、彼女はそれを気にすることなく静かに、しかし目立つように立っていた。

「…………」

 顔は真っ直ぐ前を向いてはいるが、その目は真っ直ぐ一点を見ることはなく、左右満遍なく撫でるように視線を向けていた。
 物珍しげな視線は構うことはない。何かあるのではないかと思ってくれた方がむしろ好都合。
 もっとも、この紺色の活動服を見て自ら寄ってきたりぶつかって来たりする方がおかしい。
 ただこの制服を着た自分を見て一瞬でもこそっとする人やさっと身を翻そうとする人がいないか。びくっと少しでも警戒するような視線を向ける人がいないか。
 人ごみの中、視界に入っては消える人の動きの中ででぽっと浮かぶそんなイレギュラーを見逃すまいと彼女は活動帽のつば越しに鋭い視線を流していた。

「お待たせしました。内回り環状線、電車が参ります」

 頭の上にあるスピーカーからそんな声が聞こえてきた。彼女は初めて柱からそっと背中を離れさせてゆっくりとホームの黄色い線沿いに立った。

「後ろ2両目が女性専用車両となっております。女性の方、また障害をお持ちの方のみがご乗車になられますのでお気をつけ下さい」

 女性専用車両。その言葉を聞いて彼女の頭の中に上司の言葉が再生された。

「環状線の女性専用車両において窃盗、強盗事案が発生している。ラッシュの過ぎてすぐの時間帯、デパートの開店前後に発生しやすいからその時間を中心に警乗してくれ」

 上司の言葉に頷くように彼女はこくん、と僅かに顎を引いた。その僅かな動きに反応するよう、上司の言葉の続きがさらに再生された。

「先日、職質でスリ団一味の頭を引っ張ってきた君だ。女性と言う以上に警察官としてのその確かな目とカンに今回も期待しているぞ」

「……私にしかできない任務か……」

 再生された上司の声に回答するように彼女が呟く。その声は呟いたと同時に彼女の目の前に滑り込んできた巨大な鉄の箱の音に消えた。
 甲高い金属音を響かせたそれはゆっくりと確実に速度を落として行き、ぴたりと所定の位置に止まった。
 彼女はふっと活動服と防刃チョッキに被われた腹の下に息を入れると目の前のドアをきっ、と見た。
 深いため息のような音とともにドアが開き、ばっと乗っていた乗客が吐き出される。
 彼女を境にするかのように降り立つ乗客はさっと左右に割れてホームへと流れ出ていく。
 人ごみを掠める紺色の活動服の袖には臙脂色の鉄道警察隊の文字が入った腕章。
 流れが途絶えた瞬間、腕章を揺らして鉄道警察隊唯一の婦人警官である彼女がさっと乗り込んだ。

「……え……」

 その瞬間、彼女は思わず短い声を上げて足を止めた。

 何かが違う。

 警察官が電車に乗ってきただけでぴん、と緊張感が張る瞬間はある。今までに彼女それは何度も感じ、経験していた。
 しかし、今車内に漂う物はそれではない。もっとざらっとしているような、刺々しいような、刺さってきそうな鋭い何かがあちこちに張り巡らされているようだった。
 車内は街をふらついていそうな遊び人っぽい女の子が少し多いくらいでいつものラッシュを過ぎた辺りの車内と一見、変わらない。
 だがやはり違う。見た目は同じでも見えない何か、空気や雰囲気が全く違う。
 その異質な鋭い空気は車内に入ってきた彼女、婦人警官を弾き出そうとしているのか、胸元を押される圧迫感を彼女は確かに覚えた。

「…………」

 彼女はそんな空気や圧迫感から一つの意識を嗅ぎ取った。
 敵意――誰かは知らないが警察官に、彼女に敵意を抱いている人が車内にいる。彼女のカンが危険信号のアラームを鳴り響かせている。
 普通の女性ならば慌てて電車を降りるような空気だが、彼女は警察官。この車両に乗るのが任務。
 誰からかはわからぬ敵意に対してきっ、と屈しない事を示す強い眼差しを向け、張った空気を押し返すように彼女は一歩二歩と車内を歩いた。
 その瞬間、彼女の命綱を断ち切るように後ろの自動ドアが閉まり、電車が動き出した。

「ねえねえ」

 見えない何かと戦う彼女の背後から気安く呼ぶ声が聞こえた。はっとした彼女は車内に立つ捕まり棒を背にしてくるっと振り返った。
 そこには紙を金髪にし、耳にはピアスを2、3個つけた化粧の濃い女がいた。年の頃は彼女よりも同じか若干年上と言った所。

「何か」

 彼女はきっ、と油断のない強い眼差しを彼女に向け、息の詰まりそうな緊張感の中で訊いた。
 婦人警官を呼び止めた女はにたっと馴れ馴れしそうに笑い、婦人警官の彼女に興味がありそうな視線を向けた。

「この間、駅でスリを捕まえた女のお巡りがいるって聞いたけど……あんたなの?」

 ずいぶんと馴れ馴れしい口の訊き方。こんなのに相手をする価値はない。
 彼女はそう思い、普通に道案内をするときに見せる笑顔を封じ込めて勤務中のきりっと締まった顔のままでその女を見た。

「何かありましたか? それを聞いてどうするのですか?」

 つんけんと返す。しかし、女はそれを嫌がったりむっとするような素振りを見せず、それどころかどことなく期待通りと言いたげな笑みを見せて彼女を見ていた。

「いやね、そのスリにあたしヒドイ目に遭ったのよ〜。だからその女のお巡りに一言でいいから礼を言いたくってね」
「そんな……礼だなんて。任務だから当然の事をしただけ。その必要はないです」

 口の訊き方はなってないが、そう言われると悪い気はしない。素っ気無く返したつもりが少し勘定の紛れ込んだ反応になっていた。
 女はそんな彼女の言葉を聞き、表情を見ると馴れ馴れしい笑みのまま、しげしげと彼女の顔を見続けた。

「へえ……やっぱりあんただったんだ……あのスリ捕まえたの」
「え、ええ……まあ」

 ちらりと彼女の顔に笑みが一瞬、浮かんだ。

「……本当にあいつにはヒドイ目にあったのよ〜あたし」

 女はそう言うとふっと小さく息を吐いて。僅かにうつむいた。

「……でも、いいヤツなのよ……ねっ……!」

 呟くようにそう言って女が再び顔を上げた時、そこに笑みはなく憎しみと敵意があからさまに浮かんでいた。

「えっ、きゃっ!」

 その顔が彼女の視界にサブリミナルのように浮かんだと同時、彼女に向かって飛び出したかと思うとどんっ、と強い衝撃が胸を突いてきた。
 床から天井に向かって立つ捕まり棒を背にしていた彼女はその背中を細い棒に打ちつけた。

「痛っ……な、何……えっ! ああっ! な、何をするのっ!」

 きっ、と女を睨んだ彼女は立ち向かおうと体勢を整えようとした。しかし、体が動かない。
 彼女が棒にぶつかったと同時、4人ほどの周りにいた女がそれを合図にするように彼女へ襲い掛かり、彼女の腕や脚を掴んでいた。

「やめなさい! 放しなさい! 公務執行妨害よっ」

 彼女はそう言いながら襲い掛かる女たちを睨み、振り切ろうと腕や脚を動かそうとした。だが、いくら鍛えているとはいえ1対4では明らかに分が悪かった。

「やめなさい! やめろっ! くっ……離れなさい! 離れろっ! あっ! 何を……うっ……ああっ」

 八本の手は逆らおうとする彼女の腕を力ずくで押さえつけ、彼女の意思と逆の方向へと動かした。
 彼女の腕はその背に向けて動かされ、背後の棒を巻くようにして後ろ手に回すとその手や手首をガムテープでぐるぐる巻きにして拘束してしまった。
 両手、両手首をぐるぐる巻きにしたガムテープを少しでも外そうと手首をもぞもぞと動かす。
 彼女は悶えるように上半身を揺らしながらきっ、とにやにやと笑いながら彼女を見る女を睨んだ。

「どうよ? パクられる気分は?」
「何をするの! 今すぐはがしなさい!」
「気に入らないね、その命令する口」

 女は睨み付ける彼女の顔に近づき、つん、とその頬を突いた。

「触るな!」
「あたし前々から気に入らなかったのよ。婦警って。なんかエラそうにしてっし。あたしらと同じ女なのにね……」

 彼女の頬に指を立ててぐりぐりっとにじる。彼女はつん、と顔を背けて指を外させると再びきっ、と睨んだ。

「社会の悪に毅然としているだけ! エラそうって言いがかりよ!」
「それがエラそうなんだよ!」

 ぼむっ、と防刃チョッキをまとった腹に拳を入れた。

「ぐっ! やめなさい! そんな言いがかりくらいでこんな事して何になるの!」
「それだけじゃねえの」

 そう言いながら女は彼女の制服のボタンを弄ぶように触った。

「あんたのパクったスリね……あたしの男なんだよ……どーしょもない男だけど……でもいいヤツなのよね……」
「仕返しって言いたいの? バカな事はやめなさい。そんなことしてもあいつは帰ってくる事ないし、それにあなたにも罪がかかるだけ……」
「いいヤツだから……手伝ってくれるヤツも多いんだよねー……」

 ちらっと女が周りを見る。ちょうど拘束された婦人警官の周りを取り囲むように5人の女が立っている。全員がにやにやと笑い、健気に睨む彼女を見ていた。
 蔑むようなそんな眼差しに屈しない、そう言わんばかりに彼女は女達を睨んだ。

「あなた達もこんなバカな事に乗らないで……早くこの手を外して」
「外す訳ないじゃん。ここにいるみんなはあの男が好きで……警察のその制服が大嫌いなんだよ」

 女はそう言うと活動服の一番下のボタンを一つ、外した。

「な、何をするの!」

 抵抗できないようにして殴られるか蹴られる。そんな恐怖を押し殺していた彼女に取って女の行動は予想外だった。
 僅かに動揺の浮かぶ声で言うと女はにやりとまた笑った。

「別にあんたをボコにするのはいつでもどこでもできるのよ……駅を男とうろついてる時とかにでも」

 まるで彼女の考えを見切っているかのようにそう言い、躊躇することなくもう一つのボタンを外す。

「やめなさい……」
「でもそれじゃつまんない。普通の調子に乗ったヤツをボコるんじゃないしね……」

 楽しむようにちょうど真ん中のボタンを外す。

「ふざけないで……今すぐ……」
「制服着てエラそうにしている女のお巡りだかんね……」

 その上のボタンを外す。残るは、ただ一つ。

「バカなこと言ってないで……」
「あんたがエラそうにできるのは制服着てるから……あんたが人を捕まえたり命令したりするほどエラくないってわからせてあげる!」
 最後のボタンを外した瞬間、女は活動服をばっと左右に開いた。
 制服と同じ紺色の防刃チョッキときちっと閉まったワイシャツの襟、きゅっと締まったネクタイの結び目が露わになる。

「だから電車の中でやろうってなったの。こんなの着ててごめんなさいっていいたくなるようなことをね〜女のお巡りちゃん」

 女の絡みつくような笑顔が彼女のしかめた顔を撫で回していた。

「や、やめなさい! こ、こんな事許され……いっ! 離れなさいっ!」

 紺色の活動服の上着を肌蹴られた彼女の再び八本の手が伸びた。
 脇腹をがっちりと止めている防刃チョッキのマジックテープを引き剥がして、前掛けのようにだらんとチョッキを無力化させる。
 そこに生じた隙間から別の手が入り、シャツのボタンを一つ一つ外していく。
 ボタンが外され左右に開くシャツの間にも手が伸び、彼女の胸を包み込む、飾り気のないスポーツタイプのブラを掴む。
 そんな手を振りほどこうと彼女は悶えるように上半身を蠢かせる。
 しかし、それもまた別の手が彼女の肩を押さえつけて動きを封じる。
 見事なチームプレイ。まるで女達の仕事として動いているようだった。

「ははっ、いい感じね〜、お巡りさん」

 リーダーの女がいい気味と言いたげ笑みを見せて言葉を放り投げた。
 女の視線の先には棒越しに後ろ手を拘束され、活動服を肌蹴され、だらんとかかった防刃チョッキで辛うじて体を覆ってはいるがその下のワイシャツはズボンから引き出された上に第二ボタンまで外された婦人警官がいた。 
 ワイシャツの下には何もない。付けていたスポーツタイプのブラは女の一人がカッターで切り刻んで引き剥がされてむちっとした張りのある肌とお椀をひっくり返したような、形のいい乳房が直に車内の空気に撫で回されていた。

「いい加減にしなさい! こんな事しても何もならない!」

 その時、がくん、と電車が揺れた。彼女がはっと窓を見ると流れの止まった車窓の中に無数の人が行き交っていた。

「あ……」

 駅に到着した。彼女がそう気づいたと同時、彼女のすぐそばのドアが開いた。それと同時、反射的に数人の女性が車内に足を踏み入れてきた。

「…………!」

 乗り込んできた女性は後ろ手に拘束され、制服を肌蹴させられている婦人警官を見ると一応に驚いた顔を見せた。
 しかし、車掌や駅員に告げるでもなく、携帯で警察に通報するでもなく、顔を伏せて視線を切り、そそくさと婦人警官の前を通り過ぎて車内の奥へと進んでいった。そして、空いているシートに座ると雑誌を開いたり化粧をし始めた。

「……そん……」

 発車のベルが鳴り、何事もなかったかのようにドアが閉まる。そしていつものように普通に電車が走り出した。
 ごとんごとんと電車特有の音を響かせてゆっくりと揺れながら走る電車。それはそれは日常的な音に光景。
 非日常の只中の彼女は初めて自分の周囲を見渡した。
 乗客は当然、全員女性。彼女達はシートに座って雑誌を読んだりメールを操作したり化粧をしたり居眠りしたり。普通の日常を繰り広げていた。
 目の前の非日常に目を背け、あるいはあれは何かの撮影なのだと自分に言い聞かせ、そう思い込ませて非日常を日常とさせているようだった。
 無視している訳ではない。彼女の存在は確認しているが、それは日常の一こまなんだと車内の全員が思っている。

「……な……」

 無視されたなら大きな声で叫べば存在に気づいてくれるかもしれない。
 しかし、日常の一こまとされていたら――彼女が叫ぼうが泣こうがそれは全て日常の一こま。通報も何もされる事はない。
 彼女の周囲からの無言の仕打ちに打ちひしがれかけている様子に女はにやりにやりと何重にも笑いを引っ掛けた。

「邪魔してくれるヤツはいないし……でも……もっとあんたが恥ずかしがってくれなきゃね……つまんない」

 そう言うと女はきっ、としている彼女の顔に自分の顔を近づけた。

「もっと泣いたりして『許して〜』とか言わないと。情けなくね」
「ふざけないで! こんな事くらいで!」

 彼女の瞳から僅かに浮かんでいた絶望が消え、再び警察官然とした厳しく、鋭い眼差しが女へと突き刺さった。
 応援なし、協力者なし。頼りになるのは警察官たる自分だけ。
 追い込まれた状況が彼女を再び立ち直らせていたのだった。

「ふうん……これくらいじゃやっぱり足りないんだ。じゃ、もっと恥ずかしいことさせるしかないのねえ」

 彼女が立ち直っても女は怯んだりせずにふふん、と笑っていた。そしてさっと他の女達へ視線を流した。

「恥ずかしい事って……きゃっ! な、何をするのっ!」

 流された視線を受け取った女の一人が再び彼女に近付いた。女は肌蹴た彼女の活動服を払い、露になっている上半身に手を差し込んだ。

「や、やめなさい! そんな所に手を……ひっ! 触らない! そんな所!」

 女の手は防刃チョッキの隙間と開いたシャツの間から入り込み、お椀をひっくり返したような形のいい彼女の乳房を鷲掴む。

「いっ、やっ! 止めなさいっ……触らない……お、女同士でも強制わいせつよっ!」

 むにゅんむにゅんと彼女の右の乳房を片手で弄ぶ。その手つきはマッサージのように優しく、そして力強い。
 自分の乳房が潰され、はじき返し、歪められ……つんとした形が無理に変えさせられているのを感じられる。

「やめろって言ってるでしょ! わからないの……ひっ! や、やめなさい!」

 彼女が首を左右に振って上半身を背けようと体を動かした瞬間、もう1人の手が彼女の左胸にさっと差し込まれて右とは別の動きで乳房を弄び始めた。

「ど、どこを触ってるの! 止めろ……やめなさいっ! い、今すぐ! いっ……」

 左胸に伸びた手が動き出した瞬間、彼女の背筋にぞくっと僅かな震えが走った。
 右とは違う感触。指が乳房に食い込むような強さではない。もっと直接的に神経を刺激するような、反射的に体を感じさせるような。少なくとも電車の中で覚える感触ではない。
 毅然とした中に動揺のような隙が浮かぶ彼女の表情。それを覗き込むように見る女がははっと払うように笑った。

「乳首弱いんだ〜。お巡りも……」

 右胸が乳房独特の柔らかな肉感を楽しむようにその膨らみを弄ぶのに対し、左胸に伸びた手は彼女の乳首を弄んでいた。
 摘み、弾き、引き、撫で、押し潰し、抓る……。

「くっ……やめなさい……ふざけるのもいい加減に……んっ! いっ!」

 左右の乳房が全く違う動きで刺激を与えられる。制服のまま、電車の中で。
 何もかもか初めての、そしてあり得ない体験と刺激。彼女は耐えるように下唇を噛み、眉間に軽く皺を寄せ、首を左右に振って与えられる刺激に抗った。
 そんな彼女の意識が胸に向かい切ったその時、

「やめ……きゃあっ!」

 甲高い普通の女性の悲鳴が彼女の口をついた。
 また別の手が露になっている彼女の右脇腹に取り付き、つーっと食い込ませるように指でそこをなぞりだしたのだった。

「いひっ! やめっ……やめなさいいいい! あはあっ!」

 彼女の警告が悲鳴のようになり、逃れようとする上半身の蠢きと左右に振る首の動きが大きくなっていく。

「そこも弱いんだ……弱いとこばっかじゃん。制服着なきゃその辺の中学生と一緒じゃん」

 女が笑う。彼女は一瞬、ぴたっと首を振るのを止めたがすぐにまた横に振った。

「もうやめなさい! こんな……こんな事……許されないのよ! 女同士でも強制わいせつ罪よ!」
「許してほしいなんて思ってないし。あたしらはただあんたに恥ずかしい目に遭わせたいだけなんだし……どうよ? 女って男と違って攻め方とか違うから気持ちいいでしょ?」

 にたあっとした笑みをこすり付けるように女が彼女の顔を見る。彼女は一度きゅっと下唇を強く噛むときっ、と決然とした強い眼差しを女に向けた。

「ふざけないで! 絶対に……絶対にあなたを逮捕するから!」
「全然恥ずかしがってない。あ、ひょっとして男に抱かれたことないから違いがわかんない? 早く言ってよ」

 完全に小ばかにした笑みを女が見せるとそのまま彼女からその隣に視線を向けた。

「そっちが使い慣れてるっぽいみたい。たっぷり恥ずかしい事しちゃって」

 女の視線を受信した4人目の女が歩み寄る。すると胸や脇腹を弄んでいた女達がすっと彼女から離れた。

「く……はあはあ……」

 一瞬、ほっとしてうつむいたままで荒い息を繰り返す彼女。だが、そのうつむいた視界に入った物とその音にはっとした。
 繭玉くらいの大きさのプラスチックのボール。尻尾のように伸びるコード。ヴーンと携帯のバイブのような音。

「な、なんでそんな……」
「男知らなくてこっち使ってるんでしょ?」

 彼女の視界に入ったそれはピンク色したローターだった。ローターを持った女は彼女に無言で歩み寄った。

「やめなさい……あなたはまだ何もしてないから……犯罪も何も……」

 彼女が説得を試みる。すると女はローターのスイッチを切り、振動していたローターをただのプラスチックボールへと変えた。

「……そう……こんな馬鹿な事に協力するんじゃなく……てえっ!」

 僅かにほっとした瞬間、ローターの女は素早くそれを左の彼女の防刃チョッキの隙間、シャツの袂を潜らせて彼女の乳房へと滑り込ませた。

「や、やめなさいっ!」

 彼女はそれを振り解こうと状態を捻ったが後ろ手を拘束された状態。稼動範囲はたかが知れている。彼女の左乳首の上にローターが押さえつけられた。しかし、それだけですむ事はなかった。

「いっ! は、離しなさい!」

 別の女が彼女の上半身を抑えて彼女の拘束をさらに高めていた。動く範囲の狭まった彼女の胸。
 その乳首の上にローターが載っていた。そして、ローターの女はテープを短くちぎると乳首に抑えたローターの上にそれを貼り付けた。

「な、何をするの! 剥がしなさい!」

 彼女がローターの女を睨む。あまり生気がなさげで幸薄そうな暗い感じの女。そんな女が死に掛けている人間を見つけた死神が浮かべるような笑みを浮かべた。

「……立っている」

 その笑みを見せたままでコードの先にあるリモコンのスイッチをぐっと握った。

「ひあああっ!」

 彼女が初めて上げた悲鳴。女がいじり倒して軟骨のように固まり、つんと張って敏感になっている乳首の上に貼り付けられたローターが蠢いた瞬間だった。

「あっ……いやっ……やめ……やめなさ……い! と、とめなさ……ひっ!」

 無機質に一定に振動をするローター。それから生じる刺激がむき出しの乳首を震わせ、そのまま彼女の神経を直接揺さぶって全身の筋肉を弛緩させようとしているようだった。

「とめ……むっ! んん……ん……!」

 膝が笑い、がくっと折れかける。
 そんな無機質な機械の動きに折れそうな体に抗うように彼女は下唇を噛んで彼女自身を、警察官としての自分自身を維持しようとした。

「我慢はよくないって。声上げりゃいいの。気持ちイイ〜! もっと〜! って」
「気持ちよくない! やめ……やめなさい! こんな……あんっ! 止めるのよ!」

 女がささやくが彼女は抗う。
 だが、彼女は女ではなく床や天井、壁に向かってその言葉を言っていた。刺激に飲み込まれそうな体をなんとか頭で押さえつけようとするように首を上下左右に振っているのだった。
 そんな必死に抗う彼女を女はにやにやしながら見て、ちらっとローターの女に視線を向けた。

「ねえ。足りないみたい。もっと気持ちよくさせて」

 ローターの女が頷くと音もなくすうっと彼女の右側に立ち、また別のローターを手にした。

「や、やめなさい! それ以上は……んっ! んんん!」

 彼女の全身がくの字に折れる。ローターの女がリモコンを最強に合わせていた。

「んひいっ! んん! ん……あふっ! や、やめ……ああっ!」

 地震波のように乳首を乳房を揺らす。
 たった一つのピンポン玉よりも小さなプラスチックで婦人警官が悶え崩れかけていた。そんな彼女を女と4人の女は笑みを見せて見ている。

「制服着たって弱いじゃん。その辺の女と一緒……」

 女が笑ってそう言うと同時。くの字になって大きく開いた防刃チョッキと肌の隙間に別のローターを差込、右の乳首へと押し当てた。
 そして、テープで固定するといきなりリモコンを最強に合わせてスイッチを入れた。

「ああんっ! あひっ! いやだあっ! あっ! やめなさ……て……やめなさ……んくっ! いいいい!」

 両方の乳首から襲い来る刺激に彼女は全身をくねらせ、悶え苦しむように首を振った。

「いやっ! ああああ! こんなの……こんなのおおおお!」

 首を上下左右に激しく振り、いつしか被っていた活動帽を振り落とし、ショートの髪を振り乱していた。

「あふっ! 止めなさい! 止め……いひいっ! あっ! あああっ! 止め……なさ……止めてっ! 止めてええ!」

 何かの病気にかかったかのように全身を痙攣に近い震えで揺らし、くの字に折れた体や膝の曲がりが深くなっていった。

「気持ちいいんでしょ? お巡りちゃん。普段ローター2つなんてした事ないでしょ?」
「いっ! やだああ! 止めて! 止めてえ!」

 女の言葉など聞こえていない様子。女はふうんと深く息を一つ、吸った。

「そっか……じゃ、もっと刺激強くするか。最強以上にね」

 そう言うと女は彼女の脇腹で役割を放棄し、だらんとしているマジックテープを掴んだ。そして、

「ひいいいっ! あああああ!」

 ぎゅっとかなりきつめに、締め上げるようにそれを再びセットした。左右どちらともを強く締めがっちりと彼女の体のラインをフラットにさせようとするくらいに強く。

「ああっ! と、止めて! もういやああ!」
「どうよ。制服に攻められるってのは」

 彼女を守る防刃チョッキは今や彼女の乳首を揺らすローターをさらに強く押さえつける拘束具となっていた。
 ローターは乳首を押しつぶし、乳房に食い込むようになりさらに直接的かつ強力に彼女を揺すった。

「やめて! 緩めて! 止めて! やだあああ!」

 今まで味わったことのない刺激。彼女は本能的に起こす拒絶反応のように髪を振り乱して首を振っていた。
 制服を着たまま、いや、その着ている制服によって刺激が増す。自分を守ってくれる物が彼女を攻め、そして心に傷を入れていく。
 防刃チョッキの胸の部分に震えるローターがぽつんと膨らんでいる。女はそれを防刃チョッキ越しに指でつん、と突いた。

「いいでしょ? ほら、素直に気持ちイイって言いな」
「いっ! 気持ちよ……く……なんか……あっ! ああ……」

 抗いの言葉を口にしたと同時。ついに体が負けた。
 膝ががくっと折れ曲がり、ずるずると背にした棒沿いにへたり込んでいった。その瞬間、ローターの女がリモコンを止めた。

「かはあ……はあはあはあはあ……」

 がっくりと俯き、大きく口を開けて荒く呼吸を繰り返す彼女。何もかもが緩み、涙腺まで緩んだのか彼女の視界はぼんやりとしていた。彼女は一度きゅっとまぶたを閉じて涙を切り視界を開かせた。

「はあはあ……ああ……」

 俯いた視界に入った物。それは彼女の被っていた活動帽が女の汚れたスニーカーに踏みつけられている光景だった。

「まだ足りてないんじゃない?」

 女が言う。

「はあはあ……こんな……こんな事……して……あなた達……」

 刺激から開放された彼女が上目で女のにやにやした顔を見た。

「……許されないし……必ず……罪は償ってもらう……」
「やっぱ足りてないんだ……まーだお巡りやってる」

 女は活動帽から足をどかすとつぶれて足跡のついた紺色の活動帽を手にした。

「お前は普通のただの女。エンコーやってる小坊と同じなんだよ……こんなの被ってエラそうにしてるだけ」

 そう言いながら女はつぶれて形の崩れた活動帽をぽん、と彼女の頭に載せた。

「……はあはあ……違う……私……は…………警察官……よ……あなた達を……」

 荒い息に途切れ途切れで言う。女はまだ健気に婦警然としようとする彼女に少し噴出した。

「お巡りって本当バカね……気持ちいいのを気持ちいいって言えないって……いいわ」

 女はにやりと笑うと上目で睨む彼女にその顔を近づけた。

「もっと恥ずかしい事してあげる。こんなの着て街を歩けないようにしたげる……電車の中でこれ着たままここに入れたら……どうなるのかな〜……」

 女はそう言うとローターを手にしてある場所を指差した。
 活動服のスラックス。その前にあるベルトのバックルからジッパーにかけての範囲を。

 巨大な鉄の箱が悲鳴のようなブレーキ音を立てて電車が駅のホームへ滑り込んでくる。
 大きなため息のような空気の漏れる音と共にドアが一斉に開いた。

「くっ……つっ……やめなさい……やめなさいって……くふんっ……わからないの……そんな……ふっ……事……」

 ドアが開いて乗り込もうとした乗客がまず目にする光景。
  苦悶の表情で顔をしかめて後ろ手をガムテープで拘束され、左右の乳房の突端からヴーンと聞こえるモーター音がまとわりつく婦人警官の姿だった。
 今はそれだけではない。
 女の1人が婦人警官の足下にしゃがみ、スラックスの前のジッパーを下ろして開いた窓から手を入れていた。
 そして、中にある白地に青のストライプの下着の上から彼女の秘所の形を探るようにゆっくりと丁寧に唸るローターを滑らせ動かしていた。

「も……もう十分で……っつ……しょ……こんな……こんな……」
「やめられないわねー……あたしらバカだからわかんないしねー……」

 彼女が抵抗するように腰を軽く左右に降ったり拘束されて動かない手をもぞもぞ動かすがどうにもならない。
 しかめた顔のままできっ、と睨むも周りの女達はにやにやしながらそれを受け流すだけだった。

「…………」

 彼女はきゅっと舌唇を噛んだ。悔しい感情を噛み殺すように。胸と下腹部から絶え間なく生まれる刺激に押し流されそうになる自分に投錨するかのように。
 そんな彼女の前をせかせかと女性の乗客が乗り降りする。降りる乗客は逃げるように。乗り込む乗客は関わりあいを避けるように。

「……んくっ……ん……」

 そんな人の流れを気にするほどの余裕は彼女にない。
 スラックスの中をローターが震えながら滑る。下着の上をムカデでも這うように小刻みな震えと間断ない音がまとわり付く。
 その震えが決まった所を通る度に彼女の全身にぴくっとやや強めの快楽が走る。

「そこも弱いのね〜……ふーん……へー……」

 リーダーの女がにやつく。宝捜しに穴を掘ってシャベルの先に硬い物を感じた時のような笑み。
 そんな笑みと声をそばに向けられた彼女は舌唇をさらに強く噛み、まぶたを閉じると俯いて首を左右に振った。

「い、いい加減にしなさ……いっ! こ、こんな事しても……何もならな……いいっ!」
「これから役に立つじゃん。女のお巡りの弱点ってどこかってね……そっちはどう?」

 ローターを持つ女がそれをすうっと彼女の下腹部に滑られる。

「くうっ……くふう……や……やめるのよ……やめるの……今すぐに……やめな……さ……い……」

 じっくりとじわじわと。ローターの女は性犯罪者らしからぬ丁寧さと優しいタッチで彼女を攻めてくる。

「感じている」

 例の死神のような笑みをチラッと見せて耐える彼女を見て呟いた。

「ふ、ふざける……なあっ! ふ……くうん……!」

 ローターの女の言葉に抗って彼女が言うと女はぐりゅっとローターを押し当てた。びくっと婦人警官の肩が揺れる。

「やめる……のよ……す、すぐに……いいっ!」

 自分で覚えている感覚を否定するように彼女が首を横に振る。

 負けちゃダメ。流されちゃダメ。こんなヤツらに好きにされるのは。私は警察官なんだから。

 心の中で自分を鼓舞するかのように彼女が叫ぶ。

 今にこいつらに隙ができてその時に……ア、アイツと付き合っていた時ってこんな丁寧に扱われなかったっけ――。

 心の中の叫びに僅かな隙が生まれた。するとそこに一瞬、過去に一夜を共にした男の記憶がフラッシュバックされた。

「……バ、バカ……」

 その瞬間、彼女は舌唇を再びぎゅっと噛むとそう呟いて女達を睨んだ。

「……バカな真似はやめるのよ。こんなの……復讐にも何にもならない、ただの鬱憤晴らしだから……」
「そんでいいじゃん。ムカついてるんだし」

 ちらっとリーダーの女が目配せのような視線を向けた。するとローターの女はにやりと笑って応じ、ローターの強度を上げてその先端をさらに強めに押さえつけた。

「くふうっ……んっ! あ……い……や、やめ……なさい!」

 白い下着にピンク色のローターが埋もれた。強まったローターのモーター音と圧力に彼女の体ががくんと揺れ、右の膝が折れる。
 彼女は声を上げずに口を開けて天を仰いだ。
 視界には無機質な灰色の天井と蛍光灯、そしてファッション雑誌の中吊りが揺れているだけ。彼女を救う物は皆無だった。
 その時、不意に彼女の下腹部の刺激が弱まった。ローターを離したのか強度を弱めたか。

「かはあ……はあ……はあ……」

 そんな事どうだっていい。僅かにできたインターバルに彼女はがくんと頭を垂れた。その瞬間、視界がぼんやりとにじみだした。

 …………ど…………う…………し……て…………

 取り囲むように立つ女達に気づかれないよう、声を出さずに婦人警官が口を動かした。
 きゅっと瞼を強く締めて視界の霞を取り、ちらっと視線を動かした。その先にはシートに座って携帯電話でメールを打つ女性の姿があった。

 その電話で警察に通報して。どうして通報しないの? 私の姿が見えないの? こいつらの犯罪行為が見えないの?

 心でそう問いかけたが返事がある訳もなく、反応もある訳もない。乗客は本当に現状が見えていないように黙々とメールを打っている。
 きゅっと目を一度閉じてまた開き、他に視線を向ける。
 そこにはファンデーションの小さな鏡を覗きながら化粧を自分の顔に施す他の女性の姿があった。

 あなたの化粧前の顔よりももっと酷い事が今ここで起きているのよ。どうしてこちらを見ないの?

 彼女が問い掛ける。すると彼女は化粧を終えたのか鏡を閉じた。そのままこちらを見る、かと思ったがファンデーションをバッグに入れるとすぐにバッグの下にある雑誌を開いた。

 …………う……そ……そんな……の……

 携帯電話の乗客、化粧の乗客。彼女達はこちらで起きている事を無視しているように見えた。
 意図的に婦人警官と犯罪者達を視界から消し去っているように見えた。

 私が警察官だから? 警察官が襲われているから? 市民が襲われた時には私達が駆けつけて守る。
 でも警察官が、この制服を着た私がこうして襲われても――誰も守りに駆けつけてくれない。
 せめて通報くらいして。みんな携帯電話持っているのだから。私も無線を持ってるけど、今は使えないから。
 でも、警察官でもどうにもならないこいつら。それをこうして目の当たりにされればできるだけ関わり合いたくはなくなる。
 何より、女性として一番屈辱的な事が目の前で繰り広げられてますます触りたくはなくなる。
 なんと言ってもこの車内には女性しかいないのだから。

「はあ……はあ……」

 俯いたままぐるぐると頭の中を回る考え。そこから出てくる答えのような物は彼女を落ち着かせたりさせる事はなかった。

 誰か助けて! 早く警察に通報して!

 取り乱したまま、悲鳴のような声でそう叫びたい。しかし、できない。警察官が守るべき市民にそんな事言えない。ましてお願いするなんて――。
 強い誇りと使命を持って着ている紺色の制服。これを着る事で普通の女の子である彼女が市民を守る盾となれ、警察官としていられるのだ。
 だが、そんな紺色の婦人警官の制服は今や彼女を女性専用車両の中で孤立無援にさせ、その上ローターを押さえつける攻め具にすらなっている。
 この姿でいる限り、何をされていても婦人警官であり、周りの乗客と同じ普通の女の子には見られない。
 私は警察官。しかし、それより前に女性。ここに乗っている乗客と同じ女性なのに――。

「感度はどーよ?」

 婦人警官と言う強者の鎧を纏った弱者。強者として誰も救ってくれず、助けも呼べず、弱者として嬲られ、餌食にされる。
 この状況に彼女は俯いたままで荒く息を繰り返すだけ。そんな彼女に女がにやにやと笑みを絡みつかせながらローターをいじる女に聞いた。

「まだ中まではわからない」
「そっか。もう調べちゃえ。専用車両の時間も終わるし」

 ローターの女が頷く。女は狙いを定めたように彼女の下着の上から一点をローターを押し付けた。

「ひっ! や、やめなさい! もうそれ以上はっ!」

 女が押さえつけたローターは骨で止まらずに下着の布諸共ずぶずぶと沈んで行った。そこは彼女の秘裂だった。沈み行くローター。布に覆われた秘所に目いっぱいまでローターが埋まると女はにやっと一つ笑ってリモコンの強度を上げた。

「いあっ! と、止めなさいっ! やめなさいっ! いいいっ!」

 ローターの音が電車のモーターよりも響いたように聞こえた瞬間、今までよりも強く、直接的に快感が下腹部の中から響いてきた。

「いっ! やああっ……ひっ……くぅぅ……んんんっ」

 足の裏に大きなばねを付けられて一気に射出されたような感覚。今まで感じたことのない強い快感が体内から突き上がり彼女は捕まり棒越しに背を弓ならせた。
 そんな平衡感覚すら吹っ飛ばしてしまうような快感に彼女はしかめた顔で瞼を閉じ、ぎゅっと下唇を強く噛んで抗った。だが、もうそれは蟷螂の斧と化しつつあった。

「んんっ……ふぅうっ……んんんんん!」

 下着の布越しに秘裂のなかで高速に震えるローター。普段肌触りのいいはずの木綿が紙やすりのような感触になって彼女の中を削っていく。

「んっ……んはあっ! や、やめなさ……やめ……て……お、おかしくなる……やめ……」

 硬く縛っていた袋の口が解かれるように彼女のしかめ面がじわじわと緩んでいく。
 下唇を噛んでいた口からは力が抜け出し、硬く閉じていたまぶたもとろんと開きだしていく。

「あら? もうダメ? 女のお巡りってあたしらよりも弱いんだ」

 楽しそうに女が緩みだす婦人警官を見て笑う。そしてちらっとローター女を見るとしゃがんで彼女の開いているスラックスのジッパーの中を見た。

「どう? いいでしょ〜。自分でやるよりもプロに任せたほうが気持ちいいんだって」
「やめて……やめて……」

 彼女の両膝は折れ、いつガクッと床に突っ伏してもおかしくない。
 他の女に支えられてようやく立っているような状態。首からは力が抜けてだらしなく天井を見上げ口と目を半開きにしてうわごとのようにそう言うしかできていない。
 凛とした婦人警官の姿はなく、婦人警官の制服を纏い快楽に沈む普通の女の子がそこにいた。
 女はふふっと笑うとそんな彼女の耳元にそっと顔を寄せた。

「最後に飛びっきり気持ちいい事してやるわ……腰から下が外れたって思うくらいの強烈な、ね」
「やめて……やめ……て……もう……わ、私……」

 がくがくと膝が笑い、肩が外れたようになだらかになっている。女は彼女の制服の肩のボタンをぴん、と弾いた。

「大丈夫。あんたの大好きなその制服は脱がせたりしないから。ちゃんと着てないてヤバいんでしょ?」

 女はそう言うとその手を制服のスラックスに伸ばした。その先にはベルトのバックル。そのベルトには拳銃やら手錠やら警棒や無線機がある。

「あ……やあっ……」

 反射的に彼女の腰が避けるように動く。その動きはどうにも頼りがいがなく、なよなよっとした動き。

「別にこんなヤバい物がほしいんじゃないって」

 おかしそうに女が笑い、そのまま拳銃のホルダーなどが付いているベルトの下にあるスラックスのベルトのバックルに手をかけた。

「ちょっと緩めるだけ。すぐに閉めたげるから」

 ちゃっとベルトを緩める。スラックスと腰周りに手が入るくらいの余裕が生まれた。
 女はにやっと笑うと彼女の半開きに潤んだ目に映るように何かを差し出した。

「痛いのは最初だけだし……すぐに気持ちよくなるわよ〜……力が抜けてぜーんぶ出ちゃうくらいにね」

 それはローターだった。まだ持っていた。

「あ……ああ……もう……やめて……お、おねが……い……」

 これ以上の衝撃で自分はどうなってしまうのか。
 そんな事わかる訳もなく、また、考えもつかない。そもそも、今そこまで回る頭を持ち合わせていない。
 彼女は半開きの口と目を上に向けたままで弱々しく首を横に振った。
 ふふっと女は一つ笑うとローターを自分の口の中に入れて飴玉をしゃぶるようにびちゃびちゃとしゃぶった。

「……ん、っと。アソコは自分で濡れるけどこっちは濡れないしね〜……」

 そう言いながら女はローター女に目をやる。ローター女が表情も変えずにこくん、と頷いてリモコンの強度を弱めた。
 同時に婦人警官を両脇から支える女にも目をやる。
 その女達は婦人警官の乳首に張り付き、防刃チョッキに締め付けられているローターのリモコンを手にし、にやにやしながら頷いた。

「じゃ……入れるね〜」

 女は隙間が生じたスラックスと腰の後ろから手を入れると、そのまま下着の中にローターを入れた。
 そして、止まる事無く一気に臀部の割れ目沿いに入り込み、その中ほどにある肉門へずぶっと押し込んだ。

「ひああ……や、やめ……」

 その素早い動きと同時、下着越しに彼女の中へ入っていたローターが不意に引き抜かれ、さっと差し込むように下着の中に入れられ、そのまま彼女の中に直接挿入された。

「ひっ……あっ……ああああ……あ……」

 弱められてはいるが今は直接彼女の肉壁をローターが削るように刺激する。
 もう彼女は何がなんだかわからない。ただ生じる快楽の波に木っ端のように振り回されるだけ。半開きの口と目からつっとその分泌液が一筋、零れ落ちた。

「じゃ、最後まで楽しんじゃって。婦警さん」

 女がそう言った瞬間、彼女の秘所、肛門、左右の乳首についたローターのリモコンが同時に最強に合わされた。

「ひあああああああっ! あふっ! いいあああっ! あああああ!」

 痙攣のように全身を震わせ、電車のモーター音にも負けない嬌声を上げ、彼女はがくんとその場に跪いた。
 女達は崩れ落ちた婦人警官を見ると同時に笑った。
 リーダーの女はポケットから小さなプラスチック容器を取り出し、最強に合わせたリモコンへその中に入っている液体の一滴を落とした。
 にやにやしながらその容器を他の女に回し、それぞれが手にしているリモコンに一滴ずつ落とす。

「これでずっと最強のまま、楽しめるからね〜。外さない限りその気持ちよさは続くの。まあ、外そうとすると何もかも外れちゃうかもしれないけど〜」
「あ……ああああ……あ……」

 びくんびくんと肩や手を震わせ、涙や涎を垂らし制服の上着を汚す婦人警官。
 そんな彼女の制帽をぽんぽんと女が叩き、最後に回ってきたプラスチック容器をぽん、と彼女の制服のポケットへ入れた。
 強力瞬間接着剤と書かれたその容器を。

 巨大な鉄の箱が悲鳴のようなブレーキ音を立てて電車が駅のホームへ滑り込んでくる。
 大きなため息のような空気の漏れる音と共にドアが一斉に開いた。
 どっと乗客が降りる。乗り込む者はいない。
 そこは環状線から外れて伸びる路線。その終着駅だった。終着駅に着いて一分も経たぬ間に車両は全て空っぽになった。
 女性専用車両だった車両も誰もいない。
 あの悪夢のような婦人警官陵辱の痕跡もない。本当に夢だったかのように。

「あ……ああ……ああああ……」

 夢であればよかった。そう思う余裕もない婦人警官がホームに一人、ベンチに寄りかかるようにして地べたにへたり込んでいた。降車客と一緒に降りた女達に女性専用車両から降ろさていた。
 手首には乱暴に引きちぎられたガムテープの残骸が張り付いている。

「ああああ……はず……し……て……あ……ああ……」

 半開きの目からは涙がこぼれ、半開きの口からは涎が垂れ、婦人警官どころか大人の女性としての姿すらもう消え去っている。
 そんな口から漏れる悲鳴にもならない声。そして、胸と下腹部から衰えを知らず同じ調子で響くローターの音。

「あ……たす……け……ああ……」

 虚ろな眼差しでローターの音にも消えそうな声をこぼす彼女。
 だが、彼女は婦人警官のままだった。
 女たちに緩められたりしたはずのベルトやはずされたはずのボタン、一度脱げ落ちた制帽など彼女が着ている婦人警官の制服や装備はすべてきちんとされているのだ。ポケットに押し込められたローターのリモコンを除いては。

「あ……ひだ……れ……あああ……かあ……」
「おい! 大丈夫か!」

 そんなびくんびくんと震えるを婦人警官を見つけた男の警官や駅員が駆け寄ってきた。

「あ……あああ……」

 彼女に羞恥を感じる余裕はない。返事もできずに全身を蹂躙するすさまじい快楽に洗われるしかなかった。

「立てるか?」

 駆け寄った警官と駅員は彼女を立たせようとそれぞれ両脇を抱えて起き上がらせるように一気にさあっと彼女の上体を持ち上げた。

「ひあっ! あああああああああ!」

 その瞬間、彼女の中のローターもぬるっと動き、また新たな個所を刺激した。刹那、彼女は小動物の鳴き声のような声を上げ。背を弓ならせて全身を震わせた。
 そして。

「あ……や……ああ…………だあ……ああ……」

 彼女の弛緩しきった下半身を包む紺色のスラックスが、股間の部分からじわじわと下に向かってその色を濃く変色させていった。

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