眼前の選択


 まだ、夜は寒いな……。
 季節は春。しかし、春の夜は冬の昼間のように寒い。でも、まあ冷たいと言う所までには行かないのが春と言う物らしい。
 僕はコンビニの帰り、夜道を家に向かって歩いていた。夜風に当たって、などという悠長な事は言えずにせかせかと歩く。
 その帰り道の中間点に交番があった。そこは少し大きめの神社の前に建っている、ちょっと和風な感じの可愛らしい交番。
 昼間に結構可愛い婦警さんが道案内をする姿をよく見かけていた。
 その前を通りかかると僕は昼夜を問わずに必ずその交番の中をちらっと覗いていた。

 婦警さんはいないかな。

 僕はそんな期待を抱いて覗き込んでいる。
 別にここの婦警さんがお気に入り、と言うわけじゃない。ただ、婦人警官の制服が好きなだけだった。
 遠くから、交番の窓越しからでもいいから、ちらっと見えただけでも制服が見られればそれでいい。
 小心者の僕にはそれで充分に婦警さんを堪能できた事になる。
 
 近くで見られたり、職務質問でも話しかけられたなら、その事を思い出してその日の夜に一人で――。
 交番を覗く。しかし、中には誰もいない。
 外回りしているのかな。僕はそう思うと交番を通り過ぎた。
 ところが、その足はすぐに止まった。そして、ふと顔が交番のすぐ隣にある神社の長い石段に向いた。

 ……何か聞こえた。人の声か何か……。

 普段なら関わり合いになりたくないとすぐにその場から立ち去る所。
 しかし、なぜか神社に引き寄せられる。ここで中に入って真相を確かめなければ行けないような気がした。
 そんな好奇心と同時に僕の心が怯えと言う警戒信号を出して僕を引き止めようとしていた。
 神社の石段を通過する動きとそこに向かう動き。
 別方向への運動が引っ張り合い、丁度均衡してぴんと空中に張って固定されたようにその場に立ち止まっていた。
 時間が長くゆっくりと夜の神社前を流れる。
 僕は時間の流れを夜風に感じた瞬間、つま先をさっと石段に向けて歩き出した。

 何かあって警察に連絡したら婦警さんとお話ができるかもしれないぞ

 僕の心のどこかからそんな声がして僕の背中を押していた。

 夜の神社。月に届かんとするほどの御神木に数本の街灯。
 聞こえる物は石段を踏む僕の足音と時折揺れる木の葉の音。
 その音も生まれてすぐ、周りの闇と木々に吸い込まれてなくなってしまい、殆ど沈黙の中と言っても過言ではなかった。
 何が起きてもおかしくない、何が出て来てもおかしくない。そう思えるほどにここは現実の世界から切り取られた異世界の様相が感じられた。
 不意に僕は子どもの頃やった肝試しを思い浮かんだ。

 あの時は驚かそうと思って誰かが飛び出てくるよりも普通に鳥や蛙が動いただけの方が恐かったっけ。
 そして、何かがあると覚悟をしていても、恐い物は恐かったっけ。
 でも、ぎゃあ! とか声を上げて恐がっている時はまだ楽しいって気持ちがどこかにあった。
 本当に恐い時、本当に驚かされた時は口は開いてもなぜか声は出なかったなあ……

「……め……さ……」

 石段を登り切ったその時、不意にそんな声が聞こえてきた。はっきりとじゃないが、それは確かに声だった。
 聞こえてきたのはこの声だけじゃない。もっと多く、でもそれは人間の声のようにも聞こえるが獣の鳴き声のようにも聞こえる。
 僕は自然と身を屈め、足音を忍ばせながら声の方向に進んでいった。

 声は境内の裏側から聞こえる。何でこんな所から人の声が? でも、それは少し高い音だったからひょっとしたら猫の喧嘩かもしれない。
 とにかく、僕は恐怖と好奇心が入り乱れた心を抑え、境内の影からその裏手を覗いた。

「!」

 僕はその光景を見た瞬間、さっと再び境内の影に隠れて思わずしゃがみ込んだ。
 なんでこんな事が? どうして? こんな事を見ていいのだろうか?
 僕はこくん、と唾を飲み込みながらそう思った。

「やめなさい! ふざけないで!」

 そんな声が聞こえる。僕は耳を塞ぎたかった。
 この場から立ち去りたかった。小心の方は間違いなくそうさせようとしていた。しかし、好奇心と心のどこかの別働隊が別の行動を起こさせようとしていた。
 神社の前であった心の綱引きが一瞬、起きたが今度はあっという間にケリがついた。
 僕はふと、神社の境内を見た。境内は高床式の作りになっていて床下に容易にもぐり込む事が出来そう。
 僕は綱引きの勝者の求めるようにさっとその中にもぐり込んでいった。

「だから、拳銃出せよ。持ってるんだろ?」
「おもちゃじゃないのよ! あなた達、私が誰かわかってるの!」
「神社で女の子が倒れてるーって嘘を信じて出てきたバカな婦警ちゃんでしょ〜?」

 床下を忍者よろしく、進んで裏手のすぐそばに行った。床下からは数本の足しか見えない。
 しかし、その中の一対の足は交番にいる婦人警官の物だと言う事はわかった。紺色のスラックスにローファーのような革靴。あの足下は何となく見覚えがあった。
 他の足はミニスカートの裾と生足にサンダルやらショートパンツにスニーカー、だぶだぶ穴だらけのジーパン、作業ズボン等など。

 婦人警官が絡まれている――?

 その信じられない光景に僕はただ息を潜めて見ていた。

「とにかく、あなた達は早く帰りなさい! これ以上バカな真似をすると公務執行妨害で逮捕します!」

 たった一人だというのに婦人警官は強く厳しい調子。あの制服を着ると勇気とかが身に付くのかなあ……。

「うるせえ!」
「キャアッ!」

 乾いた打撃音の瞬間に悲鳴。それと同時にぼとっと床下のすぐ先に婦人警官独特のあの制帽が転がり落ちた。
 婦人警官の紺色のスラックスがふらふらっと動いた瞬間、その他の足が一斉に動き出した。

「何をっ! やめ……」
「おらぁ! 拳銃出せよ! 撃ってみろよ!」
「バカッ……あぐッ! うああっ!」

 足の動きだけを見ていると数人で寄ってたかって婦人警官の腹や顔を殴ったりしているように見えた。
 それを裏付けるように僕の耳にこびりつくように苦しげな女声が入ってくる。

「うっ! あうっ!」

 何度か殴られた婦人警官は突然、腹を抱えて背中を丸め、そのまま地面にしゃがみ込んだ。その瞬間、一瞬ちらりと苦しみに歪む顔が見えた。
 いつも交番で見かけるあの婦警さん――。
 そう思うと同時、絡んでいるいくつもの足が一斉に倒れ込んだ婦人警官に襲いかかった。

「ぎゃあっ! うああっ! やめ……ぐふっ! があっ! あぎゃあああっ!」

 足は婦人警官の腹や胸を踏みつけ、蹴り上げ、頭や顔も殴りつけたり蹴りつけた。
 彼女は反撃などしない、いや、できない。ただこの襲撃者達の靴やサンダルの底を全身に受けていた。
 襲撃者達は執拗に腹や顔面、頭を狙ってまるで踏みつけ、蹴っていた。
 誰かが頭をサッカーボールのように蹴り、誰かが空き缶のように腹を踏みつける。
 誰かが吸殻を揉み消すように顔を踏みつければ誰かが流れ着いた邪魔な流木を避けるように腹を蹴り上げる。
 その足の動きからは人間、いや、生き物を扱っているような調子はない。まさに物を踏みつけ、扱っているかのような扱いだった。

 ひどい。

 遊んでいる。そう、ゲームで楽しんでいるかのように時折リズムをつけたり、蹴り方を調整したりしている様子が見てとれた。
 目を背けたくなるような凄惨なリンチ。しかし、なぜか僕はその光景から目を背ける事ができず、食い入るように見ていた。
 床下の柱や床板がテレビの枠みたいに僕の視界を遮っていたせいもあってイマイチ、リアリティを感じられなかったのか。

「……やめ……なさ……や……め……あぐっ……」

 婦人警官の声が徐々に弱まっていく。強張っていた体からも力が抜けていくのもわかる。
 この目の前の非現実的な現実。しかし、僕にはなぜか何の感情も起きなかった。
 凄惨なリンチを繰り返す連中への怒り、恐怖、怯え、婦人警官への心配、こんな事が起きる社会への不安。全く何も起きずにただその様子をじっと見ていた。

 ひょっとすると、これが本当の恐怖なのかもしれない。

 婦人警官への集団リンチを見ながら僕はふと、そう思って唯一、心がずり動いた。
 
 どれだけの時間が経ったのか。
 物凄く長い時間だったかもしれない。
 境内の裏手に並ぶ足は動きを止めていた。僕の視線と同じ高さに紺色の制服に身を纏った婦人警官が倒れている。
 ぐったりとして、声も上げず、僅かに本能的に動く程度に動いて。

 立っているヤツの一人が彼女に馬乗りになり、そのベルトのバックルに手を掛け始めた。
 どうやら、それを外そうとしているらしい。普通の精神を持った人間ならば慌てていてもたついたりする所だが、あっさりとそれを外した。
 僅かに婦人警官がそれを遮ろうと手を動かしたように見えたが、襲撃者達には関係ないらしい。倒れ込む彼女からベルトを体から引きぬいた。

「見ろよ。拳銃に手錠に警棒まであるぜ!」
「婦警も結構使えるじゃん。こんないいもん持ってるなんてよ。ぱちっちゃえ」
「じゃあね、おバカな婦警ちゃん」

 そんな事を言い合って、ぺちゃっと婦人警官の顔にツバを吐きかけると何本もの足はいそいそとその場から走り去っていった。

「う……う…………」

 婦人警官の消えるような呻き声だけがそこに残った。その声も境内と周りの木々に吸収されて消え去っていた。
 しん、とした中に紺色の制服を着た婦人警官が転がっている。
 僕はその姿をじっと見ていた。そして、ズボンと下着の下のアレが膨らみ、僅かな痛みを僕に伝えている事に気づいた。

 そっと目を閉じて音を聞く。
 何も聞こえない。連中は帰ってくる様子はないようだった。

 僕はこくんと唾を飲み込んで縁の下から出て、恐る恐る倒れ込んだ婦人警官に歩み寄った。
 紺色のスラックス、婦人警官の活動服には無数の足跡や蹴り跡、そして、執拗に蹴り、踏みつけられた頭は……

「うっ」

 思わず目を背けたくなるほどに張れ上がり、ひしゃげ、潰れて「破壊」されていた。

「……け…………ん………………じ…………う………………け……ん…………じゅ…………う…………」

 その口からうわ言か呻き声のようにそんな声が漏れる。
 僕は彼女のそんな様子を見てはっと我に返った。
 冷静に呆然としている場合じゃない。警察、いや、救急車。
 反射的にシャツのポケットにある携帯電話を取り出した。そして、数字の「1」を押した瞬間、はたと指が止まった。

 何をしている。早く続きを押さないか。このままじゃ、この婦警さん死ぬぞ!

 僕の本能がそう叫ぶ。しかし、本来ならば抗う事の出来ないこの動物的本能の動きを食い止める力がもう一方から出ていた。

 何をしている。チャンスじゃないか。本物の婦人警官の制服が目の前に転がっているんだぞ。手に入れるチャンスだぞ。

 どう考えても悪魔の声。しかし、同時にそれは僕自身の声でもあった。
 携帯電話の「1」に親指を置いたままで始まる綱引き。ただ、どちらの側の力が勝つにしても時間がない。
 彼女を助けるのにも時間はかけられないし、このリンチの声を誰かが聞いているか限らない。それで通報されれば程なく警官がやって来る。
 人としてか、僕としてか――。

 僕はそっと親指を離して携帯電話を折り畳み、彼女の傍らにしゃがみ込んだ。そして、彼女の活動服のボタンに手を伸ばした。

 バタン!

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 僕は今までにないほど走って家に駆けこんだ。後ろ手に部屋のドアの鍵を掛けて乱れた息を徐々に整えていく。息が整うと同時にふと、僕の手元を見た。
 そこには紺色のスラックス、紺色の肩の白いワイシャツ、紺色の上着に丸い婦人警官の制帽があった。

「はあ……はあ……はあ……」

 乱れて浅く速い息が徐々に徐々に深く、遅い息になっていく。しかし、その息は酸素を求める息から体の中にたまった欲望の熱を吐き出すように変わっていった。
 僕はじっと制服を見つめ、すうっとそれを顔のそばに押しやった。

「はふぅ……すぅっ……」

 まだ足跡も生々しい紺色の上着。それを通して息をする。ついさっきまで元気でいた婦人警官の息吹を感じる事ができるような気がした。
 僕は靴を脱ぎ、そのままベッドへと向かった。そしてそこに座ると、ズボンのジッパーを開けた。
 ぶるん、と涎を垂らした僕自身が突き出た。僕ははあと一つ大きく息をつくと制帽をその先端に押し当てた。
 紺色のフェルト地の制帽に透明な粘液がつっと軌跡を描き、女性的な丸みの外輪を撫でる。

「はあ……」

 もう一つ息を吐く。制帽をそっと膝の上に置き、また上着を手にする。きらりと胸元には誇らしげに銀の土台に金の二本線が入った階級章が輝いている。
 その下のポケットに手が触れた瞬間、こつんと何かの塊を感じた。中を開けて塊を取り出す。それはこの制服の持ち主の警察手帳だった。
 開けてみると凛とした若い婦人警官のカラー写真がそこに貼り付けてあった。それはいつも交番で見かける、あの婦人警官だった。
 僕はそれにそっと一つ口付けをし、僕自身にも挨拶の口付けをした。
 それを左手に持ちかえ、空いた右手で上着の袖をつかみ、それで僕自身を包み込んだ。そして、制服に包んだ僕自身をゆっくりと丁寧に扱き始めた。

「はあ……ふ、婦警さん……」

 僕の中ではこの警察手帳の婦警さんが制帽を被って手コキをしてくれている。
 僕の視界の中にはこの婦警さんの顔と制帽と制服。僕自身を包み込む制服の腕が丁寧に優しく扱う。

「い……いいよ……ああ……婦警さんが……婦警さんが……」

 黒線の中に銀のラインが一本入った袖章と紺色の袖がいそいそと動く。

「……婦警さん……僕の為に……」

 そのゆっくりとした動き、勿体無さげに丁寧な扱い。婦警さんが僕に奉仕をしてくれている。制服姿で。僕の意のままに。
 僕自身はあっという間に涎が溢れて紺色の制服をそれで濡らしつつあった。
 紺色のそれが揺れ、手に持った手帳も、膝の上の制帽も一緒になって揺れている。
 まるでこの婦警さんが僕と一体化しているようだった。
 僕は手帳を持った左手でスラックスを持ち、それを顔に寄せた。

「んふう……ふうん……」

 大きなお尻を包み込む部分。そっとそれを舐める。別段味はしない。しかし、体の反応は正直で硬くのびた僕自身はさらに硬さと長さを増させた。
 今度は体勢を変えて婦警さんが69でお尻を僕に向けて手コキ。僕はタオルで顔を拭くようにお尻を顔に押し当てた。

「んっふっ……婦警……さん……あふ……気持ち…………いい……」

 顔も視界も全部紺色。婦人警官に包まれて僕は今まで生きていた中で一番幸せな時間を感じていた。
 そっとスラックスを僕の顔から離し、また警察手帳の婦警さんの顔を見て制帽を見下ろす。そして、僕自身を扱く手の動きを早めた。

「ああっ! いい! 婦警さん……いいよ……いい!」

 婦警さんが僕を一気に攻める。ぐちゃぐちゃぐちゃと僕自身が泡を吹きながら鳴く。
 制服の袖は僕自身の涎で色が変わり、すっかり僕に食いついて離れる様子を見せなかった。

「そんな強く……あっ! ふ、婦警さん……ああっ!」

 不意に僕の奥底から湧きあがる強い欲情。
 それを食いとめる限界が迫っていた。
 僕は僕自身の先端のターゲットを無意識に探した。そして、そこに警察手帳と制帽がロックオンされた。

「ああっ、婦警さん! その顔と……制帽に出すよ! だすよ! 婦警さあああんっ!!」

 僕がそう言った瞬間、僕自身の口から一気に白濁した僕が吹き出した。
 僕自身を包み込んでいる紺色の袖は勿論、その先にある制帽にも降り注いだ。
 紺色の制帽にべっとりかけられた白濁液。
 制帽の真正面から浴び、エンブレムや黒のリボンにも垂れ、釉薬の浮いた湯のみのような美しさを醸し出した。
 そして、制帽のそばに開いて待ち構えさせた警察手帳。
 その中にもべったりと白濁液がかけられて、凛とした婦警さんの顔がその下に沈んでいた。

 それから僕は気が遠くなるほどこの制服と手帳に出し続けた。
 今までやった一人エッチよりも遥かに量や濃さ、そして僕自身の回復力が強くなっていた。
 夢中で扱き、夢中で出して。
 紺色の婦人警官の制服は白濁液塗れになった。
 あの凛とした美しい制服が僕の子種で穢される。
 夢のような、いや、夢だった。夢心地の中でそれを感じているうちに僕はふつっと意識が落ちてそのままベッドの上に寝転がった。

 しばらくして、僕はパトカーのサイレンで目覚めた。
 夢?
 一瞬そう思った僕だったが、ベッドの下に乱雑に置かれた染みのついた婦人警官の制服が夢でない事を僕に教えていた。
 そして、手の中には婦警さんの顔写真が貼られた警察手帳があった。


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