モーニングコール


「ここは駐車禁止区域です。速やかに車を移動させてください」

 窓の外からスピーカー越しの女性の声が聞こえる。これがおれにとってのモーニングコール。
 朝何時までに起きなければならない、と言ったようなサラリーマン的束縛とは無縁の昼夜逆転人間にとっては定時でやって来る駐禁の取締りはいい目覚ましだ。
 
 それより何より。目覚まし時計ならその頭ぶん殴って終わるだけだが、このモーニングコールにはいいオプションがついている。

 窓からひょいと声の方を見る。道端には可愛らしいパトカーと紺色の制服に身を纏い、お堅い職業にしては可愛らしい制帽を被った婦人警官。
 女が纏う服の中でこれ以上なく凛々しく、そして可憐で欲情的な物。それが婦人警官の制服だ。見るだけでしっかりと体が反応してうずうずしてしまう。
 タイプの婦人警官だったら起き抜けでもヌケる。

 今日の婦人警官は少し幼さの残る顔をしている。まだ新人なのか。
 よく見ようと思ったが彼女はすぐにパトカーへ潜り込み、変わりに男の警官が出てきた。
 男の警官に用はねえ。
 そのままカーテンを閉め、ベッドの中にもぐり込むと目を閉じた。

 どれくらい時間が経ったか。空腹感に目を覚めさせられてベッドから起きあがった。
 そして大きく溜息を一つつくと寝癖で毛ばたきみたいな頭を掻いてベッドを抜け出し、すぐそばに脱ぎ捨てられているジーンズとシャツを手にした。

 適当に着替え、財布を持つと腹ごしらえの為にアパートを出る。
 その前にあのパトカーがまだ止まっている。辺りを見渡してみたが誰もいない。よくやるなあと思いつつ、そこを立ち去って目的地に足を向けた。

 しかし、その足も数歩で止まった。
 アパートから10mほど離れた斜向かいから不意に車が飛び出し、猛スピードで目の前を走り去っていったからだった。
 驚きと不快に足が止まる。悪態の一つでもつこうとしたが車はもう遥か彼方。
 気を取りなおして歩こうと思ったその時、ふとまだ車の熱気が残る方向を見た。

 何かはわからないが何かいる気配。子どもの頃、押入れの中や通った事のない脇道に感じたあの気配。
 見た事のない、凄い物があるんじゃないかという期待が昇華して起こる気配。すっかり忘れた感覚がまた鼻先から全身に伝わる。
 それを感じきった瞬間、食事に向いていた足先がその気配の方向へと向いた。

 気配はそこにある古いアパートにあった。今住んでいるアパートも古いがこっちはもっと古い。
 1階部分はもう長く誰も住んでないらしく、ベランダの窓ガラスが破れたままで放置されている。
 そんなベランダがいくつか続いたその真中の部屋で足が再び止まった。

 誰もいないはずなのにかすかな物音。それは猫のような、油の切れた蝶番が少しだけ動いたような、そんな音。
 見るとそこのベランダの戸だけ僅かに開いている。
 他はガラスが破れていても開いている事はないのに。
 辺りを見渡して誰もいないのを見るとベランダの手すりに手を掛け、そのベランダから部屋の中へと入って行った。

 部屋の中は荒れ放題。しかし、そんなのを気にするような状況ではなかった。
 1DKタイプの部屋の中には人間が2人いた。
 1人は台所の流し台のそばでうつ伏せに倒れている。
 警察官の制服を着たその男の周りには血溜まりがあり、その中でぴくりとも動かない。
 普通ならば悲鳴の一つでも上げて腰砕けになるところだがそうならなかった。残ったもう1人を見てそんな事を忘れてしまったのだ。

 もう1人。砕かれた携帯電話や無線機が散らばる床にそれはいた。
 後ろ手に手錠をかけられ、口にバンダナのような布できつく猿轡をされた女。
 服を全て肌蹴させられ、ブラを乱暴に引きずり上げさせられて形のいい乳房やへそが露になっている。
 それだけではない。
 スカートを剥ぎ取られ、パンストも破かれ、パンティも奪われて陰毛や秘所が剥き出しになっていた。
 そして、太腿、陰毛、股間と言った下半身が白濁液に塗れ、さらに股間から垂れる白濁液には一緒に鮮血もこぼれていた。

 後ろ手にされているせいで着ている服は完全に脱がされていない。
 見ると白いワイシャツや紺の上着。脱がされた紺色のスカートも捨てられている。そのそばにはあの独特の形をした制帽が天地逆になって転がっている。
 婦人警官がレイプされた。そう思うしかない状況。胸の鼓動が早まり、自分でも呼吸が少し荒くなっているなとわかった。

 婦人警官は俯いてすすり泣いていたが、他人の存在に気付くとぱっとこちらを見た。やはりまだ新人なのだろう。
 女の子にしては切りすぎと言えそうなショートカット。そんな彼女が潤んだ瞳と猿轡で喋れず唸るしかできないその声でこちらをじっと見つめた。
 それはどう見てもすがっている。助けを求めている。警察官が一般市民に。そんな事、言ってられないのだろう。
 とにかく彼女はじっとこちらを見てもぞもぞと動いた。

 こくっと喉が鳴る。そっと彼女に歩み寄った。何人の男に輪姦されたのか、むっと男の匂いが下から上へと上がった。
 ふと、婦人警官の顔を見る。目が合うと同時に僅かにびくっと震えてじりっと後ずさりをした。

 多分に彼女へは笑みを見せたんだと思う。頬の筋肉が上がり、口元が僅かに開いたように感じたからだった。
 そしてそっと優しく肌蹴たシャツを掴み、ゆっくりと彼女に着させた。ブラは上がったままだが、そんな事を気にせずに彼女の前身を白いシャツで覆い、ボタンを掛けていく。その時、きらっと胸の階級章が薄く輝いた。

 もう一つこくっと喉がなる。

 ボタンが全て掛け終ると今度はネクタイ。緩んでだらしなく下がっているネクタイを締めなおしてきゅっと喉もとに結び目を引き上げた。
 その上に紺色の上着を直す。これで一応は上半身は婦人警官になった。引きつり、泣きじゃくっていたその顔がほっとした僅かに緩んだ顔になった。

 しかし、すでにこの時点でジーパンの中では突き破らんばかりに塔が築かれ僅かな痛みを覚えていた。

 そばに捨てられている紺色のスカートを手にし、婦人警官の足に通した。
 恥ずかしさから抜け出たい一心かスムーズにスカートが通るように腰を揺らした。
 スカートの口が彼女の尻を抜けて腰にまで達した。シャツの裾を入れ、ホックを掛けるときゅっとベルトを締める。
 そして、そばに転がる制帽を手にし、そっと頭に被せた。婦人警官のできあがり。

 制帽が被せられる。それが全ての外れる号砲だった。

 婦人警官ができあがった瞬間、ふっと頭の中が真っ白になった。それと同時だった。
 体が勝手に婦人警官に向かって動き、正面から抱き締めて押し倒した。

 婦人警官の制服。今まで見る事しかできなかった制服。触る事などできもしなかった制服。
 それをこの手に、腕に。
 夢中で抱き締めて紺色の上着に覆われた背中を両手で強くさすった。頬に胸のボタンや階級章が当たり、僅かな冷たさを感じる。
 しかし、それもすぐに体温と同じくらいの温もりを持った。

 婦人警官はもぞもぞと振り解こうとするように蠢いた。抵抗するように首を左右に振る。
 被せた制帽が僅かにずれる。脱がしてはいけない。あの制帽がなければ婦人警官の魅力は半減する。
 ぽん、と軽く叩くように制帽を直させると制服の匂いをかいだ。少し埃っぽい匂いが付いているが生の布の匂いがした。

 婦人警官の制服を抱き締め、匂いや手触り、感触を楽しむ。婦人警官はまだじたじたともがいている。
 しかし、その動きで手の中や顔、全身で制服の感触を頼む事ができた。婦人警官の制服が全て自分の物。自分の婦人警官の制服。
 何をしてもいい。犯しても。そう思った瞬間、抱き締めていた右手がジーパンに伸び、そのジッパーを降ろしていた。

 そこから出てきた柱はまさに鉄柱のように固くなり、先端をぬるぬるした液体で湿らせている。
 それを婦人警官の紺色のスカートに押し当てた。
 紺色の布地が押し当てた部分だけ黒に近い深い紺色に変わる。
 婦人警官はさらに蠢きながら抵抗する。
 しかし、左手一本だけだが逃げないようにしっかりと抑えつけ、顔を制服に埋めさせた。
 制服の感触と温かみ。いつしか屹立した柱を右手で扱き出していた。写真や街中で、しかも遠巻きでしか見た事のない制服を抱き締めながらのオナニー。

 たまらなかった。

 夢中でスカートに先端を押しつけながら扱いた。すると、それほどそんなに激しく扱いたわけでもないのに下半身のどこからかこみ上げてくる物を感じた。
 こんなに早く?
 しかし時間の感覚がどうかしている自分。もう夢中で何度も強く扱いたのだろう。呼吸は荒くなり、喉の奥から意図しない声がこぼれる。
 婦人警官はまだ蠢いていた。


 婦人警官を抱き締める左腕を一瞬、緩めてすぐに彼女に馬乗りになるようにスカートの上に座った。
 そして柱の先端を婦人警官の胸元に向けて仕上げに柱を擦った。
 程なく、白濁液がぷしゃあっと勢い良く、そしておびただしい量噴出し、紺色の制服の上に飛び散った。
 主に胸元、丁度ポケットや階級章、袂の襟に飛び散り紺と白の美しいコントラストを描いた。胸のポケットの蓋や襟にねっとりと白い線が入り、金色のボタンを白く沈めた。胸に誇り高く輝く金と銀の階級章に新たに白が入り込んだ。その瞬間、婦人警官は再び声にならない嗚咽をこぼすように漏らした。

 夢は一瞬の事。夢は夢と言う。しかし、この夢は最後まで続いた。
 白濁液を吐き出した柱は一旦はふなっと軟化したが、その先端を制服や制帽に着けると何度も形状記憶合金のように固さが蘇った。
 その度に何度も扱き、何度も白濁液を噴出した。その飛び散る先は上着の肩章や右腕のエンブレム、ポケット、スカート、そして制帽のエンブレムやリボン。
 婦人警官の制服で婦人警官足る部分全てが白濁液に塗れた。婦人警官は弱々しく泣くだけで最後の方は蠢き召せずにそれを制服に受けていた。

 そして、もう出ても透明な粘性のある液しか出なくなった時に夢は覚めた。目の前には制服に幾筋もの白濁液の線や池を作った婦人警官がいた。
 婦人警官を、いや、婦人警官の制服を完全に犯し切った。
 垂れた柱をジーンズの中に仕舞いながら胸の中がすうっと爽快になると同時に気分のいい立ちくらみを感じた。





 腹ごしらえのラーメンを食い、コンビニで雑誌を立ち読みし、適当にいくつか買物をしてアパートに戻ってみるとおびただしいパトカーと警官とマスコミでアパートの周りは騒然となっていた。その中を掻き分け、部屋に戻るとごろんとベッドに横たわった。そして窓の外の聞いた事もないような喧騒を聞きながらそっと目を閉じた。味わった事もない心地よい疲労がすうっと眠りの世界へと誘っていった。

 翌日。朝刊に警察官が殺されて拳銃を奪われた事件が大きく載っていた。しかし、そんな事よりもその記事の片隅に視線が止まった。

「一緒に警邏中の巡査(20)が全治1ヶ月の重症を負った」
 
 それからどうなったかはわからない。日々の生活に追われ、不規則な生活を凌ぐので精一杯、自分に関わり合いのない事件などに関心を向ける事などなかった。
 ただ、気になった事はただ一つ。モーニングコールが毎日、目覚し時計のアラームに替わった事くらいだった。


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