きっかけはロングブーツ
「おお、久し振り〜。なーんや全然変わってないなあ」
今日は小学校6年の時の同窓会。
僕は冬の夜、集合場所のデパートの前にいた。そこには既に何人かの同級生の男がいる。所帯を持ってすっかり落ち着いたあいつ、ヤンチャ坊主をそのまま拡大したようなこいつ。
小学校の卒業以来15年近く。その間にどんな人生を歩んでいたのかその風体で何となくわかってくるからちょっと、可笑しい。
そんな彼らの目から僕を見ると当時と余り変わってないよう映ったらしい。本当は大きな事に目覚めて変わったのに。
僕はしばらく彼らと喋った。それは高校を出てこの街を出てから今までの寸断されたこの街の経歴を埋める作業だった。誰が結婚した、誰がどこに行った等など。
そんな中で彼らの一人、この回の幹事が携帯電話を開けた。
「……今バスに乗ったって。もうすぐ着くわ」
他に誰か来るん? 僕は彼に聞いた。
「男ばっかな訳ねーやろ。女子も半分くらい来るって」
そう言えば集まっているのは男ばかり。集合にちょっとだけ遅れて登場するのは合コンで女の子が自分を輝かせて見せる為の常套手段なんだけど。
そんな事を思いながらさらに喋っていると1台の路線バスがデパート前のバス停に止まった。
「ごめ〜ん! バス遅れてさー、最悪!」
そう言いながらバスから懐かしい顔の女の子が降りてくる。先陣切って降りて来たのは小学校の頃もリーダー格の女の子だった。そう言う所はどうなっても変わらないんだなあ。
しかし、先陣を切って降りてきた彼女以外、誰が降りてきたのかを僕は目視していなかった。
多分、頬の筋肉の盛り上がりの感覚からは笑顔を見せている。彼女達を僕の笑顔が迎えているはず。でも、その視線は彼女達の顔には向いていない。
視線の先は彼女達の足下に向いていた。そして、自然とそこにブーツが履かれた脚がないかを探していた。
この街を出て都会で僕はロングブーツの美しさや魅力に目覚めていた。
美しいシルエットのブーツや革の皺、光沢に艶を見ると無条件に欲情し、性的な欲求を感じてしまう。女性を見るとそんなブーツがないか、自然と探す性が僕には生まれていた。
例に漏れず、僕はバスから次々と降りる脚を見つめ続けた。今年流行のウェスタンブーツ、くしゅくしゅブーツ、スエードのブーツ……。様々な色や形のブーツがバスから降りてくる。しかし、殆ど僕の琴線に触れるような、素晴らしい形のブーツはない。
「あ、ひさしぶりじゃん! 全然変わってない〜!」
そんな時に先陣を切って降りた女の子が僕に話し掛けてきた。僕はちらっと視線を動かして彼女を見た。その目は珍獣を見つけたような興味に溢れている目に見える。
あ、うん。そっちも全然変わってないね。
僕が言うと彼女はははっとからっと笑った。
「あたしは変わってるって〜。相変わらず彼女とかいないんでしょ〜……ダメよ、そんな事じゃ! 今日誰かお持ち帰りしちゃいなよ!」
ずけずけとそんな事を言われた。僕はただ笑みを見せて頷くだけ。小学校の時もこいつとは一方的に突っ込まれる、こんなやり取りしかできなかったっけ。
その時、不意にバスのクラックションが鳴った。僕は反射的に音の方を見た。
その瞬間、ぐしゃっと心臓が握りつぶされたような衝撃を覚えた。それほどの強烈な胸の高鳴り、興奮だった。
僕の目に飛び込んできたもの。それは最後にバスを降りた女性の脚だった。その脚を包み込むロングブーツ。
ヒールはそれほど高くなく、また細くもない。きゅっと締まった足首からゆったりと優美な曲線を描く脹脛を完璧に包み込む黒革。スクエアトゥのそのつま先も美しい。リボンやベルトと言った装飾は全くの皆無。本当にシンプルなデザインの黒革のロングブーツ。アスファルトを踏む度に脹脛や足首に街灯の白色光に照らされた、艶っぽくも悩めかし輝きが浮かぶ。
思わず僕はそのブーツに見とれ、釘付けになった。
完璧なブーツ。
僕好みの完全無比な、美しいロングブーツ。きっと僕はこんなブーツを捜し求めていたんだと言えそうなブーツ。
同級生達は先陣を切って来た女の子達と軽い盛り上がりを見せて僕の視線がどうなっているかなど気にしていない。
彼ら、彼女らを気にする事なく僕はブーツを見つめて目で味わった。
その美しいブーツが履かれた脚はこっこっと独特の足音を響かせながらこちらに向かってくる。そして、集まった女の子達の後ろでぴたりと止まった。
僕は視線をブーツから上に上げていく。落ち着いた感じのグレーのコート、ベージュのマフラー。ナチュラルなブラウンにブリーチしたセミロングの髪。
「あ……なんだか……変わった?」
その子はクラスでもそれほど目立つ事のない、どちらかというとマイペースで物静かなタイプの子だった。
彼女は僕の視線に気付いたのか、僕の顔を見るとにこっと綿毛のような笑みをこちらに向けた。
全員が揃った所で場所を待ち合わせそばの居酒屋に移した。そこは座敷で鍋をいくつかの鍋を囲む形になっていた。
そんな場所で始まった宴会。結構な盛り上がりになった。しかし、僕はその中で上の空で適当に喋り、相槌を打つ事しかしなかった。
頭の中はあのブーツの事だけ。彼女が履いていた完璧なブーツ。その動きや美しさが頭から離れられないでいた。
あの艶っぽさだったら多分、本革なんだろうなあ。触ると独特の感触があるんだろうなあ。あのブーツに触りたいなあ。
彼女の方をちらっと見てみる。彼女は酎ハイを片手にほわんとした笑顔を見せて談笑している。
その笑顔の横顔から視線を下に流す。正座をして折り畳まれた脚。あの脚にあんな美しいブーツが履かれるんだ……。
周りに気付かれないように何度も何度も彼女の方をちらりちらりと見ながらビールを飲み続ける。
でもなあ……まさかあの子があんな綺麗なブーツを選んで履いているなんて。
小学校や中学校の時はそんなにファッションとか興味なさそうだったのになあ。いつもマイペースだったっけ。
いいセンスを持っていたんだな……あの時は埋没してたけどこうしてみるとあのブーツを履くのに相応しい女の子なんだなあ。
細過ぎず、また太過ぎず。適度に長い脚に適度な上背。まさにブーツを履く為に生まれてきたような女の子が彼女なのかもしれない。
あのブーツを履いたあの脚に――。
僕はそんな事を考えながらビールばかり飲んだ。すると、程なく尿意を感じるようになってきた。
トイレってどこだっけ?
僕は隣の友人に訊いてみた。
「ああ、入口のそばだよ」
少しふわふわする足取りで僕は座敷を出てトイレに向かった。廊下の床がひんやりと冷え、軽く、ほんの微量酔いを覚まさせる。
トイレは廊下を出てしばらく進んだ所、座敷の廊下に上がる玄関のすぐそばにあった。僕はその前を通ってトイレに向かおうとしたその時、足がふと、止まった。
玄関にある大きな下足入れ。その中に並ぶ数々の靴の中、一際目立って聳える靴があった。
黒革のロングブーツ。彼女が履いていたあのロングブーツが隅の方にあった。少し折れるように曲がってはいるがあの美しい革の艶っぽさやシルエットの残影は充分に感じられる。
僕は尿意を一瞬忘れ、そっと下足入れに近付き、彼女のロングブーツに手を伸ばした。
指先に触れるロングブーツの革の感触。脚が抜かれてから時間が経ち、ひんやりとしている。しかし、本革独特のあの手触り、冷たい中にも生物的な温もりを僅かに感じられた。
間近で見るロングブーツ。本革のロングブーツ。あの子のロングブーツ。完璧な、美しいロングブーツ。
僕の下半身は素直に反応している。頭の中で欲望が盛んに僕に囁く。
それを手にしろ。掴め。今しかないぞ。
欲望の声。それに歯止めをかける天使の声は……ない。
僕はそっとロングブーツの足首を掴むとそのままトイレに入った。
トイレに入ると小便器ではなく大便器の個室に入った。
ロングブーツを左手に持ったままそれを顔に寄せ、頬にぴとっとつける。冷たい感触はほんの一瞬。すぐに僕の火照りがブーツの革に移り、それ自体も人肌のようなぬくもりを帯びていく。それを感じると次はブーツを口元に。まずは挨拶のキス。つっと唇の先で軽くブーツに触れ、そして舐める。僕の頬で本皮特有の柔らかみのある感触。それを味わうたびに何とも言えないぞくっとした感覚が舌先から走る。
そのまま軽くブーツを舐めながら筒の口に向かう。脱がれてある程度の時間が経ち、汗の匂いはない。
しかし、その代わりに彼女自身の僅かな体臭とロングブーツの革の匂いが合わさった、なんとも言えぬ芳香が鼻を撫でた。
僕は夢中でそれを何度も嗅ぎ、ブーツの口を舐めた。そして、サイドのジッパーを降ろして筒を割り、中も舐めまわした。その舐める先は筒の内側から中敷に。
中を舐め尽くすと今度は僕のズボンのジッパーを降ろし、パンツから僕自身を引き出す。僕のそれはもう引っ張り出す時に痛みを感じるくらいに怒張し、口を天に向けていた。彼女のブーツを履いた脚を見た瞬間からもうこんな状態。
顔を出すと拘束から開放された開放感を満喫するようにそれは屹立した。そして、早く食べさせろと急いているようにもう涎を垂らしてぬらぬら輝いている。
こんな反応をするそれは初めてかもしれない。僕は首の根元を掴むと左手に持ったロングブーツに口を向けた。
ちょんと先端が着く。
そこからキャンパスに筆を走らせるようにゆっくりと滑らせる。筒の口から脹脛、足首に踵と粘液のシュプールが艶っぽく輝く黒革の上に描かれる。普通ならすぐに筆先の透明なインクは塗りきられてしまって線はそれほど引けない。
しかし、この魅力的なロングブーツを前にした筆からはサインペンのように無尽蔵にインクが染み出て、乾く事を知らず、何本もの線を長く黒革の上に描いた。
最初に感じていた尿意はもう頭にない。それに気付いたのと同時。根元にあった僕の右手がゆっくりと僕自身を扱き始めていた。
熱く、硬い鉄棒のようになった僕のそれ。涎を垂らし、彼女のロングブーツを淫らな分泌液で汚していく。こんな集まりで履いてくるこんなにも美しいロングブーツ。きっと彼女のお気に入りの、一張羅のロングブーツなのだろう。彼女の一番のお気に入り。彼女の好みや気持ちが入ったもの。それを僕が一人占めし、犯す。それはまるで彼女を犯すのと同じ――。
僕の胸は無条件に高鳴る。ゆっくりと扱いていた手が徐々に早まっていく。
先端から溢れる涎はどんどんと泡を吹いて溢れ、僕の手を、その口元がついているロングブーツを濡らしていった。
ちゅっ、ちゅく……
時折、涎で僕の先端から鳴き声がこぼれ、その度に黒革のロングブーツへと落ちていく。
もう彼女のロングブーツは僕の上の涎としたの涎、そしてにじみ出る汗にぐちゃぐちゃに濡れていた。
汚されている。
どう見てもそう見える。しかし、そんな僕の出す液体に汚されたロングブーツは蛍光灯の白色光にますます美しく、艶っぽく輝いてより一層魅力的に、淫らに見えた。
もう僕は止められない。
無言でロングブーツの感触を手と僕自身で感じながら扱いた。いつしか、扱く早さも最高速になっている。
はあ……はあ……はあ……
外に漏れない程度に欲情の吐息を口からこぼし、夢中で僕自身を扱く。手には魅力的にデコレートされた彼女のロングブーツ。その存在だけでも充分に欲情させる。
しかし、それだけじゃない。
ロングブーツを見ながら扱いているが、時折、ふと目を閉じる。するとこのロングブーツを履いた彼女の姿が浮かんだ。
今、僕はロングブーツに扱いている。いや、それだけじゃない。彼女のロングブーツに扱いている。いやいや、彼女の脚に扱いている――。
ロングブーツを握る手の力が強まると同時に僕自身を扱く手にも力が入り、スピードも上がる。
喉の奥からこぼれる息。つい出てしまいそうになる声を抑えて扱く。
扱く動きの中で潤滑油はどんどんと溢れ、気持ちいいと言う感覚を頭へと送り続けさせた。
激しい扱きの動きと共に足首を掴まれたロングブーツも揺れ、僕の動きに合わせるように動いた。
僕の中でロングブーツと僕が一体化している。女性を抱いて一緒に動くセックスのような感覚。
僕にとってのこの自慰は今までしてきた自慰とは違う、もっと激しく、もっと興奮する、そしてもっと快楽的な自慰になっていた。その原因は――。
とにかく夢中で、ただ夢中で僕自身を扱き、ロングブーツを汚し続けた。
これ以上になく激しい自慰。このまま頭も全部壊れてしまうのではないかと思うほど体の全ての機関が敏感になり、働いた。
もう、来る。
完全な興奮状態の中で何かがこみ上げてくる感触が下半身の奥底から湧き、もう出る、と我慢の限界を示す信号が頭の中で走った。
あっ……ふうっ……
喉の奥からそんな声と息が無意識に漏れたと同時、先端から白い白濁液が噴出した。
普通の自慰なら出ると言う表現で収まるが、今のこれはそんな物ではなくまさに吹き出る。
ぷしゃあっと言う音と共に僕の子種が飛び散り、黒革のロングブーツを上に踊り、その中にも進入した。
優美なシルエットの黒革のロングブーツの上に白濁液がべちゃべちゃと飛び散り、今までになく淫らで、無残な姿を僕に曝す。
その姿を見た僕の中にすうっと清涼な風が流れた。何の風かはわからないが、気持ちいいと言う感覚を越えた清々しさ、達成感が湧いているのは感じられた。
しかし、同時に物足りなさも感じていた。
僕の大好きな、一番美しいロングブーツを犯したのに。やりたい事をやりきったのに物足りなさ、いやそれは空しさに近い感覚でもあるようだった。
美しい。確かに美しい。何て美しいんだろう。このブーツにはこの姿が一番似合う。いや、これに彼女の脚が入っていたら。彼女が欠けた状態ではこのブーツの美しさは完成しない。
僕はそのロングブーツをじっと見つめていた。
そして、その時の中で自然とぽつり、彼女の名前を一度呟いていた。
しばらくして。
僕はトイレを出るとロングブーツを元に戻して再び飲み会の席に戻った。
長かったトイレを訝しげに思うヤツがいるかと思ったが全く皆無。みんな適度に酒が回っていて誰がいて誰がいないか把握しきっていないようだった。
そんな中で決めた。僕は一つの決心を持ってそっとビール瓶を持ち、席を移った。
飲んでる?
優しく笑顔でそう話しかけてその人の隣にそっと座った。
「あ、うん……そっちは?」
僕が話し掛けた人。あのロングブーツを履いていた彼女がほんのりと桜色に染めた顔をにっこりと綻ばさせて僕を見た。
あのロングブーツ。それを履くあの脚。そして、その笑顔。
全部を僕の物にしたい。僕に向けさせたい。
初めてそんな思いをさせ、初めてそれを果そうとする。
僕は初めて一人の女の子に向かって動き出した。
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